テラーノベル
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夕暮れ時の空が赤く染まり始め、校舎内の電気が徐々に灯されていく。文化部室棟は比較的静かで、特に今日は吹奏楽部の練習もないようだった。
「ここやったら大丈夫やと思うわ」
シャオロンが鍵を開けたのは、演劇部の予備倉庫になっている小部屋だった。普段はほとんど使われていない。
「すごいですね、こんな部屋知ってたんですか?」
「まあ、一年の時に偶然見つけてん。誰も来ぇへんし、静かに話すにはちょうどええやろ」
倉庫とはいえ、中は整理されていて意外と居心地が良い。古い椅子二つと小さなテーブルがあり、壁際には衣装ケースが積まれていた。
「さて、教科書見せてみ?」
シャオロンがショッピのノートを覗き込んだ時、二人の距離が一気に縮まった。
「……ここの証明問題なんですけど」
ショッピは平静を装いながら、ペンでページを指し示した。
「角度の求め方がよく分からなくて」
「ふむふむ……ああ、これな。確かに難しいところや」
シャオロンは膝をつき、解説を始める。その真剣な表情に、ショッピはつい見惚れてしまった。
「おい、聞いとるか?」
「あ、はい!もちろん」
慌てて意識を引き戻す。
「まず図を描いてみて……この補助線を入れてみたらどうやろ」
熱心に説明するシャオロンの横顔は、普段の元気な印象とは違い、とても優しく見える。ショッピはつい言葉を失い、その姿に見入ってしまう。
「ショッピ?どうしたん?」
突然名前を呼ばれて、ハッとする。
「いえ、ちゃんと聞いてますよ」
そう言ってシャオロンの方を見ると、逆光の中で琥珀色の瞳が輝いているように見えた。
「あ、あの……」
ショッピは意を決して、椅子から半歩シャオロンに近づいた。
「シャオさんの髪、夕陽で綺麗ですね」
予想外の一言に、シャオロンは思わず笑ってしまう。
「なんや急に!今勉強してる最中やろ!」
「でも……本当に綺麗だから」
ショッピの真っ直ぐな眼差しに、シャオロンは言葉に詰まる。
「……ありがとう」
一瞬の沈黙。そして、どちらからともなく二人の距離がさらに縮まっていく。
「なあ、本当にここでいいんですか?」
「何がや?」
「こうやって、誰にもバレずに二人でいられて……」
シャオロンは小さく溜息をついた。
「せやな……正直言うと、こうして二人っきりでいられるのは嬉しいわ」
初めて聞く素直な気持ちに、ショッピの胸が高鳴る。
「でも、やっぱり怖いんや。もしバレたら……みんなにどう思われるかとか」
その声には不安が滲んでいた。
ショッピは思わずシャオロンの手に自分の手を重ねた。
「大丈夫です。僕がずっと守りますから」
その言葉は嘘ではなく、本心だった。
「ショッピ……」
シャオロンの瞳が潤む。
「お前、ほんまに……」
そして二人の影が、古い木製の床に長く伸びていった——夕日が完全に落ちるまで、まだ少し時間がある。
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