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翌日、朝の小鳥が鳴き始めた頃に白夜(びゃくや)が勢いよく他の兄弟神の部屋の戸を開けて、大声で叩き起している音が聞こえた。ドタドタ、バタバタと廊下を走る音と、ぎゃーぎゃーと揉める騒がしい中、部屋の前から紅(くれない)が声をかけた。

「おはよう静璃(しずり)、開けてもいいかい?」「はい、紅様。」

静璃が返事を返すとすっと襖が開き、紅が顔を覗かせた。後ろでのそのそと部屋から出てくる他の兄弟神たちが見える。寝相が悪いのか、髪と着物がかなり乱れている。

「すまないね、騒がしい連中で…気にしないでくれ。」

静璃の視線に気づいた紅が、申し訳なさそうに言った。静璃が慌てて視線を戻し、いえ…と小さく言った。

「身支度ができたら、大広間に来てくれ。」

「はい、すぐに参ります。」

静璃はすぐに顔を洗い髪を結い、身支度を整えた。部屋を出ようと襖に手をかけた時、不意に部屋の隅の鏡が目に入った。静璃はゆっくりと鏡の前に移動し、写っている顔を眺めた。鏡に写っているのは間違いなくいつも通りの自分だった。あの夢の女の顔ではない。静璃は短いため息をつき、自分の頬をパチンと両手で叩いて喝を入れた。

(バカバカしい…そんなわけないでしょ。)

鏡を覗いて少しほっとしている自分に呆れながら、部屋を出た。


静璃が大広間に向かうと、兄弟神たちは朝餉(あさげ)を食べていた。綺麗に盛られたすごく美味しそうな朝餉が、七膳揃えられている。

「やぁ静璃。」

紅が軽く手をあげ挨拶すると、他の兄弟神たちも静璃に気付き挨拶した。

「おはようございます、兄弟神様。」

静璃はぺこりと頭を下げると、大広間の端の方へ座った。その様子を見て桃(もも)が首を傾げながら言った。

「静璃さんは朝餉食べないの??」

「え…。」

静璃は驚いて目を開いた。ただでさえ居候させていただいている身の上で、神と共に食事をするなんてとてもおこがましい。そう思っていたから、桃に言われたことに驚きを隠せなかった。

「い、いえ私は大丈夫です。…神様と共に食事をするなんておこがましいから…。」

「そんなこと言わずに一緒に食べよーよ!僕みんなと食べたい!」

桃が無邪気に笑うと、紅もにこりと優しい笑顔を向けて言った。

「そうだな。みんなで食べた方がより美味しい。それに、今日は森へ行くからちゃんと食べておいた方がいい。遠慮せずに食べなさい。」

静璃は少し頬が赤くなるのを感じた。こんなこと、今まで誰にも言われたことは無かった。

「…ありがとうございます。」

おずおずと空いた膳の所へ座り、いただきますと小声で呟いた。一口食べると、ふわりと心が温まった気がした。

「…とても美味しいです。」

静璃の顔から自然と笑顔がこぼれた。それを見て兄弟神たちもにこりと優しく笑った。



朝餉を食べ終え、紅は静璃に尋ねた。

「静璃、君の腕についている痣や攫った相手について何か知っていることはあるかい?どんな些細なことでもいい。教えてくれないか?」

静璃は少し考えたあと、申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい、痣のことについては何も…。気がついたらできていたので…。」

紅はそうか…と顎に手を当てた。静璃は夢のことを思い出して、口を開いた。

「関係のあることかわからないのですが…最近同じ夢を見るのです。」

「夢?」

白夜が聞き返した。静璃はこくりと頷き、繰り返し見る夢と昨日見た夢のことを兄弟神たちに話した。

「轟(とどろき)、か…聞いたことねぇ名前だな。」

炎(えん)が腕を組みながら言った。

「私もだ。私たちより前にいた古い神なのかもしれないな。」

白夜もうーんと考えながら炎に賛同した。

「昨日の夢に出てきたのは百足の化物だったなら、きっとそれが今回の事件の犯人だね。」

桃も珍しく真剣に考えている。

「華世(かよ)っていう名前と静璃にそっくりな女については何か知らないのか?」

蛛(くも)が静璃に尋ねると、静璃は申し訳なさそうに首を横に振った。紅はそうか、と頷いた。「今のところわかっているのは、相手は百足の姿をした邪神だということ、邪神の名前は轟ということ、轟と静璃には何か関係があるということだ。」

紅は立ち上がって静璃に礼を言った。

「ありがとう静璃。また何かあったら教えてくれ。」

静璃はぺこりとお辞儀をした。

「では、書妖(しょよう)の言っていた森の妖に話を聞きに行こう。静璃も連れて行く。」

紅が言った言葉に蒼(あおい)が驚いて口を開いた。

「…連れて行くのは危険。」

紅はわかっている、と蒼をなだめた。

「もちろん危険なのは重々承知だ。だが相手はいつ来るかわからない。神社に置いていくよりも私たちの手の届くところにいた方が護れる確率は上がる。」

紅は兄弟神たちを納得させた。そして静璃に向き直り、念を押して言い聞かせた。

「いいかい静璃、今から行く森は妖が多いとても危険なところだ。少しでも異変を感じたらすぐ私たちに言ってくれ。あと私たちから絶対に離れないこと。いいね?」

静璃がはい。と短く応えると、紅はよしと頷いた。

「では行こう。」

兄弟神一行は東の森へ向かった。


東の森の入口に着くと、書妖が言っていた大きな古びた鳥居が見えた。

「あれだな。」

一行が鳥居の中に足を踏み入れると、辺りの空気ががらりと変化した。静璃は思わず息を飲んだ。鳥居の先にある暗い森から生暖かくぬるりとした風が吹いてくる。兄弟神たちも少し顔をしかめた。

「瘴気(しょうき)がたちこめているな…。長居は良くない。」

白夜が辺りを見渡しながら呟いた。

「さっさと終わらせるぞ。」

蛛が気だるげに言った。

「静璃、大丈夫かい?」

顔が強ばっている静璃を見かねて紅が声をかけた。静璃ははっとし、心配かけまいと慌てて返事をした。

「だ、大丈夫です…!」

「無理しちゃだめだよ?」

桃が静璃の顔を心配そうに覗き込んだ。静璃が黙ってこくりと頷くと、紅と桃はまだ心配そうな顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。書妖に言われた通り進んで行くと、だんだんと妖の気配も増えていった。そこらの木の影や草むら、洞穴などの暗がりから小物の妖が兄弟神たちを見ている。ひそひそと小声で話してはけけけと笑い、不気味に目を光らせながら静璃を見つめていた。

(あれが妖……。)

静璃は時折視界に入る妖たちを気にしながらできるだけ目を合わせないようにしていた。

「………静璃。大丈夫、奴らは僕たちに近づけない。」

横から蒼が静璃の耳に呟いた。背に手をまわし、はぐれないように傍に寄った。

「…離れてはいけないよ。」

「…ありがとうございます…。」

静璃は小さくお礼を言い、兄弟神の後ろを離れないようにぴったりとついて歩いた。蒼が影をギロリと睨むと、妖たちはびくりと身体を震わせて、慌ててざわざわと虫のように去っていった。さらに森の奥へ進んでいくと、広く開けた場所に出た。真ん中に大きく立派な木がそびえ立っていた。

「どうやら無事に覚が棲む場所にたどり着いたようだな。」

紅が大樹を見上げながら言った。

「僅かに妖の気配がする。ここに居るのは間違いない。とにかく、話をしてみよう。」

「話がわかるやつだといいけどな。」

炎が眉間に皺を寄せながら目を細めた。

「では慎重にーー。」

「覚!覚という妖はおるか!」

紅の言葉を遮って、白夜が大声で叫んだ。白夜の隣りにいた桃と蒼と静璃は慌てて耳を塞ぎ、紅と蛛と炎はため息をついた。森に白夜の声が響き渡り、木々を揺らしていた。すると、たちまち大樹の周りが薄い霧に覆われ、妖の気配が一層濃くなった。

「静璃、私の後ろへ隠れていなさい。」

紅は静璃を自分の後ろへ隠し、妖に目を付けられないようにした。

「…おいでなすった。」

蛛が声を落として呟いた。

神のまにまに仰せのままに〜大百足編〜

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