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「エートワール様、ちょっと、エトワール様ってば!」
「うぅ……まだ寝ていたい」
「子供か!」
ぐるんと、視界が一回転し、私はベッドの上から転がり落ちた。その際、頭を強く打ったのか、目の前には星が散っている。
「もう星流祭も終わったんだから、しゃんとしなさい。しゃんと」
「リュシオルは私のお母さんじゃないのにぃ……」
リュシオルは、私が頭を強打したにも関わらず、気にせず私の顔を見つめてくる。私が立ち上がらないでいると、部屋のカーテンを開けたり、掃除したりと私が起きるまでの時間を有意義に使っていた。
さすがと言えばさすがで、リュシオルらしい。
私はそんなリュシオルを床に寝転びながら見ていると、リュシオルと目が合い、彼女は呆れたようにため息をつき額に手をやってやれやれと首を振る。
「聖女様が床の上で寝転がっているなんて……」
「そういうときだけ、聖女扱いするのどうかと思うけど!」
「でも、女の子が……男の子だって、そんな床に転がったまま何てこと無いでしょ。それに、お腹冷えるわよ」
と、リュシオルは私に手を差し伸べてきた。その手を取り、私は立ち上がる。すると、ふわりと彼女のメイド服から香水の香りが漂ってきた。
それは甘くなく、スッキリとした柑橘系の爽やかな匂いだった。
「香水変えた?」
「よく分かったわね。ちょっと給料で買っちゃった」
「メイドなのに?」
そう私が言えば、メイドなのには余計よ。とリュシオルは私の額をこついた。
痛っと、声が漏れたが、リュシオルの耳には入っていなかったようで、彼女は食事の準備をしてくるからね。と部屋を出て行ってしまった。
私は、部屋の中に一人取り残されたので、ひとまずベッドに戻ることにし、勢いよくベッドに飛び込んだ。ばふんと私の身体がベッドに沈む。そうして、天蓋付きのベッドの天井を仰ぎながら、昨夜までのお祭り気分はもう何処かに行ってしまったんだと、改めて思った。
「はあ……リュシオルの言うとおり、星流祭は終わっちゃったんだな」
結局あの後、星栞は探さず帰ってきて、アルベドにお姫様だっこされて聖女殿までついたのだけど、途中で満月を見てアルベドの瞳みたいとこぼしたとき、アルベドがデレたのか何なのか……いや、デレて吃驚して危うく落ちかけたのはコレまでの中で一番命の危機を感じた瞬間だった。
だって、本当のこと言っただけなのに、それで冷静さ失って魔法がきれて地上へ落ちかけるとか考えられない。魔法は、イメージや魔力不足になったら発動できなくなるらしいけど、いえば、感情にも大きく左右されるようで、感情が激しく揺さぶられたときは魔法が言うことを聞かないらしい。まあ、心の変化というか、心の表れというか。
そんな風に、落ちかけて私は命からがら帰ってきたわけだが、アルベドは私を聖女殿に送り届けた後お休みの一言だけ残して消えてしまった。
聖女殿から、彼の家まで結構な距離がある為、私に暗い夜道を一人で歩かせるのは危険だからと言ったくせに、大丈夫だろうかと心配になった。この世界には、スマホとか電話とか気軽に連絡を取り合えるものがないから、彼の安否が気になって仕方がない。
でもまあ、アルベドだから大丈夫かと思うところもあって、私はそれ以上考えないことにした。
(攻略キャラが死ぬわけないしね……)
そんな風に考えて、全攻略キャラの好感度が良い感じに上がってきた……数名は後数%、数十%と言うところまで着ており、いよいよ誰か決めなければならないと思い始めた。
星流祭の時も思ったけど、私はまだ誰にするか決めていない。あれやこれや理由を付けて、この人はダメ、この人もダメと言ってきた。
リュシオルにその事を話せば「リース様いったくでしょ」何て言われたが、それも気まずい。私は、攻略のことを考えると気が滅入りそうだったため、気分を入れ替えるために部屋の窓付近まで歩くことにした。ここから、綺麗な景色が見えるんだということを思い出したからだ。
(まあ、庭にはえているのはオレンジの木だったけど……)
そんな事を思いながら、窓から外を見るとやはり、目に飛び込んできたのはオレンジの木で太陽の光を凝縮したような実を付けた木が、青々と茂っている。その光景を見て、ふと翠色……翡翠色の瞳をした自分の護衛のことが頭に浮かび、後で会いに行ってあげようと思っていると、窓の外、下の方でリュシオルとルーメンさんが話しているのを見つけた。
ルーメンさんは、リースの補佐官だし忙しい人なのに如何したのだろうと、私が窓を開けてみていると、下にいたルーメンさんとばっちり目が合いにこりと微笑まれた。
「あ、どうも、ルーメンさん、おはようございます」
「おはようございます。聖女様、危ないですからあまり身を乗り出さないでください」
と、注意されてしまった。確かに、ここは二階だけど下は地面だ。落ちたら怪我するかもしれない。
私は、すみませんと謝って、部屋に戻る事にした。にしても、あの様子じゃ私に用事があったような顔をしていたし、下に降りた方が良さそうだと思った。
部屋に戻れば、先ほどまでの憂鬱だった気持ちが嘘のように晴れていて、やっぱり気分転換は大事だと改めて思った。
(まあ、色々考えても仕方ないことだよね……)
そう思い、私は部屋のドアを開けて下に降りることにした。螺旋の階段を駆け下りて、玄関まで行くと先ほどまで庭にいたはずのルーメンさんとリュシオルがいた。
彼らは私に気づくと少し驚いたような表情をし、私を二度見した。
「え、えっと、私なんかへ……」
「エトワール様!」
そう、声を上げたのはリュシオルだった。
リュシオルはこちらにずんずんと近付いてくると私の手を引っ張って階段の下まで連れて行くと、コソッと耳打ちをした。
「ちょちょちょ、っとリュシオル何!?」
「何ってそれ、パジャマよ。なんで、パジャマで出てきたのよ! ダメでしょう!」
と言われてしまった。いや、だって、寝起きだし……と思いつつも確かに、ラフな格好過ぎると反省して、素直にごめんなさいと言うと許してくれたのか、はあとため息をつかれただけだった。
そして、リュシオルはちょっと待ってなさい。と言われ、それからすぐに戻ってき、私に上着を貸してくれた。
私は取り敢えず、お礼を言いつつルーメンさんは何のようできたのかとリュシオルに聞けば、貴方に会いに来たらしいわよ。とだけ言い、ルーメンさんの方を向いた。
「聖女様」
「あ、ごめんなさい。お待たせしちゃって……えと、私に用があった来たんですか? よね」
「はい、用事というか、お願いをちょっと」
と、ルーメンさんは何やらいいにくそうに話を切り出した。
彼の顔が深刻そうに見えて私は思わず固唾をのむ、何を言われるのかと身構えていると、こちらの様子に気がついたのかルーメンさんは慌てて両手と頭を横に振った。
「そ、そんな深刻な話……ではないので。多分」
多分と付け加えるところ、信用出来ないのだが……と思いつつ、私も一旦冷静になることにした。
コレでは話が進まないと思うから。
「それで、お願いとは?」
「はい……数週間後に、リース殿下の誕生日があるんですが、そこで彼のダンスのパートナーになって欲しい……と、リース殿下が私に言ってくるようにと」
「ダンスのパートナー?」
「はい……自分で言えよって話だよな」
ぼそりと、ルーメンさんは最後何か呟いた気がするが、私には聞き取れず私は目をぱちくりさせながらルーメンさんを見た。ルーメンさんも困ったような表情をしており、私は助けを求めるべくリュシオルを見た。リュシオルは、フフっと笑うばかりだった。
(ダンスのパートナー!? 私が、リース様の!? って、中身は元彼だった……って、私ダンスなんて一度も踊ったことない!)
「あ、あの、私ダンス踊ったことなくて……」
「ですよね……」
ルーメンさんは、知っていましたと言わんばかりの顔をして私を見ていた。
いや、分かっているんなら何で。というか、リースもリースで知っていただろうと私は言いたくなったが、ここに本人はいないし、本人は補佐官を通してじゃないと私に言えなかったみたいだし……いや、他に理由があったのかも知れないけど。忙しい人だから。
そんな風に自分を納得させてから、再びルーメンさんを見ると、ルーメンさんは私に心配だという顔を向けてきていた。そうして、また何か思い出したかのようにポンと手を叩く。
「ああ、それと……本当を先に言うつもりだったんですが。西の方で魔物が大量発生しているらしく、村人が次々に失踪していると。その調査に殿下と聖女様で向かって欲しいと」
「調査……? というか、リース……殿下と私……?」
そりゃ、二人だけじゃないだろうけど、それでも何故リースが? と疑問を拭いきれずにいると、ルーメンさんは皇帝の指示とだけ伝え再び私を見た。
「どうやら、災厄の前兆とヘウンデウン教が関わっているらしくて……」