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そしてその時、強い衝撃が腹部に走ったのです。それも腹部がえぐれると思ってしまうほどでした。その衝撃により、私は大胆に尻もちをついてしまいました。

「いい加減、なさい……こうちゃん」

首に手を当て、苦しそうに呼吸をなさる菊さんを見て、ようやく、己がなにをしたのかと、我にかえりました。

「あ、あ……」

謝罪の言葉を述べようと、口はパクパクと動きますが、どうにも声が出ず、頭が真っ白になって、ぐにゃりと菊さんの顔も歪んで見えて、私は己のした大罪に絶望しました。

そんな私を察してか、菊さんは荒い息遣いで私の頬をゆっくり優しく、撫でました。

「大丈夫。私のこの体は国の影響を受けますが、私の体がこの国に悪い影響を及ぼすことはありませんから……だから、あなたは何の罪にも問われない。だから安心なさい。私は丈夫です。そう簡単に、倒れやしません。」

「あ、ああ……」

「もう、苦しみは止まりました。息もすこぶるできます。あなたの力強い痕も、もうありません。……人ではありませんから。」

「あ……」

「だから、このまま忘れてしまってください。あなたの心の中にあるのは、ただの国という存在だけ。菊でも、爺でもない。ただの国が生きているだけだと思って生きていきなさい。私は大丈夫だから。」

そして、菊さんは優しくゆっくり笑って、私の耳元に口を近づけて、こうおっしゃいました。

「……ですが、誰かを傷つけた時の苦しみだけは忘れてはなりません。それしかもう、解決のしようがないと思ったとしても、振り下ろす手を一旦止めて。この世に解決しないことはありません。ふと瞬間に、あっと解決する糸口が見つかるものですから。」

ぐっと、私の目に、菊さんの綺麗な賢そうな黒い瞳が映り込みました。

「それでも、どうしても誰かを、本当に誰だって構わない。父、母、兄弟、友人、親戚、妻、子供、知り合い、誰だっていい。どうしても誰かを、あなたが大切だと思う誰かを傷つける必要があるなら……」

菊さんは私の襟を力強く引っ張って、声を牽制するように低くして、

「それ相応の理由と覚悟をもちなさい。……無駄な、後悔のない、ように。」

とおっしゃいました。

その言葉を聞いて、私はみるみるうちに力が抜けていって、もう何と申したらいいのかわからず、ついには涙も溢れ出てしまいました。

「……こうちゃん……幸太郎。泣くのはおよしなさい。桜といくのもとへ戻りましょう。ずっと、その調子では要らぬ心配をかけてしまいますから、もう、泣くのはおよしなさい。」

ああ、どうして、どうして!

あなたは私に優しくしてくださるのですか? 私によくしてくださるのですか?

私はあなたの心ほしさに、あなたを傷つけたというのに!

なぜ、なぜあなたは、そんな私にいつも通り、優しいあなたで接してくださるのですか?

なぜ、なぜ、なぜ?


……なぜ?


「……それはですね」

まるで心の中を読んだかのように、菊さんは少し切なそうに微笑んで、私を静かに見下ろしました。

「私が、“国”、だからですよ。」

と、お菓子などを両手いっぱいに持って、その場を離れてしまいました。

私は、ふと、菊さんが言った『国だから』という言葉が妙に胸に引っかかって、しばらくの間、その場を動くことができませんでした。考えることもうまくできなくて、ただひたすらに、この鮮やかだった恋心が、禍々しい邪念に近いようなものへと変化していたのだと突きつけられたのです。

私は何を求め、あなたを欲していたのでしょうか。

私はあなたの何を、知っていたのでしょうか。あなたのことをわかってやれたでしょうか。

あなたが抱える問題も、国民も、景気も、責任も、経済も、やり方も、それらの重荷を私ごときが背負うことができたでしょうか。

あなたの見る世界は私たちと比べて、

てんでまるで違っているのに、

私はあなたのどこを見て、あなたの隣に立てるなどと妄言に浸ったのでしょうか。

何も知らない若造が、 小僧が、 世界を、 語れるでしょうか。

私には何が、できたでしょうか。

いくと桜さんの元へ戻った菊さんはいつも通りに振る舞ってはいたけれど、帰るその瞬間まで



私の方はけして見てはくれませんでした。

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