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四月三十日。ヤコは旅行券が当たったので、岐阜県に旅行に行った。田舎の景色を楽しんでいた時、大きな日本屋敷を見つけた。外壁で囲まれた、一軒家が五軒以上入る広い土地。
「大きいお屋敷」
ヤコが呟くと、ネウロはニヤリ、と笑う。
「謎の匂いがする」
ネウロとヤコが屋敷を見上げて歩いていると、橙色の着物に黒い髪の女性が屋敷の前を掃除していた。女性は、手に持っていた篇帯ではなく、ヤコたちの方を見た。
「観光でいらしたんですか?新聞にお名前が載っていました
よ。女子高生探偵のヤコ先生。こんな田舎までどうも」
女性は、ヤコよりも顔立ちや身長は幼いが、鈴が転がるよう
な高い声と綺麗な立ち姿をしていた。
「あぁ、どうも⋯」
ネウロは屋敷を相変わらず見つめ、ヤコは少し困ったように愛
想笑いを浮かべて頭の後ろを掻く。
すると、屋敷の中から悲鳴が重なる。男二人、女一人。
掃除をしていた女性は、箒帚を捨てて屋敷に走って行った。
「旦那様!奥方様!
ご子息様!」
女性の呼び方からして、女性はこの家の召し使いのようだ。
ネウロとヤコ、召し使い。父親、母親、長男。六人が見下ろすのは、玄関に俯せて倒れる次男。次男の頭部には、打ち刀が刺さっており、頭部からは血留りができる程出血している。
「ご子息様!え、えぇと、救急車?!警察、?!」
召し使いは、混乱していたが、ここ、滝澤家の人間の中で一番冷静でいたことに、ネウロとヤコは少しだけ疑問を抱いた。しかし、当然だが、ネウロにとっては目の前のの事件の方が美味しく写る。ネウロは胡散臭い笑みを浮かべると、ヤコの頭に手を強く置く。
「ご安心下さい。ここには、あの有名なな女子高生、ヤコ先生がいらっしゃいますから!」
ヤコは目を細めて無理やり笑顔を作った。
「ヤコ先生は今から現場を観察するので、皆さん客間
へお集り下さい」
父親、母親、長男、召し使いは、着物の袖を揺らしながら木の板を踏んで客間へ歩いて行く。ヤコはネウロにこっそりと耳打ちした。
「これって、やっぱり殺人なのかな⋯」
ネウロは、魔界の凝視虫(イビル・フライデー)を出して屋敷に
蔓延らせた。
「そう思いたくないのなら、滝澤家の人間観察でもして来たら良い」
ヤコは少し考えたあと、客間へ走って行った。ヤコは四人を観
察し始めた。
まずは父親。年齢は五十代〜六十代くらい。髪は少し自髪が混
ざっており、長さは項。灰色の看物に仏頂面。多くは語る
ようには見えない。
次は母親。年齢は五十代くらいの厚化粧。気の強そうな厳しい顔付き。薄紫色の着物に黒い帯をしている。
次に長男。深緑の着物に紺色の帯。気弱そうで高校生くらいの年齢。身長は男性の平均より少し小さいくらい。
最後に召し使いだが、召し使いは三人と違い、ずっと方を見ていた。一番話しやすそうな雰囲気ではある。
父親と母親は討論になり、長男は意見を求められオドオドしている。召し使いはまるで他人事の様子で、家族仲はあまり良くないようだ。
数分もすると、ネウロが客間にやってきた。そしてヤコの両肩に手を置くと、胡散臭い笑みを浮かべた。
「おや。先生が犯人を見つけたようです。さて、先生。ようしくお願いします」
ヤコはハッとした。するとスッと立ち上がり、左手を自分の意思とは関係なく動かした。そして、人指し指を突き出すとハッキリ言った。
「犯人は、お前だ」
指を指された先に座っていたのは、紫色の着物の母親だった。
「っなぜ私だと言うの?!私は旦那と息子と同じ部屋に居まし
たわ?!唯一一人だったのは召し使いだけよ!」
召し使いは母親に指を指されても、母親を少し見ただけで
表情一つ変えなかった。そして慌てて口を出したのは長男。
長男は立ち上がると、
「お母様は、確かに僕とお父様と一緒にいました⋯。玄関で物音がしたので三人で見に行きました。⋯弟があんなことになっているとは思わず⋯でも…」
長男は召し使いをテラリと見た。どうやら召し使いになにか特別な感情があるらしい。疑いたくはない様子だ。すると、
「悲鳴を聞いた時、召し使いさんは私達と一緒に居いました。私達が屋敷の前を歩いていたのは⋯あー、偶然ですし」
ヤコが召し使いを被うように言う。召し使いは、
「そうですね」
と一言話しただけだった。ネウロが目にハイライトを浮かべる。
「ヤコ先生はこう思っておいでです。まずは、棚にいくつもある写真。仲良しな親子のようですね。父親と次男。母親と長男は」
父親・母親・長男はハッとした。召し使いだけは冷めきっている。ネウロは続けた。
「DNA鑑定すれば分かることですね。さて、大事なのはトリックです。凶器である打ち刀は、天上にワイヤーで固定されていました」
召し使いはネウロを正座したまま見上げた。
「上天?私は玄関下を通っていますが、そんな物⋯」
「当然です。あれは、背が高くなければ発動しないトリックです。
長百七十センチ以上の僕か、次男だけです。そしてその次男を死を願っているのは母親だけだ」
「何を根拠に、」
母親はネウロの言葉を遮るが、その母親の謀を召し使いが遮った。
「奥方様は、ご自身のご予息を大変愛しておいでです。⋯旦那様のご子息に引けを取らないように、と。ですよね。ご子息様」
長男は目を逸らして頷いた。ネウロはニコリと笑うと、
「それは直に調査済みです。ね?ヤコ先生」
魔界の凝視虫(デビルフライデー)が見つけたのは、長男の部屋。そこには机の上に散らばる、偏差値の高い大学のパンフレット。そして勉強道具。
次男の部屋には、トロフィーや賞状が飾られている。次男と長男の出来の差は明らかである。
そして、父親の音屋に置いてある書類。父親の名前の次にあるのは長男ではなく次男の名前。回覧板も同じであり、父親が次男を贔屓している。近所に聞い
て回れば裏付けになるがその必要はなくなった。
「何が⋯いけないの」
母親が小さく呟く。
「自分の息子の幸せを祈って何がいけないの?!」
母親の顔は人間から見る見るうちに心臓に変わっていく。
「自分の幸せよりも息子を大切に思うのは親として普通でしょ?!なのに私の息子と来
たら、大学にも行っていないこの女に見初められて⋯私がどれだけ貴方の幸せを願ったと思うの!!お前が⋯お前がいなければ!!」
母親は血管のような触手を召し使いに伸ばす。すると、ネウロは召し使いを被うように立った。が、それは召し使いを守る為などではなく。ネウロは鳥のような頭部を現す。
「愛故からの手荒な謎など味は知れているが⋯頂きます」
ネウロは母親の頭部から漏れる謎を丸飲みにした。母親は絶叫し、そして、俯せに倒れる。
外に響くのは、田舎ならでは。到着の遅れてきた警察と救急が来たらしい。警察が事情聴手や逮捕をする為パトカーに滝澤家の四人を乗せる時。ヤコは召使いに慌てて駆け寄る。
「あの!⋯なんとも、思わないんですか?」
召し使いは橙色の着物の袖を揺らして振り返った。
「いつか、こんなことが起きると思っていたのです。内側から見れば一目瞭然でしたよ。でも私では止められなかった。
お世話になりました」
召し使いは礼をするとパトカーに乗って行った。ヤコは召し使いの背中を見続けたが、一方のネウロはもう興味を無くしたようで、右手の親指で唇をなぞる。浮かべる表情は、何を考えているか読み取れない。
そして1ヶ月後。
桂木探偵事務所のインターフォンが鳴って扉が開く。すると、橙色の着物を揺らし、黒い髪を団子にまとめている人物は。
「こんにちは。良いお仕事紹介して下さい」
「滝澤家の召し使いさん!」
ヤコがパッと笑った。
「召し使いは辞めてきました。今は無職です」
召し使いは履歴書を差し出した。
「面接よろしくお願いします」
コメント
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あら、なんだか雰囲気のあるミステリの始まりですね……! 第1話から屋敷のスケール感と、人物たちの間にある複雑な空気がしっかり描かれていて、引き込まれました。特に、母親が「自分の息子の幸せを祈って何がいけないの」と叫ぶ場面は、愛が歪んでいく痛さが伝わってきて胸が締め付かれました。ネウロとヤコの関係性も気になるし、最後に召使さんが探偵事務所を訪ねてきた展開が巧みで、「続きを読まなきゃ」と思わせられました。キャラの立ち姿や口調も一つひとつ丁寧で、じゅさんの世界観にすっと入れましたよ🌷