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「本当に色んなお店があるのですね」
「はい。この場所はリアン大聖堂の敷地内にあるため警備が行き届いております。そして、身分問わず人の行き来が多い……商人側から見ても穴場スポットらしいのです」
マードック司教様に挨拶をした後、私はフェリスさんたちと合流した。ルーイ様に言われた通り、まずは出店がある広場に足を運んだのだ。
「商人もちゃんとした手続きを踏んで店を出しているので安心して下さいね」
「相変わらずフェリスさんは詳しいね。頼りにしてるよ」
「伊達に通い詰めていませんからね。出店のことでしたら何でも聞いて下さい」
フェリスさんに案内をお願いして正解だった。その場所に精通している方がいるのは頼もしい。
「フェリスがいてくれて助かったよ。お前がいなかったらベインズと組まされてたかもしれないからね。ただでさえ警戒強めてピリついてるのに、あんなのと一緒にいたらイライラしてどうにかなっちゃいそうだよ」
ルイスさんはベインズさんへの不満を吐露していた。本当に一番隊と仲が悪いんだ。
私はベインズさんとは今日が初対面であったので、彼の人となりはまだよく分からない。第一印象はそこまで悪くなかったけど……
「それはベインズの方も一緒だろうね。司教からのお使いが終わったらさっさと自分の持ち場に戻っていったんだからさ。殿下のご意向に背くようで申し訳ないけど、やはり普段いがみ合っている者同士が急に仲良くするのは難しいよ。私情を挟まず割り切らなきゃって思うけど……私もまだまだ未熟だ」
「頭では分かってるんだけどさ……体が反発しちゃうんだよ。ごめんね……姫さん。俺らの尻拭いさせちゃった」
私も人付き合いが得意な方ではないから、彼らの気持ちが分からないでもない。どうしても合わない人種というのも存在するだろう。それでも仕事をする上では避けて通れない関わりも出てくる。人間関係って難しい。
「私のことは気にしないで下さい。喧嘩に発展しなくて良かったです。さあ! 気持ちを切り替えて、捜査に集中致しましょう」
『とまり木』と一番隊の確執については一朝一夕で解決できるようなことではないだろう。私の目から見てもお互いに良い印象を持っていないのは明らかだった。それでも同じ軍の一員同士なのだから、時間をかけてでも歩み寄ることが出来れば良いと思う。
「そうですね、クレハ様の仰る通りです。まずはどこからご案内しましょうか」
ルーイ様はここの出店のお菓子がおすすめだと言っていた。気にならないわけではないけど、それは後回しにさせて貰おう。我々は買い物に来たわけではない。やはり、一番最初に行くのは――――
「ニコラさんがバングルを購入したお店にお願いします!!」
ここしかないだろう。出店の店主は実際にニコラさんとやり取りをしている。当時の事を詳しく聞きたい。もしかしたら……ニコラさんの共謀者についての手掛かりも得られるかもしれないのだ。
「ワンダさん、こんにちはー」
「あら、シャロンさんじゃない。こんにちは」
広場にはざっと見た範囲で10程度の出店が並んでいた。テーブルや敷物の上に所狭しと並べられた品物の数々。グラスや皿などの食器類に始まり、陶器や古書にアクセサリー……どうやって使うのかさえよく分からない物もたくさんある。更に広場全体にふんわりとした甘い香りが漂っていて、空腹を刺激される。雑貨類を扱っている店が多い中に一箇所だけ、お菓子を売っている店があったのだ。これが……ルーイ様が司教様に正体を明かしてまで手に入れたという例のお菓子か。
想像していた以上にリアン大聖堂の出店が魅力的だった。あちこち見て回りたくてうずうずしてしまう。しかし、私たちがここに来た目的は出店巡りではない。事件が解決できたら改めて来たらいい。私は出店の誘惑を振り払うように、勢いよく頭を横に振った。
「ごめんなさいね。今日はまだ新しい商品は入荷していないの。そうね……来月の頭くらいにもう一度来てみてくれる? その頃なら品数も増えてると思うから」
フェリスさんが親しげに挨拶を交わしているご婦人……彼女がアクセサリー屋の店主のようだ。綺麗に陳列された商品に目を引かれてしまう。私のバングルとアンクレットもここで購入されたものだ。クラヴェル兄弟が言っていた通り、品数がとても多い。でも店主の口振りからこれでも少ない方らしい。
「あー、違うの。今日は新作を見に来たわけじゃなくて……お仕事で来ました」
「お仕事? そういえばシャロンさんの格好……」
「やあ、おばさん。俺らの事覚えてる? 以前ここでアクセサリーをいくつか買わせて貰ったんだけど」
「ご機嫌よう、ご婦人。その節はお世話になりました」
「あらあら……あなたたちは」
フェリスさんに続いてレナードさんとルイスさんも店主に挨拶をした。店主はふたりの事を覚えているみたいだ。
「ええ、覚えておりますよ。こんな男前な兵士さんたち、一度見たら忘れません。大切な方への贈り物は喜んで頂けたかしら?」
「はい、おかげさまで……」
「そう、良かったわ。是非、今後もご贔屓にしてやって下さいね」
フェリスさんとクラヴェル兄弟は店主といくつか雑談を交わしている。私は少し離れたところでその様子を眺めていた。そうして、場がいくらか和んだところで本題に入る。
「今日はね、その俺らの大切な人がおばさんに話を聞きたいって言うから一緒に来たんだよ」
「クレハ様、お待たせ致しました。こちらへどうぞ」
クラヴェル兄弟にエスコートされ、私はアクセサリー屋の前まで移動する。彼らと同様に、店主に挨拶を行なった。
「お仕事中にお邪魔してすみません。私、クレハ・ジェムラートと申します。いくつかお尋ねしたい事がありまして……少しだけお時間を頂けませんでしょうか?」
緊張しつつも、しっかりと声を出せていたと思う。出店の人たちは、警備隊に事件について何度も話を聞かれているだろう。私まで同じような話を持ち出してうんざりさせてしまうかもしれない。だからせめて、出来るだけ丁寧に接しなければと思っていたのだけど……
「あの……どうかしましたでしょうか」
出店の店主は、私の顔を見た瞬間……口を開けて固まってしまった。