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一方郁斗はというと、

『郁斗さん、すいませんでした!!』

昨日詩歌と出逢ったビルが建ち並ぶ裏通りで、金髪で刈り上げマッシュスタイルの筋肉質で小柄な男と、黒髪で肩までの長さがあり、前髪が長く目にかかっていていまいち表情が読み取りにくい中肉中背の男二人と合流するや否や、男たちは額を地面に付け、郁斗に向かってひたすら土下座をしていた。

この男たちが昨日、郁斗に電話をしていた美澄と話に出てきた小竹なのだろう。

結局探していた井筒が見つからなかった事を詫びているようだ。

「美澄、小竹、テメェらはただ謝れば済むと思ってんじゃねぇだろうなぁ?」

「とんでもないです!」

「本当に、申し訳なかったと思ってます!」

二人は誠心誠意謝るも、郁斗は依然として怒りを向けたまま謝る彼らを見下ろし続けている。

そんな状態が五分程続いた後、

「……まあ、今回は許してやる。その変わり、今日失敗したら……その時は覚えておけよ?」

怒りの表情から一変、笑顔を浮かべながら二人を許したのだ。

『あ、ありがとうございます!!』

それには二人も安心はしたものの、顔を上げて郁斗の笑顔を見た瞬間、背筋が凍っていくのをひしひしと感じていた。

そして、もし今日失敗したら、自分たちの命はないと悟る。

「よし、それじゃあ早速、奴を捕まえに行く」

話を終えた郁斗は二人に言うも、探しに行くも何も宛はあるのかと不思議に思う。

美澄と小竹は昨日、血眼になって井筒を探し続けていたのだが、彼の足取りは全く掴めなかった。

しかし、今の郁斗の口振りだとまるで井筒の居場所が分かっているかのようだ。

「あの、郁斗さん」

「何だよ?」

「その、井筒の居場所、見当がついてるんすか?」

「……お前らさ、昨日本当に隅から隅まで探したのか?」

「勿論っす! なあ、小竹?」

「はい!」

「……はぁ、だからまだまだおめェらは甘いんだよ。奴はな、この近辺に居る」

『なっ!?』

郁斗の言葉に驚きを隠せない二人は思わず顔を見合わせる。

郁斗が嘘をつくはずがない事くらい想像出来るものの、二人は腑に落ちない。何故ならこの辺りは井筒が行方を眩ませた直後に探し回った場所だから。

それなのに、奴がこの辺りに潜んでいるという事が信じられないのだ。

「それじゃあ、井筒は初めからずっと、この辺りに潜んでるんすか?」

「ああそうだ」

「一体どこに……」

「郁斗さん、どうして分かったんすか?」

美澄と小竹は、郁斗が何故井筒の居場所を掴めたのか、そして今もそのまま野放しにしているのか、訳が分からないと言った状態で尋ねると、

「……これ、見てみろ」

郁斗は自身のスマホを取り出すと、昨夜恭輔から送られて来たメッセージに送付されていた動画を二人に見せる。

するとそこには、暗闇の中、何処かの建物内で動き回る井筒の姿が映っていたのだった。

「郁斗さん、これは一体……」

「ここは奴がねぐらにしていたビルの隣にある潰れたコンビニの中だよ」

「はあ? あそこっすか?」

「あそこはすぐに探しましたけど……」

「本当によく探したのか?」

「勿論!」

「天井裏もか?」

「え? あ、いや……そこまでは流石に……」

「阿呆か。それじゃあ隅まで探したのうちには入んねぇんだよ。隠れそうな場所はどこでもくまなく探せっていつも言ってんだろーが」

「す、すみません……」

まさか空き店舗の天井裏に潜んでるとは思わなかった美澄と小竹は郁斗に怒鳴られ項垂れる。

郁斗が恭輔から仕入れた情報によると、井筒は金が返せないと分かっていたので早くから逃走準備をしていたらしく、毎夜空き店舗に忍び込んでは暫く身を隠せるよう食糧やらを運んでいたらしいのだが、それを事前に見越していた恭輔は既に手を打っていて、井筒のアジト周辺の全ての空き店舗や廃ビルのいたるところに隠しカメラを設置していた。

そして、そのカメラ映像の一つに井筒が映っていて、逃げる様子が無い事からヘマをした美澄と小竹に再度チャンスを与えようと今まで捕えないでおいたのだ。

「――と、いう訳だ。これで逃したら恭輔さんからも見放されるぜ? しっかりやれよ」

「はい!」

「絶対逃しません!」

居場所が分かればこっちのモンだと美澄と小竹は威勢よく返事をすると、井筒が潜伏している空き店舗へ駆けていく。

ここまでお膳立てをすれば流石に逃すはずは無いと郁斗はその場を動かず、二人が井筒を捕えて連れて来るのを煙草を吸いながらのんびり待っていた。

優しい彼の裏の顔は、、、。【完】

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