ぼくは自分でも驚くほど大きな声を発していた。
空想の世界から現実に戻ってきたからだ。
隣の母さんが起きた。
「まあ、起きたの歩? 良かったわ! ……凄く大変だったわね。父さんもおじいちゃんも感心していたのよ。田中さんから羽良野先生から逃げ回っていたって聞いて。犯人は羽良野先生だったのねって。あら……こんなこと子供に話してもいいのかしら? 田中さんには後で必ずお礼を言っておいてね」
母さんが明るく喋っている。
これで羽良野先生に殺人未遂罪というのを着せられる。
後は裏の畑の子供たちを助けなきゃ。
「りんご剥く? それともご飯?」
母さんは優しくしてくれている。
「りんご」
丸っこい母さんはテキパキとりんごを剥いてくれた。
「食べ終わったら、母さんちょっと下へ行ってくるね。父さんたちに知らせなきゃ。きっと心配で眠れないだろうから。ご飯はその冷蔵庫の中にあるわ。お腹空いたでしょ」
「うん」
ぼくはりんごを頬張りながら、母さんがリュックに気がついたのかなと考えた。
あのリュックの中には、見つかるとまずいものがある。
止血剤やガムテープなどだ。
見つかるとどうなるのだろう?
長い間。犯人の羽良野先生と戦っていたのがバレるかな?
怒られるだろうか?
それとも、褒めらるだろうか?
けれども、事件はまだ終わっていないんだ。これからが、本当の調査なんだ。
母さんが病室の外へ電話しに出た。
ぼくは赤い染みがある包帯を見つめていたけど、所々痒みや痛みどころか鉈のかすり傷のようなものがあるだけだったことに気がついた。まるで、ぼくの身体じゃないみたいだ。深い傷もなくひどい痛みがない。
「あれ? ぼくの傷が治っている?」
点滴から血液が流されているかと、思ったら透明な液体が入っていた。
あれ程、怖かった体験がまるで夢のようだ。
そんなはずはないはずだ。
だってここは病院だもの。
かなり重傷だったはずだ。
そうだ。母さんに聞いてみよう。
丁度、階下から母さんが電話を終えて、戻ってきた。
「あら、りんご一つじゃ足りないわよね。お弁当食べな。今、お茶を買って来るわね」
「母さん。ぼくの傷や血は酷かった?」
母さんは真っ青になった。
「ええ、そうよ。村田先生も驚いていたわ。でも、その後、村田先生は診察室に一人閉じこもっているの」
何かある!
きっと、これから必要になってくる知識のはずだ!
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