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「母さん。頼みがあるんだ。村田先生に聞いて来て。傷の様子がおかしいんだ」
「まあ!」
ぼくの咄嗟に並べた嘘に母さんは飛び上がった。
母さんは真っ青な顔で、病室から出て行った。半分嘘をついてごめんね……母さん……。
少しすると、ぼくは慎重に起き出して病室を出て、母さんに気付かれないように後を追う。
病室を出ると、階下から足音が遠ざかる。母さんの足音だ。点滴を押して薄暗い廊下を音を立てずに歩くと、階段があった。昔の記憶が正しければ、ここは二階建ての病院で、診察室は一階にあるんだ。
真っ暗な階下で、母さんが診察室のドアを控え目にノックする音が聞こえた。
ぼくは階段を少し降りて屈んで聴き耳をたてた。
「歩君の傷のことだね。中へ入って」
慎重な声が聞こえて。母さんが診察室へ入った。
ぼくは古く薬品の臭いがする階段で、固唾を飲んで身を乗り出した。
まるで、テープレコーダーか何かからの声が聞こえてきた。恐らく村田先生の声だろう。
「歩君の身体。正確には傷から。高濃度の農薬とオニワライダケの成分が検出されている。さっぱりわからないが。前にもこんなことがあったんだ。隣……でね。その農薬は……。というより、今でも毒性が認められているオニワライダケには……。まだ、明らかになっていない……。その成分と高濃度の農薬の影響かはわからないが。歩君の身体は今は、仮死状態になって……。何故か動けるんだがね」
ここだと、中々聞き取れない。
ぼくは点滴を持って一階に行こうとしたけど、母さんの泣き声と不安な声が聞こえてきた。今にも診察室からでてきそうだ。
「まあ! 歩! 」
「お母さん。どうか落ち着いて! 現状では隣町の総合病院に入院した方がいい。農薬には精神面の影響もあるし、毒性の強いオニワライダケの方も心配だ。私が紹介状を出すから。今日は何とも言えないけど、これから健康になる可能性を否定したら、我々は何も出来ないんだ。今日はもう遅いから、明日、歩君とゆっくり話た方がいい」
母さんのすすり泣く声が診察室から漏れ出した。
ぼくは閃いた。
農薬だったんだ!
大根が辛くなったのは!