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「さすがは、第二王子様ってところか。いやーまさか、全部見切られるとは思ってなかった」
完敗だ。と両手を挙げて降参のポーズを取ったのはラヴァインだった。
まさか本当にグランツが勝つとは思っておらずあっけにとられていると、褒めて欲しいと言った感じに私の方をちらりと見てきた。まだ覚醒の余韻が残っているのか、亜麻色の髪は毛先が緑がかっていて綺麗だった。亜麻色の髪も金色の近く見える。
(ほ、本当に勝っちゃったの?)
目に見えないほどのスピードで戦っていたため、どっちが押しているとか、有利だとかは全然分からなかった。でも、ラヴァインのナイフがこちらに飛んできた時点で、グランツの勝利は確定していたと言うことだ。
本当に恐ろしい。
「それにしても、その体力と技術はどうやって身につけたのか、是非知りたいよ。参考までに」
「貴様に教える事など何もない……ですよ。ただ、俺は復讐のために費やしてきた」
とぽつりとグランツは零した。光の立方体越しに聞いているので、それをそのまま本当にいったのかは分からなかったが、確かにそう言っているように聞えた。光の立方体は防音のようでこちらの声も、あちら側の声もあまり聞えない。それが利点なのかと言われれば一概にそうは言えないが。
「ブライト、魔法とかないの?」
「はい、まだちょっと引っかかることがあるので」
勝敗はついたはずなのに、ブライトはその魔法をとかなかった。もう安心だとは確かにいいきれないかもだけど、それでもグランツの側に行ってあげたかったのは事実だ。聞きたいことも山ほどあるし、まず、ラヴァインに謝罪の言葉を貰いたいんだけど。
そんな風にみていれば、立方体越しにラヴァインの濁った満月の瞳が私を捉えた。ぞくりと背中が粟立ち、恐怖を覚える。あの状態で起死回生なんてできっこないのにと、大丈夫だと自分を落ち着かせる。
グランツが勝てたのは紛れではないだろう。でも、ラヴァインにはまだ何か隠している何かがあると言う風に思えた。いつもそういうやつだったから。
「復讐ねえ……でも、君一人で何かが出来るわけじゃ無いんだし、そんなの無駄な努力じゃない?」
「だからこそ、騎士になった。貴様達に対抗できる力をつけるために」
グランツはそう言って、ラヴァインの喉元に剣先を当てる。死ぬかも知れない状況に立たされているのに、ラヴァインは笑っていた。それも不気味に口角を上げて。その余裕そうな顔を殴りたいと思うのは私だけではないだろう。
グランツも、ラヴァインの態度に何が可笑しいとでも言うように目を細めていた。確かに、ラヴァイン達……ラヴァインじゃないと入っていたけど、自分の住んでいた王国を滅ぼされて、自分だけ生き残ったら復讐に燃えるのも分からないでもない。グランツは感情を表に出さないけれど、そういうのは人一倍根に持つようなタイプだったから。
「どうせ誰にも理解できませんよ。俺の気持ちも、殺された民の気持ちも」
「でも、元はと言えば、君たちの王妃がやったことじゃないか。情報を流したのはそっち。それに乗っかったのは、ヘウンデウン教だっただけで、そんなに強く当たらないで欲しいな。さも、俺達が悪者みたいにさ」
「黙れ」
グランツは冷たい氷柱のような言葉でラヴァインを刺す。ラヴァインは両手を挙げながら肩をすくめ、グランツの言葉などどうでもイイというように笑っていた。人の心がないのかと思いたくなるぐらい、ラヴァインは失礼な態度を取る。
だが、アルベドが言っていたように、女王だったか、何だったかがヘウンデウン教に情報を漏らしたことで攻め込まれ滅ぼされた挙げ句、占領されているのだから、確かに、一概にヘウンデウン教だけのせいじゃないと言えるのかも知れない。かとをもつわけじゃないし、ヘウンデウン教が悪いって言うのはよく分かるんだけど、裏切り者がいたって言うのも事実な訳で。
(それも、グランツのお母さんって事でしょ?)
最後にその罪を懺悔して第二王子を逃がしたって言っていたけど、その時グランツはどう思っていたんだろうか。母親は自分の罪を告白した上でグランツを逃がしたのだろうか。ラヴァインの言葉に、グランツは言い返せないところをみると、きっと母親が裏切り者だと知っていたはずだ。でも、その愛情を知ってか、復讐心に燃えているのか。
(本当に、人って見かけによらない……グランツが何を考えて生きていたかなんて、もしかしたら私も利用されている?)
と、少し思ってしまった。
彼は騎士になりたかった理由が、貴族を見返すとか何とかだった気がしたから、一番本当の深層部にあった目的を話されてしまえば、彼の見方が180度変わってしまうわけで、なんとも言えない気持ちになった。貴族を見返した言って言うのは、多分あるんだろう。彼は、平民の家族に拾われて、育てられたから、少なからず平民の暮らしも考え方も温かさも知っているだろう。だから、傲慢な貴族が許せないという気持ちは分かるわけで。
でも、騎士になったのは復讐のための力を手に入れるためだとしたら、どうだろうか。自分の地位が確定され、動けるようになればヘウンデウン教への対抗策を立てたり、仲間を集ったり出来るんじゃ無いだろうか。憶測だけど、グランツほどの強さがあれば、皆ついてきてくれるんではないかと。高い地位に行けば行くほど、皇族の力を借りることが出来るようになるかもだし、ヘウンデウン教の情報を知っていると言えば、対抗策を立てて貰えたかも知れない。ここ数十年ほど、復讐のために費やしてきたとするのなら、グランツならそれもあり得る。でなければ、簡単に復讐なんて口にしないだろう。
だが、そんなグランツの思いすらも嘲笑うようにラヴァインは言った。
「裏切りによって滅んだ国の、裏切りに裏切りを重ねた奴に逃がされた君は、本当に惨めだね。生きていて恥ずかしくないの?」
「…………」
「復讐に費やしてきた数十年、本当に可哀相だね。地位も何も失って、そして、貴族に馬鹿にされて、いいこと何て一つもない人生」
と、ラヴァインは口にする。さも自分がいい暮らしをしてきたとでも言うような。自分がやっていることは褒められることじゃないのに、自分の事は棚に上げて。
本当に何でラヴァインが攻略キャラなのかが理解できない。これを考えた作者……原作者に物申したい気持ちでいっぱいになった。
(そんな、人生なんて……ラヴァインが推し量るようなものじゃないし、グランツが決めたことなんだから)
でも、グランツが決めたと言っても、復讐のために費やしてきた時間は相当なものだったと思う。苦しくて、誰にも話せなかったかも知れない。頼る人もいなくてただただ闇の中を徘徊するようなそんな気持ちだったのかも知れない。今のグランツを作ったのはその復讐という思いがあったからかもしれない。そう考えると矢っ張り悲しいようにも感じた。それを、悪いこととは言わないけれど。
ふと横をみれば、ブライトは苦虫をかみつぶしたような顔を、唇をギュッと噛み締めていた。ブライトも、似たような経験があるからだろう。ブライトとグランツは少し年が離れているけど、年月で言えば、ブライトもファウダーのことを隠していたわけだし、周りに誰も頼れる人がいなかったことだろう。だからこそ、グランツの気持ちが少し分かるのかも知れない。
「ブライト……?」
「何ですか、エトワール様」
「似てるって思ったの?グランツと、自分が」
「そうですね……でも、僕なんかよりもグランツさんの方が辛いと思いますよ。例え、母親の裏切りで国が滅んだとしても、自分を逃がしてくれたわけですし、それに、故郷が滅ぶと言うことは耐えられないことだと思います。彼が背負うには重すぎる」
そうブライトは言って目を閉じた。フッと、先ほど刺さったナイフが魔法によって引き抜かれると、ヒビは入っていたところが修復されていく。
さて、これからどうするかだ。あの汚い紅蓮を黙らせるには何をするべきか。私は、グランツの言葉で真実を知るべく、取り敢えずはラヴァインをどうにかしないとと、彼を見据えた。
「そんなに、みられると照れちゃうよ。エトワール」
「……別にアンタなんか見たくて見てるんじゃ無い。反省しなさいよ」
そういえば、ラヴァインは目を丸くした後プッと吹き出してこう言った。
「何を反省するのさ、俺は何も悪いことしてないだろ?」