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花灯
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// もあ .
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ナナセ@コンテストさんかちゅー
41
煙草を咥える。
煙が肺いっぱいに広がって、苦くて甘いその味を堪能してから、ゆっくりと息を吐く。
眼下に広がる夜景は今日も変わらず光り輝いている。たくさんの欲を吸い取って、なおも輝き続ける夜景は皮肉なぐらい綺麗だった。
「はぁ〜……」
「sv彡!本指名のお客さん来ましたよ!」
店の中から声がかかる。滅多に人が来ない裏口は俺だけの特別な場所だが、それだけに俺の居場所は常に筒抜けだ。
最後に、ともう一本火をつける。
「sv彡!お客さんですってば!!」
「今行く!」
苛立ち気味に返事をして、煙草を消す。
ぐしゃぐしゃにした髪を適当に整えて、着崩したスーツをある程度元に戻しながら入り口へ向かう。
「お、 姫じゃん」
入り口で携帯をいじりながら待っていた姫は、ここ最近1番金を使ってくれている姫だった。
「sv裙っ!♡えへへ、今日も会いに来ちゃったっ♡重くてごめんね?♡」
ありふれた量産型の、フリルにまみれた服。地雷系というのだろうか、濃いアイシャドウもやけに大きく書かれた涙袋も、可愛いとは思えなかった。
「いや、重くなんかないよ。むしろ、いつも会いに来てくれて嬉しいぐらい」
だが、心とは裏腹に、口はうすっぺらい言葉を紡ぐ。手は自然に姫の腰に回るし、いつもの席に向かう足も流暢だ。
「sv裙、今日ってこの後空いてる…?♡」
うちの店ではアフターは個人の意思に委ねられている。だが、アフターをすると金払いがよくなるのは明らか。
「もちろん。姫のためなら、いくらでも空けるよ」
「やったぁ♡じゃあ、今日はいっぱい使っちゃおうかなっ♡」
その日は久しぶりに7桁の大台だった。バーイベでもないのに、こんな大金を落としてくれる姫はなかなかに珍しい。
「sv裙、今日はどこがいい?♡」
どこでもいい。けど、女はその回答は求めていない。
情報は武器だ。
顔も名前も知らない姫だろうが、当たり障りのない対応を覚えておけばなんとかなる。
「正解」とでも言えばいいのだろうか、俺は昔からなんとなく、相手が求める対応、反応がわかった。だからホストは天職だった。
「sv裙、今日もめっちゃかっこよかったよっ♡またお店に会いに行くね♡」
いつもと変わらない、なんでもない日々。どこかで感じる空しさを誤魔化すために、また、煙草に火をつけた。
カラン、と来店を告げるベルが鳴る。
ボーイの1人が指名と座席の希望を聞きに入り口に向かう。今日は本指名の姫たちが来るという連絡はない。早く閉店時間になってほしいと思いながら、動く秒針を見つめていた。
「sv彡!ご新規様仮指名入りました!」
「…は?」
「だーかーらー!仕事ですって!早く行ってください!」
ボーイに押し出されるようにしてフロアに出る。本指名じゃないので、入り口まで迎えに行く必要はない。テーブルに向かって歩くと、今日の姫が見えてくる…はずだった。
「は?男?」
ホストクラブと言っても、男が来ないわけじゃない。それでも、席に座っていた男はどちらかと言えばホスト側だと言われたほうが納得できるぐらい顔が整っていて、思わず声を出してしまった。
「あんたが…俺を指名だっていう……姫?」
こんなイケメンに姫という呼称は相応しくないような気がしたが、それ以外に呼び方がわからない。イケメンはきょとんとした後、弾けるように笑った。
「あははっ!!俺が姫?」
馬鹿みたいに笑うものだから、こっちが恥ずかしくなってしまって、誤魔化すように声を大きくして問いかける。
「じゃーなんて呼べばいいんデスカ、お客サン」
「あははっ、ひーっ……ur!俺の名前、urってゆーの。urって呼んで?」
「ur……彡」
普段は姫で誤魔化している分、なんだか無性に恥ずかしくなって、取ってつけたように彡呼びをする。するとurは頬を膨らませて怒った。
「ur!彡付けとかしないでよ」
「わかったって……ur」
望み通り呼ぶと、urは嬉しそうに笑った。
その顔があまりにも可愛くて、胸がどきんと高鳴った。
「sv彡、おすすめどれ?」
「へ?」
「おすすめのドリンク!俺sv彡と喋りに来たんだからさ、別の卓行かれちゃ困るもん」
普段の姫とは違う態度に調子が狂っていたけど、俺はホストだ。男だろうと女だろうと客に金を使わせるのは得意…な、はず。
「ん〜、今のところは指名してくれてる姫たち来てないし、軽ーく飲み物だけ飲みたいかな」
「そうじゃなくて!どんぐらいの金積めばいてくれんのって!」
「……まぁ、このあたり?」
嘘である。指を刺したのは2万のモエ・エ・シャンドンの白。だが、連絡していないだけの姫がご来店したらきっとこれぐらいは一瞬で上回るだろう。urには申し訳ないけど、そのほうが金を積んでもらえるからな。
「なるほどね。じゃあこれ、2本頂戴」
「…え?」
urが注文したのは一本5万のモエ・エ・シャンドンロゼ だった。
「白で十分だって言ったのに…」
「いーや!俺は知ってるね!そう言ってちょっと低めにしてんだろ!無駄金は使わない主義だからさ」
ボトルが2本運ばれてくる。うっすらピンクのシャンパンが、きらきらと光を反射して光っていた。
「まじでいいの?めっちゃ嬉しいけどさ…」
「いいって言ってんの!てか早く飲も!」
「…じゃあ、ありがたく!かんぱーいっ!」
その日は特段楽しかった。シャンパン開けてしこたま飲んで、騒いで話して。たまには男の客もいいな、なんて、そう思った。
その日の帰りに見た夜景は、ただ純粋に、綺麗だった。
それから、urは何度も来店した。時にはシャンパンも入れてくれたけど、基本はカクテルとかドリンクだけで。ずっと席につけたのは最初の一回だけだった。
それでも、いつからか。urと会うのが、仕事の楽しみになっていた。
「そういえばsv彡、最近煙草吸ってませんよね」
「……そうかぁ?」
「吸ってませんよ!いつものとこかなーって呼びに行ってもいなくて探し回って結局フロアにいたとか!」
「わかるわかる!最近sv彡怒鳴らなくなったし、なんかありました?」
「いや、前も怒鳴ってはねぇだろ!」
「うわ!それですよ!懐かし〜!」
嬉々として語るボーイたちに呆れて、久しぶりにいつもの裏口に出る。夜風が冷たくて、それが心地よかった。
怒鳴らなくなったかどうかは分からないが、確かに最近は煙草を吸っていないような気がする。
……きっと、urのせいだ。
あいつが来てくれるようになってから毎日が楽しいから、退屈なんてしないから。だからきっと、誤魔化しが必要なくなった。
「っあー……早く、調子戻さないと」
最近はurと会うのを楽しみにしすぎて、他の姫への対応が雑になってしまいがちだった。それで店長からも直々に注意貰っちゃったしな。
「……なんで、俺。urのこと、こんなに考えてるんだろ」
久々に吸い込んだ煙が、スーツに染み込む。
あんなに美味しかったはずなのに、今日の煙草はなぜかあまり美味しく感じなかった。
「ねーur。なんで俺のこといっつも仮指名なの?そろそろ本指名してよ」
「えー?笑」
本指名じゃないと、urが他の店に行ってしまっても引き止められない。urが他の男のところに行ってしまったら、俺は……俺は、どうするんだ?
ガタン、と大きな音がした。
姫がテーブルを叩いて立ち上がった音だった。
姫はシャンパンを入れてくれていた。だけど今日は後から来店したurに少しでも接客を、と卓に1人置いてきた。
止めようとするヘルプの腕を振り払って、 姫はフリルを翻しながらズンズン歩いてくる。
そして、片手に持っていたグラスから、シャンパンを勢いよくurの顔面にぶちまけた。
urの髪からシャンパンが滴る。
「……ねぇ、sv裙。そいつ、何?あたしがsv裙のエースだよね?なのに、最近そいつの卓にばっかり付こうとするし、あたしのこともおざなりになってるよね……」
俺は焦った。こんな風に姫がヒスを起こすことなんて珍しくなかったはずなのに。いつもなら分かるはずの、「正解」が、分からなかった。
「ur…ッ!大丈夫か!?」
「またそいつばっかり……ッ!!!返してッ、返してよッ!!あたしの王子様をッ!!」
顔を上げた姫の目は血走っていて。そのままテーブルから食事用のナイフを掴んで、urめがけて走り出す。
ナイフは、深く、urの腹に刺さった。
悲鳴があがる。だけど、広がる赤と、urの荒い呼吸だけが俺の五感をジャックしていた。
姫は肩で息をしていて。そんな姫を、従業員たちが取り押さえた。そのままバックヤードに運ばれていく間にも、姫はurと俺を睨みつけていた。
「u、ur……?生きて、るよな…!?」
「ったぁ……ゲホッ、ゴホッ」
「urッ!!」
腹から流れる血だけじゃ足らず、urは口からも吐血した。俺のスーツと、urの服が赤く染まる。
「まじで……死ぬかと、思った」
「お前っ!喋んなって!血ぃ止まんねぇ、くそっ!」
「sv彡!救急車来ました!離れてください!」
ボーイが救急隊員を連れてくる。そのまま担架に乗せられて、urは運ばれていった。血塗れのスーツは、まだ少し暖かかった。
urから連絡があったのは、それから数日後だった。入院することになり、今は元気だということ。病院の名前と病室も教えてくれた。
その日は仕事を休んで、urの面会に行った。
「〜〜♪」
病室の入り口に立つ。urの透き通るような歌声が聞こえる。urは窓の外を見ていて、こちらには気付いてないようだった。
「……ur」
urがこちらを振り返る。窓から差し込む光を背に、ふわっと嬉しそうに微笑んだurは、まるで絵画のように綺麗だった。
「sv彡!来てくれたんだ、ありがと!」
「ur……まじで!!ごめんっ!!!」
勢いよく土下座する。誠意を見せたい、失望されたくない、その一心だった。
「俺のプロ意識がなってなかったせいで、urにこんな怪我させて……ッ!」
「ちょっ!一旦顔上げて!立って!」
慌ててurは俺を起き上がらせた。urは困ったように笑ってから、俺と目を合わせてくれた。
「sv彡のせいじゃないし、気にしないでよ。貴重な体験できたってことでさ」
けらけらと笑うurは、何故か楽しそうだった。
「ur、俺……ッ、」
「だーかーら!sv彡のせいじゃないって言ってるでしょ?笑」
俺があまりにも死にそうな顔をしていたからだろうか。茶化すように、ふざけるようにurはそう言った。
「申し訳ないと思ってるんだったらさ、今度店行ったときになんかご馳走してよ。俺飲んでみたいやつあるんだよね〜」
そんな気遣いが心地よくて、イタズラっぽい笑顔にどうしても胸がときめいて。あぁ、もう駄目だな、と、そう思った。
「ur……もう、店には、来ないで欲しい」
俺の言葉に、urはショックを受けたように固まる。その顔を見ていると胸が痛むから、視線を逸らして俯いた。
「なんで!?俺、気にしてないよ…!?」
「俺が、urに合わせる顔がない。俺のせいで姫も、urも、辛い思いさせた」
urは今にも泣きそうな顔をくしゃっと歪めて怒る。その顔さえ綺麗だと思う俺は、もう手遅れなのかもしれない。
「……やだ。俺、絶対行くから!」
「……え?」
「俺……俺ッ!sv彡のこと、好きだから!絶対行くし、絶対終わりになんかさせない!」
urが大きな声を出す。ur、が…俺のことを、好き?そんなこと、あるわけない。
「……馬鹿だな、ur。俺はホストだぞ?仕事だから接客して、金使わせてただけ。こんなホストなんかに引っかかって、ほんと馬鹿。」
「…sv彡、そんな演技しなくていいよ。俺、知ってるもん。sv彡は確かにホストだけどさ、それ以上に優しい人だって。」
「俺が、優しい…?んなわけないだろ笑」
「だってこうしてお見舞い来てくれたし。責任取るとか言って本指名させればよかったのに、店に来ないで欲しいとか。sv彡はさ、優しすぎるよ」
「……。」
「sv彡。俺、sv彡のことが、好き。友達としてじゃない、恋愛的な意味で。今すぐ返事はいらないからさ、考えてみてくんない?」
urの笑顔は、やっぱり綺麗だ。どんなことがあっても跳ね返しそうなほど強くて、でもどこか繊細な、そんな笑顔。
この笑顔が可愛いと思い始めたのはいつからだっただろうか。最初はただの客としか思っていなかったけど。
今感じているこのどうしようもない気持ちは。
ただの客どころじゃない、けど、友達に向けるものとも違う。
気持ちを自覚したその瞬間。俺の胸の中で、確かに何かが芽吹いたような気がした。
コメント
3件
…( ´ཫ`)وウグッ 今回も素晴らしい作品だ〜! 面白かった!
あの、すっごい長くなっちゃった……ごめんなさいっ!!
うわ、第1話から重くて美しい...!ホストのsv彡が、ただの客だったurに特別な感情を抱いていく流れがすごく丁寧で。最後の告白シーン、胸がぎゅっとなったよ。自分の気持ちを自覚する瞬間の描写がめちゃくちゃ刺さった。“仕事じゃない”感情の芽生え、これからどうなるんだろう……続きが気になりすぎるよ🥀