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「比奈ちゃん、ママいつもは早く迎えに来てるのかなぁ?」
比奈ちゃんは答えず、首を振った。
「眞奈、少しだけここで待ってて」
私は娘にそう言い残し、先生を探しに行った。
◇ ◇ ◇ ◇
「先生、私大林さんとは少し面識があるのですが、比奈ちゃんのお迎えは
いつも何時頃来られてるのでしょう?」
「あぁ、眞奈ちゃん比奈ちゃんと仲いいですものねぇ。
今も、しばらく一緒に遊んでて。
大林さんはフルタイムのお仕事をされているので大抵19時ギリギリまで
お預かりしてます。
それで有給取られてたりする日はお休みさせてますね。
お家でゆっくりされてるんだと思います」
「他にも19時まで残ってるお家の子はいるんでしょうか?」
「週に2、3回遅くなる子はいますけど、19時までっていうのはないので、最後は
比奈ちゃんひとりになってしまうんですよね。
でも私たちがいますので大丈夫ですよ」
「あぁ、そうですよね。
先生方がいらっしゃるのに込み入ったことを訊いて失礼しました。
あの、今日もお世話になりました。失礼します」
「さよなら。お疲れ様です」
私ったらバカ?
大林さんってれっきとした医師なんだよ。
16時のお迎えに来るってなると少なくても14~15時に
病院出ないとだめでしょ。
無理に決まってるじゃない。
でも、おばあちゃんとかおじいちゃんとかご主人とかが迎えに来る
っていうことも考えられないこともないけど。
先生の話からすると、そういう助っ人はいない……ってことよね。
よしっ、決めた。
明日は用事を早めに済ませて19時まで比奈ちゃんといよう。
そして翌日の時間外保育の時間になり、予想通り眞奈が比奈ちゃんと
遊ぶというので、買い物など済ませていた苺佳は大林が迎えに来るまで
比奈といようと、文庫本を手にちらちらと子供たちの様子を見ながら
時間をやり過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ、瑤ちゃんっ」と口にするや否や、比奈ちゃんは
大林さんの来る方へと駆け出した。
都築七美
322
#夫婦
設楽理沙
981
#深澤辰哉
クリオネ?
132
『やっぱり親子だね~、気にして待ってたんだ』
「こんにちは。お疲れ様です」
「あぁ、こんにちは。どうし……ですか?」
「比奈ねぇ、ずっと眞奈ちゃんと遊んでたんだよ」
「そっか、良かったな。じゃあ、帰ろっか、カバン取ってきな」
「はーい」
そう言いながら、彼女も比奈ちゃんのあとを付いて行った。
もうこれ以上話すこともなさそうだったので、私も眞奈を促して
そのまま帰ることにした。
あ~あ、なんか取りつく島もないって感じ。
こういう予感がしなくもなかったが、世間話でもいいのでもう少しは
会話があると思ってたんだけど……やっぱり大林は大林だった。
折角子供同士が仲いいんだから親も少しはね、って思う
私はおかしいのかな。
そんなふうに気落ちして帰ったのが週末で、大林の態度に気落ちして
しまった苺佳は翌週からはまた、眞奈が比奈と居残って遊びたいと言えば
遊ばせたけれど、大林とバッティングしないよう比奈のお迎えがありそな
時間の15分くらい前には眞奈を連れて帰るようにした。
月曜日から木曜日までやはり18時45分時点で大林が比奈を迎えに
来れることは一度もなかった。
比奈が寂しそうな顔をするので5分延長して18時50分まで
粘った日もあったのだが。
小さな子の寂しそうな顔、境遇など見たからには、知ってしまった
からには、とても耐えられない苺佳は大林にコテンパンにやられるかも
しれないことを覚悟してある提案を申し出ることにした。
◇提案
その週末、やっぱり大林は時間内ギリギリにお迎えに来た。
「こんにちは」
「こんにちは、ひ……」
「大林さん!」
眞奈と遊んでる比奈ちゃんに声を掛けようとした彼女の言葉掛けを遮り
私は声を掛けた。
「何……」
「その、少しお話したいことがあるんですけど」
「いいですよ、聞きましょ。どんなこと?」
時間外にほぼ毎日、古家さんが眞奈ちゃんを比奈と遊ばせながら自分を待ってた
という話は比奈から聞いて知っていた。
それにずっと付き添ってた彼女からの『お話があります』発言。
大体想像がつく。
もっと早く迎えに来れないのか、とか、そんなところだろ。
来れるもんなら来てる、っつうの。まったく。
◇ ◇ ◇ ◇
「よかったら、大林さんの仕事が終わるまで家で
預からせていただけませんか、
とても差し出がましいことだとは分かっているのですが」
「折角だけど、うちはうち、よそはよそ。
誰の手も借りませんよ。お気遣いなく」
そうだろなぁ~とは思ったけれど、想像以上にきっぱりと断られた。
どうしよう。
ここは絶対引きたくない。
苺佳は脳内をフル回転させた。
「私、アルバイトがしたいんです。
だから比奈ちゃんのお世話させてください」
「なっ……。旦那さん高級車乗って迎えに来てたよね」
へっ、見られてたんだ。
旦那さんが高級車って……。
「夫は確かに少しお金持ちですが、私は働いてないので
おこづかいがなくて……その……おこづかいが欲しいんです」
「で?」
「へっ?」
「いくら?」
「いくら? あぁ、え~と、1000円?」
「ばかにしてんの? 大人のこづかいが1000円って」
「あっ、厚かましい人ねぇ、子供預かるのに一か月1000円なわけないでしょ。
1時間1000円で預かるって言ってんの」
あっ、いけない、素が出ちゃった。
人様にお願い事してる立場なのに。
「失礼、1時間1000円でどうでしょう?」
高すぎるかな?
あんまり安いとバカにしてるのかって怒られそうだし。
ほんと、この人、面倒ぅ~。
◇ ◇ ◇ ◇
苺佳の一生懸命な言い草と表情を見ていた瑤は、彼女の
心中が駄々洩れで可笑しかった。
コメント
1件
設楽理沙さん、第5話読みました! 苺佳さんが大林さんに「アルバイトがしたいから」って理由で比奈ちゃんの預かりを提案するところ、思わず笑っちゃいました。でも本当は比奈ちゃんの寂しそうな顔が気になって仕方ないんだよね…その不器用な優しさが伝わってきました。 大林さんの「いくら?」って返しも面白くて、二人の関係性がちょっとずつ動き出しそうな予感。次が気になります!