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都築七美
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#夫婦
設楽理沙
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#深澤辰哉
クリオネ?
132
実のところ、古家苺佳の申し出を聞きながら私は彼女のことを
いいヤツだなぁ~って、胸のうちで感動してた。
彼女には絶対知られたくない……が。
実際のところ、どこぞで人を探さないとまずい、と思ってはいたからな。
同じ対価を払うのなら彼女が一番の適任者ということになる。
比奈と眞奈ちゃんは仲良しだし、母親の彼女に懐いてるのだし。
私も頼みやすい。
「大林さん、えらそーな態度でごめんなさい。
ぜひっ、私を雇ってください。お願いします」
「わ、分かった。こちらこそお願いします」
「じゃあ、いろいろと予定を聞いたりしないといけないのでLINE交換
しませんか?」
「お、おう」
何を焦ってるんだ、私は。
ほんと可憐な容姿の割に積極的でつい、ドキドキして相手のペース
じゃないか。しっかりしろ、自分。
LINE交換を済ませ、古家親子と別れたあとで物思ふ。
◇ ◇ ◇ ◇
よそはよそ、うちはうち。
誰の手も借りない。
……ということを信条にしているのも事実なのだが。
しかしだ、ほんとうのところ比奈が不憫で苺佳の申し出は
涙が出るほどうれしいものだった。
そんなわけで、大林の中で苺佳の評価はだだ上がりした。
早速翌日が土曜日のため、LINEで細々とした内容の遣り取りをした。
大林の予定を書き出してもらい、手渡しには抵抗があるので
アルバイト料はひと月ごとに苺佳の口座へ振り込んでもらうことにした。
大林から頼まれたわけでもないのに、子供を預かることになって
苺佳の気持ちは揺れ動いていた。
それは大林の気持ちを傷つけたのではないかというものだ。
迷った挙句、翌日、いろいろと考えて作った謝罪と気遣いの文面を
大林に送った。
『この度は私の勝手な申し出を受け入れてくれてありがとうございます。
わかってるんです。どんな家庭にもそれぞれの事情があって
努力されてるのに、他所様の家のことに
口を出してはいけないって。
でも比奈ちゃんがうちの眞奈と仲良くしてくれるのがうれしくて、
私……だから……比奈ちゃんには笑っていてほしいんです。
大林さんの気持ちを傷つけてしまったかもしれません。許してください』
『気遣いありがとう。
古家さんって素直で良い人なのだな。
いいよ、気にしなくて。
そこまで私たちのことを想っていてくれたなんて思ってもみなくて、
今、小さく感動してる。安心して』
◇ ◇ ◇ ◇
すぐに返信があった。
よかったぁ~。
彼女に気持ちが通じて。
私は涙目になりながら小さく頷いた。
それと共に、明日から比奈ちゃんがみんな帰っていなくなった
保育園の片隅で先生が付いてるとはいえ、一人ぼっちで母親を待たなくて
よくなったことに安堵が広がりほっとした。
◇ ◇ ◇ ◇
「瑤ちゃん、明日から苺佳ちゃんと眞奈ちゃんが
瑤ちゃんがお迎えに来てくれるまで一緒にいてくれるんだよね。
よかったぁ~」
「比奈、ごめんな、今まで不安な思いさせて。
ね、眞奈ちゃんのママのこと苺佳ちゃんって呼んでるんだ?」
「うん、そうだよ。
比奈が瑤ちゃんのことケイちゃんって言うの聞いてて眞奈ちゃんも
ママのこと苺佳ちゃんって呼ぶようになって、比奈にも苺佳ちゃんって
呼んでねって、眞奈ちゃんのママが言ってくれたの」
「そっか」
「あっ、でも比奈、先生や他の子の前では瑤ちゃんのこと
ママってちゃんと言ってるよ」
「そっか……比奈はえらいなぁ~」
「うふふっ」
比奈は実の娘じゃない。
急死した姉の子だ。
比奈は両親ともに事故で亡くした。
本来ならばうちの両親が比奈の世話をできればいいのだが。
父親が病気で入退院を繰り返しているため、母親が比奈の面倒までは
見切れない。
それで、ちょうど研修期間も終了し医師としての勤め先も決まった私が
働きながら比奈を育てることになった。
だから私や家族のいるところでは比奈は私のことを瑤ちゃんと呼ぶ。
比奈に別段保育園では私の事を『ママ』と言いなさい、とは
言いつけてはいなかったのに、比奈はちゃんと空気読めてたんだ。
比奈っ、すごいぞっ。
苺佳は翌月曜日から早速金曜日まで比奈と眞奈のふたりを一緒に
連れて帰るようになり、大林もお迎えは保育園ではなく、苺佳の家に。
そして比奈を自宅へと連れ帰る、という生活になり。
そのような生活に慣れた頃、土日を挟み、月曜はふれあい保育の行事が
彼らを待っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日のふれあい保育はキュウリやナス、トマトなど
野菜の苗の植え付けになる。
全員揃ったら担任のところまでプランターを取りに行くことになっている。
苺佳と眞奈含めほとんどの保護者と子供たちが集った頃、遅刻スレスレに
颯爽と現れた大林と比奈。
比奈は眞奈の姿を見つけるや否や急ぎ足で駆け寄って来た。
感じる周囲の婦女子たちの大林に向けられる熱い視線。
まただ。はぁ~。苺佳の口からため息が漏れた。
明らかに大林は彼女たちのスターだった。
これまでも何となく感じてはいたけれども、今日今この時、
彼女たちの気持ちなど気付きたくなかった。
……なのにいち早く気付いてしまった。
なんで?
◇ ◇ ◇ ◇
自分は大林のことなどスターだとも思ってないし特別な感情など
ない……はず。
それならどうしてこんなにも周囲の醸し出す空気に瞬時に
反応してしまうのか?
そんな風に自問自答している苺佳の動揺を知ってか知らでか、
気が付けばズンズンと大林が自分のいる方へと向かって来るではないか。
何故か焦る自分を感じる苺佳だった。
コメント
1件
うわっ、苺佳ちゃんの自問自答がすごく刺さりました。「特別な感情などないはず」って言い聞かせてる時点でもう気づいてる感がたまらない…!大林さんの「いいヤツだなぁ~」とか、比奈ちゃんがちゃんと空気読んで「ママ」って呼んでるエピソードにも胸が温かくなりました。ふたりの距離が縮まる過程が丁寧で、次の展開が気になります〜🤍