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昨夜、深夜のデスクで繰り広げられた熱事が、今も体の奥に重だるい熱として残っている。
出社してからも、椅子に座るたびに彼に触れられた場所が疼くようで、私はまともに顔を上げられずにいた。
「舞さん、おはようございます! これ、昨日のプロジェクトの資料、まとめ直しておきました」
フロアに響く、黒瀬くんの弾んだ声。
彼は何食わぬ顔で、眩しいほどの笑顔を私に向けている。その手には、整然とまとめられたファイル。
「あ、ありがとう。助かる」
受け取る際、指先が微かに触れる。
彼は一瞬だけ、他の社員からは見えない角度で口角を上げ、勝ち誇ったような瞳で私を射抜いた。
昨夜、あのデスクの上で私を翻弄していた「ケダモノ」と同じ目だ。
「黒瀬くん、本当によく気がつくわね。舞とのコンビもバッチリじゃない」
隣の席の先輩が、感心したように声をかける。
それを皮切りに、周りの社員たちも口々に彼を褒め始めた。
「本当に、いい姉弟って感じよね。見てて微笑ましいわ」
「舞さんも、可愛い弟ができて良かったじゃない」
「ま、まあ…」
『姉弟』。
その言葉が耳に刺さる。
本当の私たちは、姉弟なんていう清廉な関係からは程遠い。
服の下には、彼が執拗に刻みつけた「独占欲の印」がいくつも隠されているというのに。
「……はい! 舞さんは僕にとって、特別で、大切で…もう、放っておけない存在なんです」
黒瀬くんは頬を微かに赤らめ、はにかんだように言った。
その完璧な『純情な後輩』の演技に、周囲の女性陣からは「可愛いー!」と歓声が上がる。
でも、私だけは知っている。その言葉の裏にある、重すぎるほどの執着を。
「……舞、ちょっと休憩行かないか?」
声をかけてきたのは、小笠原だった。
彼はどこか険しい表情で私と黒瀬くんを交互に見ている。
「小笠原さん。舞さんは今、僕と次の打ち合わせの確認中なんです」
黒瀬くんが、小笠原の肩を親しげに、けれど強く叩いた。
笑顔なのに、目が笑っていない。
空気が一瞬で凍りつくような、剥き出しの敵意。
「黒瀬、お前……」
「舞さん、行きましょうか。……『二人きり』で話したいことが、まだたくさんあるんです」
彼は私の手首を掴むと、周囲の視線も構わずに歩き出した。
「仕事の打ち合わせ」という名目の裏で
私の肌に食い込む彼の指先が、激しく嫉妬に燃えているのが分かって───
私の日常は、この「可愛いケダモノ」によって、一歩ずつ確実に壊され始めていた。
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