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三枝葵が、“少しだけ”変わった。
昼休み、彼女は珍しくスマホを気にしていた。
無意識に画面を何度もスワイプし、目を伏せて、通知を確認して、
またロックをかけて、ため息をついた。
昨日の私のひと言が、効いてる証拠。
「それ、誰かに言いたかったんじゃない?」
そう。
あの一言は、彼女の“強さ”を疑わせるための導火線だった。
⸻
その夜、私はひとつのアカウントを使った。
サブ垢。アイコンも偽名も変えて、
適当な共通のタグを使って、彼女の投稿にコメントした。
《なんか三枝さんの言葉って、強いけど疲れてそう。》
1時間後、彼女は投稿を消した。
⸻
次の日、葵は教室で笑っていた。
でも、笑いのタイミングがズレていた。
声もわずかに大きくて、言葉の切れも不自然だった。
強がってる。
“自立してる”私を守るために、もっと強く自分を縛ってる。
その姿が、本当にみっともなくて、愛おしかった。
⸻
昼休み、私はあえて葵に話しかけた。
「葵ってさ、なんか“男っぽい”よね。
サバサバしてて、媚びない感じ?」
「んーまぁ、そういうとこあるかも」
「でも、そういう人がたまに弱音吐いたら、ギャップですごい好感度上がるのに。
“全部自分で抱えてる人”って、見てる方もしんどくない?」
その瞬間、葵のまぶたが一度だけ震えた。
ああ、効いてる。
彼女は、**“誰にも甘えられない自分”**が正しいと信じている。
だから、甘えろと言われると、
その生き方すらも否定された気がしてしまう。
⸻
放課後。
私はまた、図書室にいた。
そこには当然のように、西園寺がいた。
「進んでるね」
彼は机にノートを置きながら言った。
「なにが?」
「君の中での、“操作”の精度」
私は笑った。
「人間なんて、支点を見つければ動くよ。
三枝葵は“自分を捨ててまで強くなろうとした人”。
その強さが嘘だって、本人が一番気づいてる」
「じゃあ君は?」
「は?」
「君は、なんのために強くなってるの?」
一瞬、息が詰まった。
その問いは、思ってもいなかった。
私が人を壊すのは、支配するため。
支配するのは、のし上がるため。
のし上がるのは……なんのため?
「…さぁ、そういうの、もう必要ないから」
「それが、もう“壊れてる”ってことなんだと思うよ」
⸻
西園寺はそれだけ言って、静かに立ち去った。
彼の背中を見ながら、私は唇を噛んだ。
ほんの少しだけ、胸の奥がざわついたのが悔しかった。
⸻
夜、葵のSNSにまた一つ投稿が上がっていた。
《“頼られる人”でいなきゃって思ってたけど、
誰も私に頼ってなんかいなかった。》
崩れてる。
仮面が、少しずつ剥がれていく音がする。
あと一押し。
あと一歩。
そうすれば、また一人――この世界から、消える。
⸻
誰にも気づかれずに、
誰かの心を壊せるって、最高に気持ちいい。