テラーノベル
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翌朝。
ゆきは訓練場に呼び出されていた。
「おはよ。」
木箱の上に座っていたりいが手を振る。
「おはようございます。」
「今日は訓練の日なの。」
「訓練?」
「うん。」
りいはぴょんと木箱から飛び降りる。
「私、ゆきの育成係だからさ。」
「そうなんですか。」
「そうなの。」
初耳だった。
「聞いてないです。」
「今言ったし。」
「最近それ多くないですか。」
「そう?」
りいは首を傾げる。
絶対多い。
◇◇◇
「とりあえず能力使ってみて。」
「いきなりですか。」
「いきなりだよ。」
ゆきはため息をつく。
そして右手を前に出した。
冷気が集まる。
足元に氷が広がった。
パキパキと音を立てながら床が凍る。
りいはそれを眺める。
「うん。」
「どうですか。」
「雑。」
「雑?」
「雑。」
即答だった。
「え。」
「出力だけなの。」
「出力。」
「うん。」
りいは凍った床の上を歩く。
「例えばこれ。」
「はい。」
「敵も滑る。」
「そうですね。」
「味方も滑る。」
「……。」
「つまり。」
りいは振り返る。
「考えて使わないと駄目なの。」
「なるほど。」
◇◇◇
りいは指を一本立てた。
「能力を使う人間には大きく二種類いるの。」
「二種類?」
「感情型と行動型。」
ゆきは黙って聞く。
「感情型はそのまま。」
「感情に能力が引っ張られるタイプ。」
「怒ったり。」
「悲しかったり。」
「怖かったり。」
「そういうので能力が勝手に反応するの。」
ゆきの脳裏に浮かぶ。
凍ったベッド。
あの夜。
りいは続けた。
「ちなみにゆきはこっち。」
「やっぱりですか。」
「うん。」
「だってベッド凍らせてたし。」
「忘れてください。」
「無理。」
即答だった。
◇◇◇
「じゃあ行動型は?」
「自分の意思で使うタイプ。」
「出したい時に出して。」
「止めたい時に止める。」
「比較的安定してるの。」
「翼は。」
「行動型かな。」
これも即答だった。
「やっぱり。」
「隊長クラスは多いかな。」
「へぇ。」
◇◇◇
「感情型って弱いんですか。」
ゆきが聞く。
りいは少し考えた。
「別に?」
「え。」
「むしろ強い人も多いよ。」
「そうなんですか。」
「感情がそのまま力になるからさ。」
「出力だけなら行動型より上だったりするし。」
「ただ。」
「ただ?」
「暴走する。」
「……。」
「それが面倒なの。」
◇◇◇
しばらく沈黙が流れる。
ゆきは足元を見る。
氷。
自分の能力。
怖いと思ったことは何度もある。
りいはそんなゆきを見ていた。
「怖い?」
小さく聞いた。
ゆきは少しだけ迷う。
そして頷いた。
「怖いです。」
「そっか。」
りいは笑わなかった。
馬鹿にもしなかった。
ただ頷いた。
「まぁ怖いよね。」
「私も最初そうだったし。」
ゆきが顔を上げる。
「りいさんも?」
「うん。」
「今は平気なんですか。」
「平気じゃないよ。」
「え。」
「今でも暴走したら困るし。」
「じゃあどうして。」
りいは少し空を見る。
「付き合い方覚えたからかな。」
◇◇◇
「付き合い方?」
「うん。」
「感情消すのは無理なの。」
「人間だし。」
「だから。」
りいは自分の胸を指差した。
「まず自分を知ること。」
「自分を。」
「何が嫌で。」
「何が怖くて。」
「何が嬉しいのか。」
「それを知るの。」
「感情型はそこからだからさ。」
ゆきは静かに聞いていた。
今まで誰もそんなことは教えてくれなかった。
能力を抑えろ。
失敗するな。
迷惑をかけるな。
そんなことばかりだった。
でも。
りいは違った。
◇◇◇
「今日はここまで。」
「え。」
「終わり?」
「終わり。」
「早くないですか。」
「大丈夫。」
りいは笑う。
「ゆき真面目だから。」
「考え始めたら勝手に悩むし。」
「……。」
否定できなかった。
「だから今日は宿題。」
「宿題ですか。」
「うん。」
りいは歩き出す。
「自分がどんな人間か考えといて。」
「それだけ。」
「難しくないですか。」
「難しいよ。」
りいは振り返る。
そして少しだけ笑った。
「でも。」
「感情型には一番大事だからさ。」
そう言って。
りいはひらひらと手を振りながら去っていった。
訓練場にはゆき一人だけが残る。
自分がどんな人間か。
そんなこと。
考えたこともなかった。
ゆきは足元の氷を見る。
そして小さく呟いた。
「私がどんな人間か、か……。」
答えはまだ分からない。
けれど。
少しだけ。
考えてみようと思った。
コメント
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るあのすけさん、第7話読みました! りいさんの育成係っぷり、めっちゃいいですね……「雑」って即答からの「まず自分を知ること」って流れ、優しさと厳しさのバランスが絶妙だなって思いました。ゆきが「怖い」って言えたのも大きいし、りいさんが笑わずに受け止めてくれる関係性にじんわりきました。「感情型には一番大事」って言葉、重いです。 次も楽しみにしてます🖤