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彼の言葉が刺々しく紡がれることで、また世界が歪み始めた。色こそ変わらないが、所々醜くうねっている。
「帰るなら清心ひとりで帰って。俺はずっとここにいる」
白露の瞳、黒の奥には真っ赤な激情が垣間見えた。決して平静ではない……しかし自分とは別に、なにか特別な記憶を呼び起こしているようだった。
「もう、好きな人をつくりたくない……また拒絶されるのは嫌だ。怖いよ……」
彼が強く踵を鳴らした瞬間、景色ごと世界が崩れ落ちていった。時間が巻きもどる。
「白露、待って……っ!」
彼の名を呼んだ。
誤解を解きたかった。無理やり連れ戻そうと思ってるわけじゃない。ただ、落ち着いて話し合いたくて。
しかし気付いた時にはまた交差点の目の前に立ち竦んでいた。
腕時計で時間を確認する。現在の時刻、十時十一分。あれだけ長いこといてまだ一分しか経ってない。
それなのに、たった今相対していた白露の顔が思い出せない。まったくもってふざけた構造だと思った。
「好きな人に、拒絶された……か」
それはまるで、俺が中学のときに拒絶した親友のようだ。
十年前に姿を消した、俺の大切な……、
「白、露……」
まさか。
ひとつの可能性が浮かび上がり、背筋に冷や汗が伝う。
────十年前に行方知れずになった親友は、白露なのか?
確証はない。あまりに漠然とした、なんなら決めつけに近いけど胸騒ぎが止まらない。呼吸を整え、現在連絡のつく中学時代の友人に電話をかけて回った。あの頃自分がよく一緒にいたのは誰だったか、何としても聞き出すために。
……だが、その望みはすぐに潰える。清心と仲の良かった少年の存在は、誰の口からも出ることはなかった。十年前の事とはいえ、いくらなんでも酷い結末だ。もちろん、その大事な親友を忘れている自分が一番酷いけれど。
もう他に思いつく友人もいない。どうしようか迷っていると、スマホの画面に「兄」と書かれているアドレスがあった。
清心はしばらく指を滑らせていたが、意を決して通話ボタンを押した。出なかったら諦めよう。そう思っていたものの、四コール目で彼は電話に出た。
『もしもし』
「もしもし。兄貴? 俺、清心」
『おー、珍しい。どうした?』
清心が電話を掛けたのは、三つ歳上の兄だ。彼はもう結婚して、義姉と仲睦まじく暮らしている。聞けば今日は休みだと言うので、時間は気にせず話を切り出した。