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第10話:精神汚染
深夜の屋上。
雨が降りそうな空の下、ユイナはひとり、マスクホルダーを見つめていた。
すでに11枚。
マスクを回収するたび、力は増している――はずなのに、心の奥が妙に“ざわつく”。
最近、夢を見る。
知らない場所、知らない声。
誰かが泣いている。けれどそれが自分か、他人か、わからない。
(…私って、どんな声だったっけ?)
その問いを振り払うように、ユイナは歩き出す。
戦場は、地下構造跡に出現した《マスク領域》。
複数のマスク所持者がこのエリアに吸い寄せられ、強制的にバトルが発生する異常空間。
相手は二人組。
巨大な白仮面を盾にする重装型と、背中に羽根型スラスターを装着した機動型。
「回収者、ユイナ。2対1か。ラッキーだな」
「片方、あんたのマスクもらうね」
ユイナは表情を変えず、黒と赤の戦闘マスクを装着。人格“セカンド”へ移行。
「戦闘ユニット起動。目標:全破壊」
戦闘開始。
前方からの突進に対し、ユイナは低く滑り込み、盾型の重心を崩す。
回転からの膝蹴り、逆手での投げ――無駄のない動きが連続する。
そこへ背後から機動型のマスクが奇襲を仕掛けるが、
ユイナは身体をひねって、“サイトスラスト”を展開。
空間を歪め、敵のブーストをキャンセル。
一撃で片膝をつかせるが――そのとき。
意識がズレた。
目の前の景色が、別の場所に切り替わる。
過去の教室、知らない誰かの顔、泣いている自分。
(これは……いつの?私?誰……?)
脳が混乱し、動きが止まった。
重装型の一撃が胸部に直撃し、吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられ、視界が暗転する。
そこで、声がした。
「……ユイナ!」
飛び込んできたのは、レオ。
ユイナと同年代の少年。短めの茶髪、フード付きジャケット。
表情は素朴だが、マスクは“共鳴型”と呼ばれる感覚共有スキルを持っていた。
彼は戦場に入ってきた瞬間、ユイナの“精神振動”を感知していた。
「今のお前じゃない。ちゃんと戻れ、ユイナ!」
彼の声が響いたとき、ユイナの戦闘人格が一瞬だけ揺らぎ、
本来の彼女の意識が戻ってくる。
胸の奥が熱くなり、ユイナは再起する。
「感情制御、再構成――私自身で、戦う」
赤のマスクが発光し、別の形態に変化する。
“セカンド”の中に、本来の“ユイナ”の意志が融合し始めていた。
反撃開始。
彼女は速度と精度を維持したまま、連撃で盾型を崩し、回収コードを発動。
機動型の背後に回り込み、共鳴スキルで連携したレオがブーストを封じる。
わずか10秒で決着がついた。
戦いのあと、ユイナはレオの前で仮面を外し、静かに言った。
「……ありがとう。少し、思い出せた気がする」
マスクを集めすぎれば、自分を失う。
それでも前に進むためには、“支えてくれる誰か”が必要だ――
そう、彼女は初めて思った。