コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第11話:ギフト保持者との再戦
風のない地下回廊。
古びた配管が軋む音だけが響く、閉ざされた空間に、蒼い灯りが灯った。
ユイナは、その中心に立っていた。
銀のマスクホルダーを背負い、スカートの裾が揺れる。
いつものベージュジャケットの上に、黒のバトルコートを羽織っている。
“来る”。
その確信とともに、空間がねじれる。
蒼白い光の渦が生まれ、彼が現れた。
ギフト保持者・アヴィ
紅いコートに白銀の髪、琥珀色の瞳。
前回と変わらぬ気品と余裕――だが、ユイナの目は恐れていなかった。
「また会ったね、視える子。今度は――どうする?」
ユイナは、静かにマスクを装着する。
「“視える”だけじゃ、足りないって。あなたが教えてくれたから」
瞬間、金色の光が彼女の身体を包む。
人格“セカンド”が起動。さらに、背後のホルダーから赤と黒の“戦術マスク”が自動転送される。
《マスクチェンジ:フェイズフォーム》
目元を鋭く覆うデジタルカット型のマスク。両腕には補助スラスターが展開。
感情制御と機動力に特化した第三人格、“フェイズ”が出現した。
アヴィが笑う。
「……面白い」
開戦。
アヴィが指を鳴らした瞬間、空間が燃えるように裂ける。
意思を燃料とするギフト《イグナイト》が起動し、炎の螺旋が走る。
ユイナは跳び上がり、空中で一回転。
地面にスラスターブレイクで急降下し、衝撃波を拡散。
その勢いでアヴィに迫り、手刀と回し蹴りを同時に繰り出す。
アヴィは火焔を腕に集めてガード――だが、ユイナの狙いは“その瞬間の揺らぎ”。
彼のマスク表面に、かすかにヒビが入る。
(視えた……ここ)
ユイナは“サイトスラスト”を同時展開。
フィールド内に微細な歪みを起こし、アヴィの炎の出力を一瞬だけ乱す。
その隙に、背後へ瞬間移動。
足場を蹴って再度接近、回収コードを撃ち込もうとした――その時。
アヴィの瞳が閃いた。
「君はもう、“マスク”の中心に触れかけている」
彼のマスクが異音を放ち、第二段階へ進化。
全身に紅の火線が走り、彼の動きが一変する。
拳が交錯するたび、周囲の壁が削れ、天井が崩れる。
限界を超えたマスク同士のぶつかり合いは、すでに“能力戦”ではなく“意志の衝突”だった。
最後の瞬間――ユイナはマスクを外した。
驚くアヴィの目前、彼女は素顔のまま拳を構える。
「仮面がなくても、私は戦える。だって今の私は――“演じてない”から」
その拳が、アヴィの肩をかすめる。
爆風。互いに後退。煙の中で静寂が戻る。
……決着はつかなかった。
だが、アヴィは初めて口元で笑った。
「そうか。君も、“自分の顔”で戦えるようになったか」
彼は身を翻し、空間に消えていく。
ユイナは肩で息をしながら、静かにマスクを見つめた。
“勝てなかった”――けれど、“通じた”。
それは、彼女にとって“勝利よりも強い感触”だった。