第11話:ギフト保持者との再戦
風のない地下回廊。
古びた配管が軋む音だけが響く、閉ざされた空間に、蒼い灯りが灯った。
 ユイナは、その中心に立っていた。
銀のマスクホルダーを背負い、スカートの裾が揺れる。
いつものベージュジャケットの上に、黒のバトルコートを羽織っている。
 “来る”。
 その確信とともに、空間がねじれる。
蒼白い光の渦が生まれ、彼が現れた。
 ギフト保持者・アヴィ
紅いコートに白銀の髪、琥珀色の瞳。
前回と変わらぬ気品と余裕――だが、ユイナの目は恐れていなかった。
 「また会ったね、視える子。今度は――どうする?」
 ユイナは、静かにマスクを装着する。
 「“視える”だけじゃ、足りないって。あなたが教えてくれたから」
 瞬間、金色の光が彼女の身体を包む。
人格“セカンド”が起動。さらに、背後のホルダーから赤と黒の“戦術マスク”が自動転送される。
 《マスクチェンジ:フェイズフォーム》
 目元を鋭く覆うデジタルカット型のマスク。両腕には補助スラスターが展開。
感情制御と機動力に特化した第三人格、“フェイズ”が出現した。
 アヴィが笑う。
 「……面白い」
 開戦。
 アヴィが指を鳴らした瞬間、空間が燃えるように裂ける。
意思を燃料とするギフト《イグナイト》が起動し、炎の螺旋が走る。
 ユイナは跳び上がり、空中で一回転。
地面にスラスターブレイクで急降下し、衝撃波を拡散。
 その勢いでアヴィに迫り、手刀と回し蹴りを同時に繰り出す。
 アヴィは火焔を腕に集めてガード――だが、ユイナの狙いは“その瞬間の揺らぎ”。
 彼のマスク表面に、かすかにヒビが入る。
 (視えた……ここ)
 ユイナは“サイトスラスト”を同時展開。
フィールド内に微細な歪みを起こし、アヴィの炎の出力を一瞬だけ乱す。
 その隙に、背後へ瞬間移動。
足場を蹴って再度接近、回収コードを撃ち込もうとした――その時。
 アヴィの瞳が閃いた。
 「君はもう、“マスク”の中心に触れかけている」
 彼のマスクが異音を放ち、第二段階へ進化。
全身に紅の火線が走り、彼の動きが一変する。
 拳が交錯するたび、周囲の壁が削れ、天井が崩れる。
限界を超えたマスク同士のぶつかり合いは、すでに“能力戦”ではなく“意志の衝突”だった。
 最後の瞬間――ユイナはマスクを外した。
 驚くアヴィの目前、彼女は素顔のまま拳を構える。
 「仮面がなくても、私は戦える。だって今の私は――“演じてない”から」
 その拳が、アヴィの肩をかすめる。
 爆風。互いに後退。煙の中で静寂が戻る。
 ……決着はつかなかった。
 だが、アヴィは初めて口元で笑った。
 「そうか。君も、“自分の顔”で戦えるようになったか」
 彼は身を翻し、空間に消えていく。
 ユイナは肩で息をしながら、静かにマスクを見つめた。
 “勝てなかった”――けれど、“通じた”。
 それは、彼女にとって“勝利よりも強い感触”だった。
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