「お待たせしたのでござる、皆が待ちに待った楽しいお披露目の時間がやって来ましたぁ~、さあさあご覧あれぇ~!」
阿呆みたいな気楽な声がカチンコチンに固まり始めていた境内中に響いた、お馴染みの善悪和尚の声である。
振り返った一同の前に姿を現した沙門(しゃもん)善悪は、いつもとは少々、いいや多少、いやいやいや多分に趣(おもむき)を違えて(たがえて)いたのであった。
具体的には、ぴっちりピチピチのダブルのジャケット、鮮やかなブルーに身を包み、色違いの同じ生地であろうグリーンのボトムスは何のつもりか膝上で切り揃えられた半ズボンであった。
エナメルの靴もキラキラと光沢を放ち、真っ白な靴下は清廉な輝きに包まれ、首に巻いた大ぶりのネクタイは、どこの北マケドニアの日章旗? 若しくはチェッカーフラッグかよ? と言いたくなるほどの鮮やかさを周囲に主張し捲っていたのである。
「お待たせしたのでござる、皆が待ちに待った楽しいお披露目の時間がやって来ましたぁ~、さあさあご覧あれぇ~!」
全く同じセリフを口にした所を見ると、きっと前から頑張って考え抜いた言葉だったのだろう……
お上りさん家のトッチャン坊やが顔をテラテラさせて微笑んでいる、なんだ? 癖なのだろうか? 当たり前のように首に提げられた不自然にキラキラ光る二本の念珠(悪魔入り)が、より一層嫌らしい守銭奴(しゅせんど)らしい風味を増している、なんでこんな形(なり)を! そう叫びたくなる出で立ちで現れた善悪は満面以上の笑顔、そう、弾ける良い笑顔で少し気持ち悪かった。
みっともない格好を誇らし気に見せつける善悪の後ろには、最近見かける度に善悪の僕(しもべ)っぽく振舞っていたイラとルクスリアの姿が見られる。
両名とも両手に抱えきれない程の小さなお人形、近世の兵隊っぽい模型を持っているようである。
重労働に従事しながらも、反してそれぞれの表情にはやる気の欠片(カケラ)も見えず、イヤイヤ感が溢れ出している、一体何があったのであろうか? (知ってる)
「んじゃ、そこに降ろして欲しいのでござる、うん、じゃあ、お前たちは帰って良い、ご苦労さん」
バラバラバラバラバラ
言われた場所に模型を落とした二人は無表情のまま庫裏(くり)内部へと戻って行くのであった。
コユキが心配そうな顔を浮かべて善悪に言った。
「ね、ねぇ善悪ぅ、あの二人随分辛そうだったけど…… あんた強権発動とかしてるんじゃないわよね?」
トッチャン坊やと化した善悪は胸を張って答えたのである。
「んん? 二人? ああ、あの下僕共(しもべども)か? 心配いらないのでござる! 目に余る様であれば告発し首を落としてやれば良いのである! 告発されること自体が罪なのである!」
コユキは溜息と共に言うのであった。
「ちょっとアンタ可笑しくなってるわよ? それ、なんてロペスピエール気分なのよぉ! 気を付けなさいよぉ、全くぅ! んなことしてたらギロチンよギロチン! 首チョンパなのよ? 分かってんのぉ?」
「あ、ああ、ギロチンか…… う、うん、そうだね…… 気を付けます……」
間違えた方向に進んだとしても、他人の指摘を冷静に聞き入れそこから間違いを正す事が出来る、幼馴染の素直な生き方に安堵するコユキであった。
心の底から自らの行いを恥じている善悪に向けてコユキは励ましを込めて言葉を告げた。
「さあ、気を取り直して見せて頂戴! 鉄人のアーティファクトの力を!」
善悪は気を取り直したのか、元気な声で答えるのであった、単純なものだ。
「そうでござった! もうちょっとだけ待っててねん! さあ、始めよう、お前たち準備を開始するのだ」
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