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Zoomの画面越しに、ファンが次々と集まってくる。私は、いつも通り完璧なアイドル「田仲真由香」を演じる。いや、演じるというより、私は「まゆたん」という存在そのものだ。艶やかな黒髪ツインテールが私のチャームポイントで、笑顔と愛嬌も売りの一つ。今日もファンに向けて、その完璧な笑顔を浮かべる。
「今日もありがとう、まゆたん!」
ファンの一人が笑顔で声をかける。私は瞬時に反応する。
「あわぁ!」
びっくりした時や嬉しい時に使う、私のお決まりの言葉だ。ファンとのやり取りの中で何度も使い、もうすっかり「まゆたんらしさ」の一部となっている。Zoom通話の最後には、毎回決め台詞を添えて締めくくる。
「今日もお疲れ様!明日も頑張りまゆかぁー!」
スマホの停止ボタンに指を向ける前に、ファンに向けてウィンクを一つ。ウィンクはまだうまくできないが、それも「まゆたんらしさ」としてファンに受け入れられている。それが、私が演じる「完璧なアイドル」の姿なのだ。
私は田仲真由香。ファンは少ないけれど、その一人一人が私にとって特別な存在だ。彼らの名前はすべて覚えているし、どんな会話をしたかもメモしている。それが私の信条だ。ファンとの絆を深めることで、彼らが私を支えてくれている。それが私の「完璧なアイドル像」の一環だ。
それだけじゃない。私はオタクとしての一面も見せることで、オタク層からも支持を得ている。ブログではアニメの話をし、彼らとの繋がりを深めている。
「この前のアニメ、一話見た? まゆたん!」
Zoom通話の中で、ファンが尋ねてくる。私のことを「まゆたん」と呼ばれるのは、正直あまり好きではないけれど、これもアイドルとしての愛嬌だと思っている。
「あわぁ、たやかさん、もちろん見ました!最高でしたよね!」
「え、僕の名前覚えてくれてるんですね!嬉しい!」
「当たり前ですよ!」
「絶対にグッズ買うよ!」
「あわぁ!ありがとう!」
この「あわぁ」という言葉は、私にとって万能なものだ。何を言われても、この一言で返すことができる。私が「田仲真由香」という実体よりも、「まゆたん」という存在に塗り固められているからこそ、自然にそう振る舞ってしまうのだ。
雑誌の表紙を飾り、メディアに出演するたびに、自分が有名人であることを実感する。でも、恋愛禁止という暗黙のルールを破った瞬間、すべてが崩れた。彼氏との熱愛報道が流れ、SNSは「裏切り者」の言葉で埋め尽くされた。ファンから届くメッセージには、失望や怒りが込められていて、心が砕けそうになる。いや、もう砕けてしまっているのかもしれない。
そして、最後の卒業コンサートを迎えることなく、私は「消えた」。