ニュースでは「田仲真由香が何者かに襲われ、行方不明」と報じられていた。僕はそのニュースをスマホで見ながら、真由香がいなくなったことが信じられなかった。彼女が姿を消すなんて、元彼の僕にとってはまるで悪夢のようだ。スマホは鳴り続け、家にはメディアが押しかけている。ネット上では、考察班や特定班が僕の住所を探し出し、家の前にはファンや記者が集まっている。「なぜ、真由香は消えたのか?」
誰が彼女を狙ったのか、目的は何なのか。頭の中でその疑問がぐるぐると回り続ける。心臓の鼓動は、スマホのバイブレーションとシンクロするように速くなる。
「真由香、僕はまだ君のことが好きだったんだ……。いや、今でも好きだ。別れを告げられたあの日以来、ずっと」
その後、家には警察がやってきた。僕は警察に、ラストコンサートの二日前に真由香に別れを告げられたことを話した。警察は僕を疑っているようだった。ネットでも「犯人は元彼ではないか」という声が上がっていて、僕の顔が犯人扱いされている。だが、僕にはそんなことをする理由はない。
他に疑わしい人物がいるなら、それはストーカーだ。以前、真由香の家に無理やり入ろうとした奴がいたと聞いていた。警察にそのことも伝えたが、それも今は確信を持てる証拠にはならないらしい。彼女の遺体も見つかっていないからだ。
唯一の手がかりと思われたのは、ラストコンサート会場のステージ中央に静かに置かれていたマイクだった。アイドルがアイドルを辞め、普通の女の子に戻る時に使う「象徴」のようなものだ。しかし、そのマイクが本当に何を意味しているのかは、誰にもわからなかった。
数日が経つと、田仲真由香の失踪事件は別のニュースに埋もれていった。世間の関心は他の話題へと移り、彼女のことを追いかける者は少なくなった。だけど、僕は諦められなかった。真由香の行方を探そうと、彼女が好きだった場所を一つずつ訪ねることにした。たとえ写真を撮られても構わない。今、元彼として僕にできるのは、これくらいしかないのだから。
どこから探し始めるか悩んでいた時、ふと思い出したのは、真由香がかつて出演していたドキュメンタリー映画『ぼくたちはまだ飛べない』のことだった。映画は、人気アイドルグループ「サイレントエコー」のセンターとして活躍していた田仲真由香の姿を追ったもので、その中で彼女がインタビューに答えていた。彼女が語っていた理想のデートについてのシーンが頭をよぎる。