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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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関係者だっていって、裏口に入らせて貰ったが、待機室の何処にもゆず君の姿はなかった。

皆も、突然消えた、最後の参加者について気になっているようで、何処に行ったんだと、関係者なら探してくれともいわれて、追い出されるような形で、俺は待機室から出た。投票結果を聞かせて貰えば、まあ、ゆず君がぶっちぎりだったみたいで、もし、優勝者が戻ってこなかったら、投票し直し、最悪はこのコンテストが破綻してしまうと、ゼミ生は頭を抱えていた。だから何としてでも探してきて欲しいと言われてしまった。俺は、そんな理由なくても、ゆず君がステージの上にいたこと、これに参加していたことに対して色々聞きたかったし、何よりも、約束すっぽかして何をしているんだと言いたかった。



(そんなに遠くまで行っていないはず……)



と、俺は、体育館からそこまで離れていない普段使われていない校舎の前まで来ていた。校舎の前では、ニャーニャーと休んでいる猫たちが鳴いていて、危うく踏みそうになってしまう。



「ゆず君いったい、何処に行って……」

「つーむぎさん」

「うわああっ!」



バッと目を隠され、一気に視界が暗くなったことで、俺は悲鳴を上げてしまう。目がひんやりとした手で隠されたことによって、ぶるっと身体が震えてしまう。そして、耐えきれなくなった身体は、尻餅をついてしまい、「紡さん!?」と後ろから聞き慣れた声が聞えてきた。



「ゆず君」

「はい、ゆずです。貴方の恋人のゆずですよ」

「……もう、何処に行ってたの」



恋人の、なんて可愛いこと言ってくれるゆず君を危うく許してしまうところだったが、俺は心を鬼に……いや、ちょっとした俺の我儘というかエゴというかを出して、上を見上げる。そこには、女装姿のままのゆず君が立っていた。仁王立ち。そんな風に立ってたら、とても女の子に見えないよ、と思いながらも、その格好がどこからどう見ても女にしか見えなくて、俺はつい目をそらしてしまう。可愛い、反則だと。

きらっと光ったのはアイシャドーだろうか、つけまつげをしているのか、まつげも長く見えて、そして、いつも以上にサラサラとした亜麻色のウィッグからいいにおいがする。金木犀の匂いだろうか。俺の好きな匂い。



(俺、好きな匂いいったっけ……)



いったような、いっていないような、記憶は曖昧だった。でも、もし、知ってこの匂いをつけてきてくれているのなら……なんて、期待も出てきてしまう。淡い、淡い、期待というか、そんな儚いもの。



「何処って、女装コンテストでてたんですよ」

「じゃあ、何で発表前に出て行っちゃったの?」

「受賞者インタビューあるって聞いて。さすがに喋ったら、バレるかなあって思ったんです。ほら、僕、一応有名俳優の祈夜柚ですから」

「……はあ」



自分で、自信持って言うところがゆず君らしい、なんて考えながら、確かに、バレたら大変なことになりそうだとは思った。それを考慮した上で、そんなことを言うゆず君は、本当に楽しむためだけに、参加した、という感じだった。ゆず君らしいのは分かる。でも、相変わらずすぎて、何て言えば良いか。呆れてはいない。もう、慣れたことだし。

俺は、ため息をつきつつも、ことが大きくなる前にとんずらしたのは良かったかも、と立ち上がりながらゆず君を見る。

夜空のようなドレスは、膝上までで、下から覗いたらパンツが見えそうなほど短い。のど仏が見えないように、首元を隠しているところとか、綺麗な足とか、兎に角、女装に手が込まれているのだけは見ても分かる。自分でやったのか、誰かにやって貰ったのか。それは分からないけれど。クオリティの高さに、うっとりとしたため息は漏れた。



「どうですか? 紡さん」

「どうって……似合ってる、とか、いえば良いのかな」

「感想が普通すぎますよ」

「じゃあ、何て言えば良いのさ」



恋人の女装を見て、それも、自分を普段抱いている恋人の女装を見て、何を言えば良いか教えて欲しかった。ゆず君がどんな言葉を望んでいるかとか、それすら分からない。

恋人になってもゆず君のこと、分からない事ばかりだった。



「戻らなくて良いの?」

「いや、さっきも言いましたけど、ステージとか、ああいう舞台嫌いなんですよね。あと、ことが大きくなったら、怒られちゃいますし」

「事務所に無断で参加したってこと?」

「人生楽しんだもの勝ちですよ」



と、誤魔化して、ゆず君はにこりと笑った。


この姿のまま、学園祭をまわるのは厳しいな、と思いつつも、ゆず君の姿に見惚れてしまって、体温がゆっくりと上がるのを感じていた。

ずるいほど、何を着ても似合う恋人。

女装も似合うなんて……でも、女装をしていても、彼の宵色の瞳に宿った欲情を、俺は見つけてしまうのだ。



「そうだ、紡さん。ここの校舎って、今使われてないんですよね」

「あ、うん。実習とかには使うけど、頻繁には使われないかなあ。物置とかになってるかも……って、ゆず君?」



ニヤリと笑ったゆず君の顔を、俺は見過ごすことは出来なかった。

嫌な予感しかないと、頬が引きつってしまうのを感じながら、ギュッと捕まれた腕を俺は振りほどけなかった。


突然ですが、BL小説のモデルになってください!!

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