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「ゆ、ゆずくーん」
「はーい♡ 何ですか? 紡さん」
「ど、何処に向かってるの? 勝手に入ったら怒られない?」
「迷い込んじゃったっていえば良いんですよ。それに、紡さんはここの学生な訳ですし、それっぽい言い訳作って下さいよ」
「ええ……」
自分勝手、押しつけないで、といいたかったが、この時は呆れて何も言い返す事が出来なかった。というか、いつも、言い返せていないし、何も言えていない。意志が弱いといわれれば、意志が弱い。認めよう。
そんな風に、ゆず君に手を引かれて連れてこられていたのは、普段頻繁には使われていない校舎。物置のようになっていて、あちらこちらに段ボールが散乱している。中に入っているかも分からない段ボールの箱を見ながら、薄暗い廊下を歩く。そして、目についた教室の飛びに手をかけて、ゆず君は入ろうといわんばかりに腕を引っ張った。女装をしていても、怪力は男性のもので、少しだけ、骨から変な音が鳴った気がした。ゆず君の手は、俺よりも少し小さいくらいで、背だって、俺よりも小さい。顔も童顔だし、俳優で雑誌の表紙を飾るくらいの美形で。俺が守ってあげなくちゃって思うのに、全然そんなことないくらい力が強い。離してもらおうと思ったけど、びくともしないのだ。
連れてこられるまま入った教室は、何の変哲もない場所で、でもここにも段ボールが散乱している。それを蹴飛ばしながら、ゆず君はよいしょっ、といって机の上に乗っかった。
「な、何」
「もっと、近くで見たくないですか? あんな所からじゃ、僕の姿、よく見えなかったでしょ」
「ステージ……矢っ張り、目、あったよね」
「勿論ですよ。恋人なんですから、何処にいても見つけられますよ。僕のこと見くびらないで下さい。」
と、うっとりとした表情で、頬を撫でられ、俺の身体はビクンと反応する。まるで、何かを期待するように、腹の奥が熱くなってしまう。
矢っ張り目が合っていたんだと、俺に対して微笑んでくれていたんだと、優越感に浸っていく。もう、抜けられないくらい、彼の恋人っていうその地位に溺れていた。
腹の奥がきゅんきゅんと、内股を擦るように俺が腰をくねらせれば、ゆず君は何かに気がついたように俺を凝視し始める。
気にしない、気づかないフリをして、俺は自分の腕をギュッと握りしめる。
それを見て、クスリと笑ったゆず君は、履いていた厚底ブーツを脱ぐと、少し蒸れた紺色のニーハイソックスを履いた足で、俺の顎をクイっと持ち上げた。
視線がぶつかる。
その瞬間、恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。あまりにもなまめかしくて、妖美で、頭がくらくらしてしまうから。まるで、酒を浴びせられたかのような……いや、媚薬を飲んでしまったかのように、酷く哀れな欲情に駆られる。
「紡さんかーいい」
「可愛くないよ。可愛いのはゆず君の方じゃん」
「本当にそうですか?」
「え……」
ひょいと、机の上から降りると、したから見下ろすようにヌッと顔を動かして、最後には俺の唇を奪うゆず君。女の子に攻められているみたいだ、と頭の片隅で思いつつ、油断して口を開けば、今だというようにあつい舌がぬるりと侵入してくる。
女装をしているせいなのか、普段よりも女々しく感じるキス。甘い味は、リップクリームだろうか。柑橘系の匂いに、つい酔ってしまいそうになる。
服や髪からは、金木犀の香り、そして、ゆず君のキスは少し酸っぱくて、でも甘い味がした。
「ふぅ……ん」
「ほら、可愛いのは、紡さんの方じゃないですか」
つぅと糸を張って離れていく濡れたゆず君の唇。それを拭う仕草が色っぽくて。
俺は、ゆず君の恋人なんだと実感させられる。だって、そこには愛おしそうに俺を見るゆず君の顔があったから。
女装をしても、恋人が格好良く見えるのは当たり前の事だった。でも、だからって、ゆず君の思うままにされてたまるか、っていう気持ちもあった。頭の何処かでは。
「あれ? 紡さん、いつもより興奮してます?」
「え、いや……そんな」
「だって、もう勃ってるじゃないですか。興奮してないって言い切れます?」
と、ツンと、股間をつつかれて、思わず声が出てしまう。
ゆず君が、女装をしていても男らしいのは分かっているけど、やっぱり、女装をしたゆず君に攻められているという事実に、いつも以上に感じてしまっている自分がいる。
女装をしている、ゆず君に抱かれる妄想、背徳感に、興奮していないかと言われたら、しているし、妄想している時点でもダメだと思った。
「今日、口でしてあげましょうか」
「え、え、でも」
「紡さんのここは、して欲しいって言ってるのに?」
そういって、ファスナーをジーと口で下ろしたゆず君は悪戯っ子のように笑った。
もう止らない、とゴクリと固唾を飲み込んで、俺は、チュッと下着越しに俺のものを吸っているゆず君を見下ろした。上目遣い、もう女の子にしか見えない、これはいけない事だ、って頭がバグを起こしてる。けれど、止らないゆず君にいとも簡単に下着を脱がされて、既に勃起してしまっているそれの先端にわざとらしいリップ音を立てて、チュッと吸い付いたゆず君は、俺を甘い地獄に落とすように笑った。
「ね、興奮してきたでしょ? 紡さん」
「……うん」
悪魔の笑みに、俺は、吐息混じりの返事で答えた。