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「エトワール様、準備はよろしいですか?」
「はい! いつでも、大丈夫!」
皇宮の中庭まできた私は、準備をすませ蒼色に光る魔法石を持ったブライトの目の前に経って、いつでも準備が出来ているから。という意思表示をし、親指を立てた。ブライトはそんな私の行動に苦笑しつつも、保護者のように見守っているリースに再び頭を下げた。
ブライトの準備はそこまでかからなかった。何をしてきたのかは不明だったが、大方大蛇との戦闘になった時の対処物とかをそろえてきたのでは無いかと思った。何にしろ、準備なしでいくのは無謀だと、リースにもアルベドにもいってしまっているため、私自身準備せずに……何てことは出来なかった。だから、準備しているフリをしながら、その実何もせずに時間を浪費した。
それにしても、初めてみる魔法石はとても美しく、確かに仄かな魔力を感じた。石に魔力が凝縮されているのだろうと言うことが一目で分かった。光り輝いているのはその魔力が表に漏れ出た証拠だろう。石という割には透き通っており、宝石と見間違えるほどだった。
魔力量はまだ計り知れないが、見る限りブライトのいったとおり二人を転移させる分しかないようにも思える。だからこそ、二人で行くのだが。
「ブリリアント卿、エトワールの事を頼むぞ」
「はい、殿下。ブリリアントの名に誓って必ず、エトワール様をお守りします」
と、ブライトは胸の前で拳を握った。
名に誓って守ってくれると言うことに、あっちではない文化で驚きつつも、何処か恥ずかしい気持ちになった。守ってもらう立場ではあるが、ただ守られてばかりではいけないと。足手まといが一番ダサいと分かっている。
(そうよ、ブライトだって洞くつでの戦闘は避けたいだろうし、光魔法は闇に弱いんだから)
その逆もあるが、光の灯らない洞くつの中では私達が圧倒的に不利なのだ。その薬草を摘んで、すぐに帰ることが私達に求められている。
ただ、嫌な胸騒ぎはするが。
「エトワール」
「は、ひゃい」
いきなり声をかけられ、きょどってしまった私は、リースの言葉に過剰に反応し声が裏返ってしまった。それを、ブライトは口をポカンと開けてみていたが、リースは相変わらずだなあ。と言う風にみて、肩をすくめた。
でも、いきなり声をかける方が悪い。
(いや、私が完全に油断していたのもあったけれど)
咎めようとは思わないし、このまま流すつもりではいるが、どうしたのかと私はリースを見た。彼のルビーの瞳はやはり不安の色が見え隠れしており、いって欲しくないと言っているようなものだった。でも、それを口にしても名にも変わらないと分かっているか、彼は何も言わなかった。それか、彼なりの配慮か。
(リースも変わったんだ)
何というか、感慨深いものがある。この表現は適切ではないかも知れないけれど、少しずつ成長しているリースをみていると、何だか嬉しい感じがした。
四年間アクション何もなしに付合ってきて、あの時はただの完璧超人だと思っていたけれど、実はただ完璧でなければならないと思っている完璧主義者で、彼の中には葛藤だったり人間らしい部分があったりした。それが分かったのは遅すぎるような気もしたけれど。
「それで、エトワール。くれぐれもブリリアント卿から離れるんじゃないぞ」
「え?」
私は思わず口に出してしまった。リースが「ブリリアント卿から離れるんじゃないぞ」といったのが意外すぎて、聞き返そうともしてしまったのだ。
リースだったら、男にくっつくな、嫉妬してしまうだろう! っていう感じなのに、くっついていろと、彼は言った。どういった風の吹き回しなのか分からずにいると、リースは咳払いをする。
「危険な大蛇がいる洞くつにいくんだ。お前に何かあったら困るからな。エトワールは目を離すと何処かに行ってしまうし……」
そうごにょごにょと言いながら、リースは視線を逸らした。
確かに私は、ちょこちょこしているし、リースからしたら目を離した好きにどっかに行ってしまう人間かも知れないが。
(私情を無視して、私のこと考えてくれているんだ)
と、心の奥が温かくなる様な気がいた。
矢っ張り、変わったんだと。
「うん、大丈夫。ブライトから離れないから」
「ま、まあ、その近くにいろっていう意味だからな。勘違いするなよ」
まるで、ツンデレみたいな台詞を言ったが、意味合いが全くツンデレのそれではなく、やはり何処か嫉妬を隠せていないようだった。リースらしいと言えばリースらしい。
そんな彼の姿にクスクス笑っていれば、リースは顔を赤くした。
だが、スンとこうしている場合では無いと思いだし、私は、ブライトの方を向いた。彼はもう準備ばっちしという感じで、私を見ており、私達の会話が終わるのを待っていてくれるようだった。空気の読める男はいい。
「ごめん、ブライトまたせっちゃって……連れて行ってもらうのに」
「いえ、僕のことは気にせず。殿下とエトワール様は本当に仲がよろしいんですね」
微笑ましいです。と、ブライトは呟いた。
仲がいいように見えるんだと、まあ当たり前と言ったら当たり前なのかも知れないが、ブライトからは、男女の仲と言うより、友達の仲と言う風に見えているようだった。まあ、どう見えていようがいいのだが。
私は、ブライトの近くまで行き、彼の指示で魔法石に触れた。青い魔法石はパッとまばゆい光を放ちだし、私達の身体はその光に包まれていく、足下には申し訳ない程度の魔方陣がうっすらと浮かび上がっており、その魔力量はあまりないことが伺える。これは、帰り、二人分持つかどうか怪しい。そんなことを考えつつも、私はリースの方を振返った。
リースは、少し残念そうに私を見て手を振る。
「気をつけるんだぞ……エトワール」
「分かってるって」
私は、いってきます。の意を込めて彼に手を振り替えした。リースはフッと笑うと、手をふりかえし、私達は完全に青い光に包まれた。
――――
――――――――
「――――っと」
「エトワール様、大丈夫ですか? 魔法酔いとかしていませんか?」
転移魔法は無事成功し、私達はとある森の中に転移した。遠くには、洞くつの入り口らしきものがあり、あそこが北の洞くつと呼ばれている、私達の目的地だと察する。
ブライトは慣れない魔法だったから、大丈夫だったかと私の身体のことを気遣ってくれた。
確かに、普通の転移魔法よりも頭がぐわんとした感じはしたが、そこまで問題ない。馬車酔いに比べればまだ可愛い方なのだ。
私は、そう思いながら、彼の手に握りしめられている魔法石をみた。魔法石は先ほどまで青く光り輝いていたが、今は曇ってしまったガラスのように、何処か煙たい色をしていた。感じる魔力も少なくなっており、全て使い切ったら黒くなってしまうのでは無いかと思った。
さて、本当に帰りまで持つのだろうか。
そう、私が心配そうにみていると、ブライトも同じ気持ちなのか「思った以上に、消費が激しいです」としまったとでも言うような顔をしていた。
「魔力量は足りていると思ったんですが、災厄の影響か、魔力を吸い取られているようです」
「災厄ってそんなのも関係あるの?」
「はい。混沌は人の負の感情を糧にして成長しますが、その過程で魔力も必要になるんです。そして、魔力は至る所に存在しており、2~5%ほど自然に含まれていると言います。そして、この魔法石も存在するだけで魔力を周囲にはなっており、発掘したことで、本来の性能が落ち、魔力が漏れ出てしまいそのまま放出している状態になっているんです」
「ええっと、つまり、発掘した後は日持ちしないって事?」
「まあ、そうですね。いつもはそこまでなんですけど、このご時世、その放出量が激しくなっているんでしょう」
と、ブライトは説明をした。聞いてもあまり理解が出来なかったが、取り敢えず日持ちしないと言うことだ。
(じゃあ、矢っ張り二人分持たないって事?)
心配になりつつも、私は、洞くつを見据えた。考えるのは後回し、まずは薬草を採りにいかなかれば。
「じゃあ、ブライト、いこう!」