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俺は爺さんに礼を言って部屋を出た。その瞬間、玄関の扉が勢いよく開き、サブが転がり込むように飛び込んできた。額には汗がべっとりと張りつき、顔色は青ざめ、肩で荒い息をしている。
「どうしたんだよ、一体? そんなに慌てて」
俺が腰に手を当てて問いかけると、サブは喉を震わせながら言葉を絞り出した。
「へ、へびのような……竜のような人間が、いきなりやってきて……村の民を、こ、殺した……」
「「!?」」
俺と爺さんの声が重なる。何を言っているのかすぐには理解できなかった。ただ、只事ではないことだけは分かる。人を殺した? へび? 竜? それは形態変化した人間のことではないのか。そいつがいきなり村を襲った? もしや、さきほどの話と繋がるのか。ある王国の追手――俺たち一族をここで滅ぼすつもりなのか。だが、なぜ今なんだ。疑問が次々と浮かぶ。しかし、死傷者が出ているというなら、捕らえるのは難しい。ならば、殺してでも止めなければならない。
「何事じゃ?」
「爺さん、敵っス……村人を殺していたっス……」
サブは震えながら繰り返す。
「何じゃと。それは本当なのじゃな。早く村人を避難させねば――」
「爺さん、俺に任せてくれ。サブ、そいつはどこにいる?」
「奴は村の入り口で人を殺すのを見かけました。オレッチは家の陰に隠れて、ここに来ました……そして、一人じゃないっス。何人か率いているっぽいっス」
複数か。胸の奥が冷たくなる。
「分かった。お前はここにいろ。俺がそいつらを始末してくる」
二人のうなずきを背に、俺は外へ飛び出した。
家を出た瞬間、衝撃の光景が広がる。
「何だ、これは……!?」
村のあちこちから煙が立ち上り、悲鳴と怒号が入り混じっている。村人たちが形態変化した腕や脚で応戦しているが、押されている。そこに立つ異様な存在――リザードマンのような姿でローブをまとい、結晶の付いた杖を握っている。形態変化特有の継ぎ接ぎの違和感がまるでない。まるで最初からその姿で生きている種族のようだ。ローブの隙間から覗く鱗は硬質で、しなやかな尻尾が地面を打つ。皺の刻まれた顔に、細く鋭い目。そこに感情は読み取れない。
そのリザードマンが杖を掲げた。
――ドドドドドッッ。
地面が爆ぜ、鋭い結晶が地中から突き上がる。まるで生き物のように生成され、伸び、空間を穿つ。村人が形態変化した腕で防ぐが、衝撃に耐えきれず吹き飛ばされた。俺は駆け寄り、その体を受け止める。
「大丈夫か!!」
「ああ……僕は平気だ。こいつら、いきなりやってきて攻撃したんだ」
俺はゆっくりとリザードマンを睨む。
「おい、お前。一体なんで俺たちを攻撃するんだ!」
奴の目がぴくりと動く。しかし、それ以上の反応はない。言葉を持たないのか、通じないのか、あるいは答える必要がないのか。何を考えているのか分からない。もし追手なら、本当に王国から来たのかどうか、反応で探れるはずだ。
「なあ、お前は、ある王国から俺たち一族を皆殺しにする命を受けてやってきたんだろ?」
沈黙。無反応。風がローブを揺らすだけだ。伝承と近しいのは間違いない。だが、姿があまりにも異質だ。
リザードマンは結晶の杖をさらに高く掲げた。結晶が強く光る。さきほどと同じなら地面から巨大な結晶が生えるはずだが、様子が違う。光が凝縮し始め、周囲の空中にも小さな結晶が次々と生成されていく。浮かび、増え、密集していく。雨のように降らせる気か。
「君、村長のところまで避難するんだ!」
「は、はい!」
青年が走り去るのを確認し、俺は歯を食いしばる。早くこいつを片付けてリンとソウの元へ行かなければならない。だがここで退けば、奴は村長の家へ向かうだろう。今ある脅威を取り除くしかない。
「宿れ――巨大な橙色牙の王」
以前倒した恐竜の力を宿す。骨が軋み、皮膚が分厚い装甲のように変質し、右腕は大剣のような腕刀へと形態変化する。刀身は橙色に発光し、熱を帯びた光を放つ。
次の瞬間、雨のような結晶が降り注いだ。
俺は腕刀を盾のように構え、正面から受け止める。衝撃自体は重くない。だが数が多すぎる。豪雨のように叩きつけられる結晶が火花を散らし、足元の地面を抉る。防御に徹するしかない。やがて結晶の雨が途切れ、俺は腕を下ろす。
奴を逃さぬよう、再び見据える。
そのとき、どこからか鼓膜を突き刺すような鋭い音が響いた。
――パァン!!
聞いたことのない、乾いた破裂音が村中に反響する。結晶が弾ける音とも違う。もっと圧縮された何かが射出されたような音だ。
嫌な予感が、背筋を冷たく撫でる。
早く、リンとソウの元へ――。