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――パァン!――パァン!!
村中に響く乾いた音。悲鳴も聞こえる。早く二人を助けに行かないと。冷や汗が額を伝っていくのが分かる。
「秒で片付けてやる!」
俺は大剣を防御していた体勢から構えを変え、リザードマンへと距離を詰める。リザードマンの前に淡く光り出す無数の何か。そしてそれらが固まり、結晶壁が出現する。
そんなもので俺の攻撃を防げると思ったか!
俺は上段から縦に大きく腕を振り下ろす。
――バキバキッ
刃先が結晶壁にめり込み、バキバキと音を立ててそれをぶち破る。これにはリザードマンも驚いているようだった。無口な野郎だぜ。もっと大声で喚いてみたらどうだ?
さぞかし楽しかったんだろうな、村の民を殺してくれてよお! お前ごと叩き斬る!!
振り下ろした大剣を構え直し、横一線に薙ぐ。リザードマンは杖の結晶を使えず、杖の柄で受け止めようとした。
馬鹿が。そんな棒切れに俺の大剣が通らないとでも思ったのかよ?
――バツン
気づいたときには、リザードマンの上半身と下半身は離れていた。宙に舞っていると錯覚したのは、自分が斬られたと理解した瞬間、地に伏せたときだった。
「急がねえと――」
倒れた下半身を一瞥し、家の方向へ向き直る。俺はフライバエの形態変化で背中に二枚の羽を生やし、超速で家へと羽ばたいた。
大丈夫であってくれ、大丈夫であってくれ。
家の目の前まで辿り着く。まだあちこちで悲鳴が聞こえる。くそっ、全てを救いたいが、俺にだって守りたい者がいる。
――ギィ
扉が開く。その先にはリンがソウの手を引いて出てきた。どうやら窓際から外の様子を窺っていたようだ。
良かった、無事みたいだ。
だが、ここもいずれ危険になる。村長の家でみんなを退避させよう。あそこは広いし、村の民が避難するにはもってこいだ。
「良かった、二人とも無事で」
「ええ、ゲンも無事そうで良かったわ。それより、この騒ぎは何?」
リンは心配そうな表情をしている。後ろで手を引かれたソウも不安げだ。
「ああ、色々と村長と話してな。もしかしたらこの騒ぎにも関係しているかもしれない。それで、トカゲみたいな人間たちが俺らを襲ってる。何を言ってるか分からないが、ここにいたら危険だ。村長のところまで向かうぞ。二人はそこで避難しててくれ。俺は村の民を助ける。」
「でも、ゲンは大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。さっき村の青年が襲われてたから助けてやった。だから対処も何となく分かる。俺がこの村を守るんだ。」
先程のリザードマンを思い出す。あれは簡単には勝てない。村の民では苦戦するはずだ。狩猟特化で生きてきた俺たちに奇襲を仕掛けてきている時点で、詰まされているようなものだ。くそっ、気づけなかった俺のミスか。
「村を守るため……ね。それなら良いけど……って、ならないわ。ようやくまた三人で幸せを噛み締めてたのに……。ゲンが強いのは知ってる。けど……ゲンが一人で背負わなくても……私も出るわ。」
リンの表情が曇り、俺を見つめて力強く言う。ソウは指を口に咥え、二人を見ている。
「ダメだ、リン。お前はソウの面倒を見るんだ。」
「ゲン……あなたね、私だって狩りに出てたのよ? ソウだって大きくなってるんだから、村長のところで見てもらえばいいじゃない。」
「それもそうだが、俺は……リン、お前に危ない目に遭ってほしくなくてだな……。まあ今はよそう。ここは危ない。村長の家まで向かおう。」
「それもそうね。ソウのことも考えないとね。」
「よし、行こう。」
俺たちは村長の家へ向かった。その間にも戦火は広がっている。戦う音が村中に響き、不穏な空気が続いている。
俺が先頭、その後ろにリンとソウ。
急がねえと――。
「ねえ、やっぱり私も戦うわ。」
「その話は着いてからにしよう。」
俺はリンの方を向いていた顔を前に戻し、歩みを進める。しかしリンはなおも訴えかける。
「私ね、あなたに守られて嬉しい。でもね、ゲン、あなたのことが心配なの。それにソウにとってあなたの代わりはいない。私にとってもそう。いつも狩猟に出てるんだから、たまには私も。私とあなた、両方とも欠けちゃダメなの。それに、この子もあなたに構ってほしいはずよ。この子が大きくなったら、三人で狩猟もできる。この子は私と一緒にいて、かっこいいあなたの背中は見られないでしょ?」
俺は歩みを止め、リンの言葉を一つ一つ胸にしまい込んだ。
その時だった。
――パァン!!
「だから、二人で守ってあげ――――」
村長の家を出てから何度も聞いた乾いた音。リンの言葉が途中で途切れる。
悪寒が走る。全身に鳥肌が立つ。ほんの一瞬。
俺は振り向いた。
「……っ!?」
リンの額から血が噴き出している。脳が弾け、脳漿が飛び散る。リンのそばにいたソウの全身に血がかかる。ソウは呆然としている。
リンは手を差し伸べるように、そのまま倒れた。
「ガっ……」
「リン!!」
俺は駆け寄り、リンの身体を抱き上げる。血が服に滲み、温かい。理解が追いつかない。
何でいきなりこんなことに?
落ち着け。落ち着け俺。
「おい、リン!! リン、起きろ!! どうしたんだよ!!」
何が起きているのか分からない。
「……あ、い……し、てる……」
リンが残りの力を振り絞る。
「待て、待て、大丈夫だ……大丈夫だよ……なあ? うそだろ……なんで……。俺も……愛してる……リン……。ゴメン……頭が真っ白で……何が起きてるのか……」
腕の中で、リンの熱が失われていく。瞳孔が開き、その瞳に俺が映っていた。
「わああああん」
ソウが大粒の涙を流して泣き叫ぶ。
俺が守らないと。
リンのそばに銀色の何かが落ちていた。血がこびりついている。リンを地面にそっと寝かせ、それを拾う。
何だこれは……? これがリンをやったのか?
――そのとき、茂みから誰かが現れる。
「おいおい、女子供だけかと思ったのに、男もいるじゃねえかよ。せっかくのご褒美タイムが残念だぜ。」
見たこともない異様な姿の男。村を襲ったリザードマンとも違う存在。
水色の坊主頭、巨躯。見たことのない服。右手には黒く細長い、手に馴染みそうな武器。
異様な佇まいに、静寂が落ちた。