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CASE 七海
カタカタカタカタ…。
僕は自室で、キーボードを叩いていた。
沢山のパソコン画面には、アジト周辺に仕掛けた隠しカメラから見える映像が流れている。
「今日もアジトに侵入して来る奴等は、いないな…。」
テーブルに置いてあるエナジードリンクに手を伸ばす。
ブー、ブー。
スマホが振動した。
着信相手は…、ボスからだ。
「もしもし、ボス?」
「五郎の様子はどうだ?」
「うん、今はとりあえず大丈夫みたい。モモちゃんが、自分の腕を切って五郎に血を飲ませたから…。」
「何だと?」
僕の言葉を聞いたボスは、声を低くした。
「あ、四郎がすぐに止めたから!!だけど、モモちゃんが血を飲ませてくれなかったら…。五郎は死んでたよ。」
「…、モモちゃんに助けられたようだな。」
「うん。」
「七海、お前は?怪我はしなかったか?」
ボスは時々、僕を子供扱いする。
それが嫌だと感じた事はなかったけど。
「うん。僕は何ともないよ。」
「セキュリティーを強化してくれ。今回の件で、椿会の連中が来るかもしれんからな。」
「分かった。他にもする事はある?」
「いや、大丈夫だ。宜しく頼むな。」
そう言って、ボスは通話を終わらせた。
「ふぅ…。」
息を吐きながら椅子にもたれた。
ふと、右手の中指に彫られたローマ数字のVIIが目に入った。
これは、僕がHero Of Justice の7人目のメンバーだと言う証だ。
そして、右手首に彫られた緑と黄色の2匹の鳥のタトゥーは、僕が会いたい人の為に彫ったもの。
そう、僕には会いたい人がいる。
「あれから…、11年か。」
日本に来て11年経ったのか…。
「Brothere how are you…。(お兄ちゃんたち、元気かな)。」
本名、William。
僕は、11年前に両親に売り飛ばされた。
大きな鳥籠の中に大きなワイシャツを着せられ、舞台の上に置かれた。
そこには沢山の人がいて、声がうるさかった。
「声…、うるさ。」
僕は膝を丸めて、顔を埋めた。
この時の僕は、自分の事なのに客観視していたんだ。
生まれた時から、そうだった。
家族と思えたのはお父さんやお母さんではなく、僕の護衛してくれていたお兄ちゃん達だけだった。
僕の家はいわゆるお金持ちで、大きなお家から出た事がなかった。
いや、出して貰えなかった。
人とは違う見た目だったからだ。
生まれた時から髪や肌、まつ毛、瞳の色素が白かった。
それはアルビノと言う症状なのだと、医者は言った。
人よりも紫外線に弱く火傷し易く、色素が薄い所為で太陽の光や強い光を受けると、目に激痛が走った。
紫外線を受けると人よりも皮膚癌になるリスクは高かった。
お母さんとお父さんは僕の世話を2人のお兄ちゃんに任せた。
お兄ちゃんと言っても、血は繋がっていない赤の他人だ。
深緑色の髪をしたお兄ちゃんは、日本人と両親に説明された。
そして、綺麗なブロンド髪を靡かせたお兄ちゃんはフランス人だって教えてくれた。
ここはイギリスの首都ロンドン、僕より5歳上のお兄ちゃん達が何故、ここにいるのか当時は分からなかった。
だけど、お兄ちゃん達は凄く優しかった。
「あ、マスター!!待って!!日焼け止めとサングラスをしないとダメだろ?」
「天音(あまね)、うるさい…。」
僕は深緑色の髪をしたお兄ちゃんに、日焼け止めを塗られ、サングラスを掛けさせられた。
「あははは、不貞腐れてんな?マスター?」
金髪の髪のお兄ちゃんに紫外線カットの洋服を着せられた。
「不貞腐れてないもん!!ノア。」
「これは失礼しました、マスター。」 「ふん。」
僕はそう言って、そっぽを向く。
「マースタ?」
「うわっ?!」
天音は僕を軽々と体を持ち上げた。
「マスターの体の事を心配してやってるんだよ?」
「分かってるよ…。僕がこんな体で産まれて来たからだろ。」
「マスター自身の事も心配してるんだよ、僕達は。マスターが大事だからね。」
天音はそう言って、僕の頭を撫でた。
2人だけが僕の事をしかり、慰めてくれた存在。
母さんと父さんは家にいても、お互い別々に過ごしていた。
母さんは宝石やドレスの商人を屋敷に呼び、買い付けをしていたし、父さんは仕事ばかりだった。
アルビノの僕は天音とノアに世話を任せっきり。
僕の事を見向きもせず、自分達は自分達の生活を送っていた。
だけど、1つだけ2人共通して楽しみにしている事があった。
それは毎週金曜日の夜に行われる闇パーティに行く事だった。
その頃の僕は闇パーティがどんなものか分からなかったが、今となれば人身売買のパーティだったと分かった。
「天音君、ノア君。今日はお母さんとお父さんはパーティに行った?」
僕はそう言って、ベットの両サイドに座っている天音とノアに尋ねた。
「あー。えっと…。」
ノアは苦笑いしながら、言葉を探していた。
その反応を見て僕は確信した。
「そっか。」
「マスター、僕達がいますよ。」
「天音?」
「僕とノアはマスターの側を離れませんよ。それに、僕達の生活の一部になってるんですから。」
「僕が?」
僕の言葉を聞いたノアが、僕の隣に寝転んだ。
「マスターは俺と天音の生きる意味だ。俺と天音は奥様と旦那様に買われたんだ。」
「ノア!!その話はするなって…!!」
「良いから、大丈夫だから。」
話に入って来た天音を宥め、ノアは話を続けた。
「買われた…って?」
「今、奥様と旦那様が行ってるパーティでね?俺と天音が買われここの屋敷にやって来た。そして、俺達のマスターになるは貴方に出会った。俺は、マスターに出会えて良かったと思ってるんだ。これまで生きる希望を捨てた俺に、生きる意味を与えてくれたからね。」
「ノア…。」
「マスター、僕もノアと同じだよ。マスターにもう、寂しい思いはさせない。これからは僕とノアがマスターの家族になるから。泣かないで。」
2人の話を聞いていたら、自然と涙が出てていた。
僕は寂しかった。
お母さんとお父さんに構ってもらえなくて、外にも出られないこの屋敷に居場所がない様に思えて…。
だけど、天音とノアが僕の居場所になってくれた。寂しくない。
2人がいてくれれば、それで良い。
そう思っていたのに…。
この日常は永遠に続かなかった。
William 7歳
2人はお世話係り以外にも、違う仕事もしていた。
その仕事が何なのか教えてはくれなかったけど、2人が屋敷に帰って来るのを夜中に見てしまった。
天音とノアが血塗れで帰って来た。
手には銃や刀が握られていて、2人の目は死んでいた。
「奥様と旦那様、仕事回し過ぎだろ。マスターと過ごす時間が減った。」
「ノア、仕方ないだろ。僕達を買ったのは2人だ。3人で暮らす為に僕は仕事する。」
「まぁな…。風呂に入ろう、マスターにこの匂いを嗅がせちゃダメだ。」
天音とノアの会話をうっかり聞いてしまった。
母さんと父さんは…。
2人に殺しの仕事をさせていた…?
嘘だ。
嘘だろ…?
何で、何で…。
こんな事をさせるんだよ。
僕はこの時から、両親に不信感を抱いた。
「会社が倒産してしまった。」
「う、嘘でしょ!?じゃあ、この家はどうなるの?!この生活はどうなるのよ!!」
夜中にトイレで起きた僕は、父さんの部屋の前を通った。 その時に部屋から、母さんと父さんの言い争いが聞こえてきた。
会社が倒産…?
お父さんの会社が潰れたって事?
それで2人は言い合いしてるのか。
7歳になった僕は、大人がどんな話をしているのか大体が理解出来た。
1年前から、父さんの会社は業績が下がって来ていた。
理由としてはシンプル、ライバル社の方が商品を安く販売したから。
それがヒットしたライバル社にうちの会社が負けてるだけ。
母さんはこの裕福な生活を手放したくないのだろう。
僕は天音とノアと暮らせれば良い。
2人がどうなろうと、どうだって良い。
天音とノアさえ居れば…。
「そうよ、天音とノアを売れば良いじゃない!?あの子達は殺しの仕事を嫌がらないわ!?」
母さんはとんでもない事を言葉にした。
「天音とノアか?」
「ウィリアムをダシに使えば、あの子達は言う事を聞くわ。」 「まぁ、アイツ等を買ったのは俺だしな。使い道はいくらでもあるか。」
「ちょっと、待てよ。」
バンッ!!!
僕は思わず扉を開けてしまっていた。
「ウィリアム!?」
「母さん、父さん。2人の事を売るのは許さない。」
僕は母さんを睨み付けた。
「じゃあ、お前が売られるか。」
「は?」
「お前が売られて、私達に金を積んでくれ。出来るか?天音とノアの代わりにお前は売られるか?」
頭が真っ白になった。
この人達は最初から、僕の事を息子だと思ってない。
金になればそれで良いって事かよ。
「アルビノには価値があるんだよ。お前を高値で売れば、会社を建て直せる。お前は顔は良い、それにアルビノだ。最高だろ?」
「アンタ等は金にしか目がないのかよ。」
「金こそが全てだ。何を当たり前の事を言っている。」
天音とノアにこれ以上、辛い思いをさせたくない。
僕がいなくなれば、2人は…。
自由になれる。
「2人には手を出すな。僕が売られればいんだろ。1つ条件がある。」
「条件だと?」
「天音とノアを自由にして。もう、2人に殺しの仕事をさせないで。2人を解放して。」
「それだけか?」
「うん。」
「分かった。早速、行こう。」
父さんはそう言って、僕の手を乱暴に取り手を引いた。
バンッ!!
扉を乱暴に開けた父さんは、早足で廊下を歩いた。すると、後ろから2人の足音が聞こえた。
「「マスター!!」」
「天音、ノア!!」
今、2人の顔を見たら…。
決心が揺らいでしまう。
「旦那様!!マスターをどこに連れて行く気ですか!?」
「闇市場に売り飛ばす。」
天音の問いに答えた父さんは足を止めた。
「な!?何の為に、マスターが売られないといけなんだ!!」
「金の為だ。お前等は私に意見出来る立場ではない。」
「マスターの手を離せ!!!」
ノアが手を伸ばそうとすると、使用人達が天音とノア体を拘束した。
「離せ!!離せよ!?」
「行かせてたまるかよ!!」
「天音、ノア。」
僕がそう言うと、2人は泣きそうな顔をして口を閉じた。
「僕は2人が大好きだよ。天音、ノア…。2人は僕の事を忘れて自由になって。だから…っ、バイバイ。」
「行くぞ。」
グイッ。 「「マスター!!!」」
2人の叫び声が廊下に響いた。
僕は声を出して泣いた。
涙が枯れ、僕は何も感じなくなった。
父さんは知らないおじさんから大金を貰い、僕を引き渡した。
服を脱がされ、体のサイズとは合わないシャツを着せられ、大きな鳥籠の中に入れられた。
そして、大きな舞台の上に置かれる。
大人達は歓声を上げ、次々に値段を言っていた。
あぁ、僕はもう死んだのと同じだ。
天音とノアのいない人生なんて、もう…。
誰も僕を助けてくれない。
誰も僕を自由にしてくれない。
ここにいる大人達はなんて、気持ち悪いんだろう。
そんな時だった。
パァァアン!!!
銃声が聞こえた。
「何…。」
顔を見上げると、眼帯をした黒いスーツの男が銃を天井に向けて発砲していた。
「何んだ!?お前は!!」 司会の男が眼帯の男に尋ねた。
だが、眼帯の男は答えずに客に向かって発砲した。
すると、男の後ろから天音とノアより少し大人の男が2人現れ、客達を殺し始めた。 「いや、いゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「や、やめろ!!あがぁぁぁぁぁあ!!」
「グハッ!!」
客達は叫び声を上げながら逃げ回る。
だが、眼帯の男達はそれを許さないで殺していた。
何?
あの人達…。
眼帯の男は舞台に上がり、司会の男を撃った。
パァァアン!!
バタッ。
倒れた司会の男を蹴り飛ばし、僕の前に立った。
「Came to pick you up (お前を迎えに来た)」 英語…。
カチャッ。
鳥籠の鍵を開け、僕に手を伸ばした。
この人は…、黒の救世主だ。
僕は男の手を掴んだ。
これが、兵頭雪哉…、ボスとの出会いだった。
「懐かしい…、夢を見たな。」
少し眠ってしまっていたようだ。
「僕を助けてくれたボスの為に、僕は僕のやるべき事をしないと。」
再びキーボードに向かい、パソコンを操作した。
ヒースロー空港 (ロンドンで最も使われる空港)
「ねぇ、あの2人…。凄くカッコイイ…。」
「本当に…、俳優かモデルなんじゃないかしら?」
空港内の女性達の視線を奪っている男達がいた。
綺麗なブロンドの髪はセンターに分かれて、緩くウェーブの掛かった髪を靡かせて歩いている男。
その隣に、鮮やかなグリーンアッシュのサラサラした髪の男が歩いていた。
この2人を見て女性達の視線を奪っていた。
「天音、急ぎ過ぎ。日本行きの便はまだだよ。」
「急がないでいられないだろ。やっと、マスターへの手掛かりを得たんだ。」
ガラガラ。
キャリーバックを乱暴に引き摺り、スタスタと歩いているのは天音であった。
「手紙を送って来た男の事を信用し過ぎない方が良い。もしかしたら…。」
「罠だっとしても殺してしまえば良い。」
「11年振りに会えるな。」
ノアはそう言って、写真を取り出した。
写真にはウィリアム、天音、ノアが写っていた。
「11年前、マスターを助け出した男…。兵頭雪哉、この男に会わないといけない。そして、兵頭雪哉からマスターを取り返す。」
「天音、殺気出過ぎ。」
「あ、ごめん…。」
「いや、良いよ。俺もマスターを取り返したいし。俺等のマスターは1人だけだ。」
ノアがそう言うと、アナウンスが流れた。
「そろそろ日本行きの便の時間だな。行こうぜ、天音。」
「うん。」
天音とノアは日本行きの便に乗り込み、ロンドンを立った。