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立秋 芽々(りしゅう めめ)
219
『へい!タクシー!』
5.『へい!タクシー!』
結婚相談所が開催したパーティーなんて全然期待してなかったけど、参加者はそこそこ良い男が揃ってた。
結婚する気なんて無いけど、遊び相手を探す手間はマッチングアプリでちまちまやるよりこっちの方が断然早い。
参加費が高いのがウザいけど、まぁこればっかりは仕方ないって思うほかないよね。
お酒の種類もいっぱいあって、料理も美味しかったし、二次会までしっかり楽しめた。
三次会にカラオケ行く人も何人かいたけど、私はパスすることにした。
「えーー!唯ちゃん帰るの!?」
ブランドもののスーツに身を包んだおっさんが千鳥足が近づいてくる。
口が臭い。最悪。話しかけてくんなよ。
「唯はもう帰ります。明日仕事なんで」
仕事なんてしてないけど。
「どうやって帰るの?終電はある?」
そう言って近づいてきたのは、パーティーの中でも一際人目を惹いていた高橋君。
イケメン。金持ち。なんか良い匂いもするし。
「いつも利用してるタクシー呼んだからそれで帰るの」
こんなイケメンが釣れたら最高なんだけどな。
「じゃあ、俺もご一緒していい?」
「は?お前、何抜け駆けしてんだよ。俺は?俺も一緒にタクシー乗って良い??」
もう私の目には、悪臭をばらまくおっさんなんて見えなかった。
私は迷わず高橋君の腕を掴む。
「高橋君なら良いよ」
「はぁ!?んだよ、このクソ女!!」
ああ、こういうこと平気で言っちゃうタイプのおっさんか。
なんで生きてんだろ。マジで老害だろ。
周り見てみろって、みんなドン引きしてんじゃん。
もういいや、無視しよ。関わるのもめんどいし。
「あ、タクシー来た!高橋君、行こ!」
私は高橋君の腕を引っ張って、タクシーに乗り込んだ。
なんとなんと高橋君も同じ地域に住んでて、最寄りの駅も同じだった。
奇跡。これを奇跡と言わないで何を奇跡って呼ぶんだろって感じ。
「駅裏にある居酒屋行ったことある?」
「ずっと気になってるんだけど、一人だと入る勇気がなくって…」
「じゃあ、今度一緒に行く?」
「え〜〜いいの?」
全力で愛嬌を振りまいて、高橋君に擦り寄る。
高橋君もまんざらではない様子で、私の頭を撫でてくれた。
連絡先を交換したのは本当に自然な流れで、マジで今年の運を全部使い果たしたかもしれない。
「えっ!唯さん、料理が得意なんですか?」
「意外に見えるかもしれないけど。結構、やるんだよ」
私はスマホを操作して、今まで作った写真を見せてあげた。
「うわっ!すご!本格的じゃないですか。これとかめっちゃ美味そう!居酒屋もいいけど、唯さんの手料理の方が魅力的かも。今度、俺のために何か作ってくださいよ」
「うん!いいよ!」
料理ができる女に弱いのは、イケメンも同じってありがたい。
そのあとも色んな話したと思うけど、はっきり覚えてない。
結婚はまだ考えてないっていうのは同じ意見だったし、その方が後腐れ無く会えるねぇって話をしたような気がする。
でも、楽しい時間はあっという間。
次に会う日にちを決めたところでタクシーが高橋君の家の前で停まった。
高層マンションって、イメージ通り過ぎる。
「すっごいところ住んでるんだね」
「あはは…そうなんだけど、高所恐怖症だから住んでるのは低層階だよ」
なにそれクソ可愛いんですけど。
これがギャップ萌えってやつか。
高橋君はどこか照れたような顔をして、タクシーを降りる間際、私にそっと口付けをした。
口に!!
「じゃ、またね」
そして、爽やかな笑みを浮かべてタクシーを降りていった。
「な、な、なにあれ〜!!かっこいい!!」
いやいや、あれは反則でしょ。
あれで惚れない女がいないわけがない。
なにあれ、絶対女遊びしてるじゃん。
女を手のひらで転がしまくってるじゃん、絶対。
「ああいう人が婚活パーティでゲットできるなんて、最っ高!!この間は、子連れのハズレを引いたから今度こそゲットしてやる!!」
そう、この間はマジでハズレだった。
未婚だとか言いながら家に行ったら子供はいるし、奥さんに逃げられて離婚はしてないとか言うし、散々だった。
だから、同じミスはしたくない。ちゃんと高橋君の家に行って、奥さんとか恋人とかそういう厄介なのがいないか確認しないと。
「なに作ってあげようかなぁ?なに着ていこうかなぁ?」
夏も近いし、思い切って露出度の高い服でも着て誘惑しちゃおっかなぁ。
そこらに転がってる女よりも、私の方が断然良い女なんだってわからせてあげないとね。
そういえば、前田のやつ、今日は妙に静かなんだけど。
「ねぇ?今日、無口じゃん。どしたの?彼女にフラレた?」
私がガツンッと運転席の背もたれを蹴っても何も言わない。
なんだよキモいな。
「え?お茶?」
何も言わずにペットボトルのお茶差し出してきたんだけど、なになに、マジで何なの。
喉乾いてたからいいけどさ。
「珍しく気が利くのが逆に怖いんだけど」
私は笑いながらお茶を飲む。
こうやって妙に親切にしてくるってことは、後ろめたいことがあるか、頼み事があるかのどっちかなんだよね。
「彼女と別れたんなら新しい子紹介してあげよっか?彼氏が浮気したとかで傷心中だから、すぐヤれると思うよぉ」
でも、返事は無い。無視かよ、前田のくせに。
「おい!なんか言えって」
お茶を飲みながら再び運転席を強めに蹴る。
「その前に紹介した女の子が自殺したこと、覚えてますか?」
「は?覚えてないよ。そうなの?いや、っていうかそうならないように気をつけろっていつも言ってんじゃん」
何人か前は、逆ギレして刃物振り回してきて警察沙汰になったって言って大変だったのに。
フラレて自殺とか、マジで迷惑なんだけど。
「人のこと言えないでしょう?あなたも前に付き合っていた男性、借金まみれにして見捨てたじゃないですか」
「……」
おかしい。なんで、こいつそのこと知ってんの。
その話はしてないはずだけど。いや、それより声が違うような気がする。
いや、まさか、そんな。
運転席を覗き込むと、前田は大きなマスクをして黒縁眼鏡をかけてた。
一瞬なんでそんな変な格好してんだって笑いそうになって、気付いた。
「あんた、誰?」
「おや、今気づいたんですか?」
ああ、そうだ。やっぱりこいつは前田じゃない。
「前田は?」
「ご安心ください。後ろに乗せてます」
「……後ろって…」
後部座席の後ろには、トランクしか無い。
マジか。生きてんのか死んでんのかわかんないけど、このままじゃまずい。
窓の外を見たら、街灯一つ無い真っ暗な山道を走ってるし。
「……あんた、何者?」
聞きながら私は手元のスマホを操作しかけて、手を止める。
「おや、どうしました?警察に連絡してもいいんですよ?でも、困るのは僕ではなく、あなたの方ですよね?」
「は?なんで?」
「少し前に、子連れの男性ともお付き合いされてましたよね?」
こいつ、なんでそんなこと知ってんの。いや、カマかけてるだけかもしれないし。
「なんのこと?」
「奥さんと縒りを戻すと言われて激昂し、相手を殺すのはどうかと思いますけど」
「……お前、どこまで知ってんの?」
「どこまで?あなたが”菊原優子”という偽名を使っていたこととか……」
「…は?」
「あとは、中学生のときに男性教諭と意図的に関係を持って、最終的にその男性の将来を断ったことまではわかっていますよ」
ああ、ダメだ。こいつは、このまま帰したらダメだ。
ここで殺そう。ああ、もうなんでこういうバカな男ばっかり私に寄ってくるんだろ。
───ゴトッ…
手からスマホが滑り落ちた。
「え?」
待って、指が痺れて、感覚が…。
こいつ、ペットボトルの中になんか仕込んでやがったのか。
「くそっ…」
鞄の紐で首を締めてやろうにも、上手く力が入らない。
「止ま…止ま…れっ!!」
運転席を蹴飛ばしても止まる気配は無い。
「今、止まって山の中に捨てられても困るのは霧島唯さん、あなたの方でしょう?さぁさぁ、観念してください。泣こうが喚こうが、行き着く先は決まっていますので」
こいつは、なんだ、こいつの目的はなんだ。
誰かの復讐なのか。誰だよ、誰の差し金だよ。
絶対許さない、ぶっ殺してやる───。
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