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そこからは、まさに地獄のような、それでいて幸福すぎる「甘い拷問」の始まりだった。
ダブルベッドの隣で、彼女は僕の右腕を抱き枕のように抱え込み、胸元に頭を預けてスースーと規則正しい寝息を立て始めた。
シルクのシーツが衣擦れの音を立て、彼女の柔らかな重みが僕の右半身に沈み込む。
(……っ、待て。何だ、この圧倒的な『反発感』は……!?)
腕を包み込む、逃げ場のない感触。僕の上腕に、彼女の柔らかな胸の弾力を感じる
(この、ダイレクトに伝わる体温。ブラジャーのような『硬質なインターフェース』の感触が一切ない。……ま、まさか、ノーブラ!?)
脳内サーバーは一瞬でパニックに陥った。彼女が寝返りを打つたび、その膨らみが形を変え、僕の腕にむにゅりと圧着しては離れる。ブラというフィルターを通さない、剥き出しの「熱」と「柔らかさ」。
皮膚の裏側を直接撫でられているような、痺れるような感覚が、僕の脊髄を駆け上がって脳髄を直撃する。
(……む、無理だ……寝れない。一秒たりとも寝れる気がしない)
追い打ちをかけるように、彼女の滑らかな生足が僕の脚に絡みついてきた。シーツを滑る摩擦音が、静かな部屋にやけに大きく響く。僕の大腿に、彼女の太腿が、ぴったりと隙間なく密着した。
さらに無意識にこぼれた「……よういちさん……すき……」という寝言。
煩悩が鎌首をもたげるたびに、僕は天井を見つめ、意味を思考から排除するために「文字コード」への変換を開始した。
(『すき』……S・U・K・I。 文字コードはUTF-8。ひらがなの『す』は16進数で『E3 81 99』……『き』は『E3 81 8D』……)
僕は脳内で素数を数え、デッドリフトの正しいフォームを反芻し、ひたすら16進数をループさせた。
魔王(お義兄さん)のジムで一時間限界まで追い込まれる方が、筋肉が千切れる痛みの方が、よっぽど楽だ。
夜明けを待つ囚人のような心地で、カーテンの隙間から差し込む青白い光を待ちわびていた。こうして、僕は「魔王の100回スクワット」を遥かに凌駕する、人生で最も過酷な、一睡もできない夜を耐え抜いたのだった。