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スマホの画面には、短い一文だけが残っていた。
――体をもう少し絞れたら、次の段階に進めます。
涼ちゃんは既読をつけず、画面を伏せた。
胸の奥が、静かに冷える。
スカウトされたドラマ。
嬉しかったはずなのに、話はいつもそこで止まる。
演技でも、スケジュールでもない。
「体型」の一言で。
冷蔵庫を開ける。
閉める。
また開ける。
食べ物が敵に見えるわけじゃない。
ただ、条件を満たしていない証拠みたいに思えてしまう。
「痩せないと、進まない」
それが事実なのか、思い込みなのか、もう分からない。
リハの合間、若井がペットボトルを差し出す。
「これだけでも飲んどきな」
涼ちゃんは一瞬迷ってから、受け取った。
飲む量は、ほんの少し。
「ドラマの件?」
元貴の声は、核心を突いてきた。
「……うん」
それ以上は言わない。
言ったら、全部崩れそうだったから。
夜、ひとりで体重計に乗る。
数字が減っても、安心はしない。
増えたら、呼吸が浅くなる。
“足りない”
“まだ足りない”
誰に言われたわけでもない言葉が、頭の中で繰り返される。
翌日、マネージャーとの短い打ち合わせ。
「無理はしなくていいよ」と言われたのに、
その直後に「でも業界的にはね」と続く。
涼ちゃんは笑って、うなずいた。
慣れている反応だった。
スタジオの隅で、しゃがみ込む。
立ちくらみ。
視界が白くなる。
元貴がすぐに気づいて、肩を支えた。
「条件を満たすために壊れたら、意味ないだろ」
その言葉に、涼ちゃんは初めて顔を歪めた。
「でも、痩せないと進めないんだよ」
声が震える。
「進まないなら、選ばれた意味がない」
沈黙。
若井がゆっくり口を開く。
「進めない理由を、全部涼ちゃんの体に背負わせなくていい」
涼ちゃんは、何も返せなかった。
正論すぎて、逃げ場がなかった。
その夜、涼ちゃんはメモにこう書いた。
――今日は、無理に減らさない。
たった一行。
決意というほど強くない。
でも、自分に向けた条件だった。
ドラマの話は、まだ進まない。
拒食も、簡単には消えない。
それでも涼ちゃんは知っている。
“痩せた先”にしか居場所がないわけじゃないと、
誰かが本気で信じてくれていることを。
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