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リユ
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#ダークファンタジー
阿炎快空
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阿炎快空
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コメント
1件
読み終わった……これはめっちゃ好みのホラーだわ!「影濃ブレンド」ってネーミングからしてセンスあるし、喋る自販機のキャラが絶妙に不気味でいいよね。最初は「おやおや」みたいな軽い口調だからこそ、最後の「夜の一部です」がめっちゃ重く響く。依存していく主人公の心理描写がリアルで、ラストの怪談話に繋げる構成も上手いなって思った。続きも気になる…!
【GAME OVER】
テレビの画面に大きく表示された文字を眺めながら、志村正樹は大きく欠伸をした。
コントローラーを置き、溜息をつく。
明日は久々にバイトが休みなので、もう少し夜更かししたい気分だった。
正樹はアパートを出ると、眠気ざましのエナジードリンクを買う為、コンビニへと歩き出した。
その道すがら——正樹は街灯の灯りに照らされた、奇妙な自販機を見つけた。
外観は黒一色で、メーカーのロゴなども一切描かれていない。
こんなところに自販機があっただろうか?
そう思いながら正面に立つと、自販機が話しかけてきた。
「こんばんは、よい夜ですね」
朗らかな女性の声だった。
喋るタイプの自販機か。
にしても、変わった挨拶だ。
正樹は商品のラインナップをざっと見渡した。
見たことのない飲み物ばかりだ。
「随分と眠たそうですね。ブラックコーヒーなど如何です?」
今時の自販機はそんなこともわかるのか。
おそらくは、センサーによって客の年齢や性別などを判別しているのだろう。
感心しつつ、正樹はブラックコーヒーらしき缶を探した。
あった。
黒い缶には『影濃ブレンド』と表記されている。
「かげ、のう、ブレンド……?」
「そちらの商品名は、『影濃ブレンド』ですね」
まさかこちらの言葉にまで反応するとは。
AIでも搭載されているのだろうか。
驚く正樹に構わず、自販機は言った。
「キャッチコピーは『飲み干せば、夜の一部』。飲むと眠気が無くなりますが、その代わり、影が濃くなる副作用があります」
「影が濃くなる?」
「はい。あなたの影が、あなたの夜を肩代わりするのです」
ふうん、と生返事をしつつ、正樹はポケットから財布を取り出した。
よくわからないが、何だか面白そうだ。
投入口へ小銭を滑り込ませ、ボタンを押す。
ガコン、と缶が取り出し口に落ちる音。
正樹は缶を取り出し、プルタブを引いた。
——香りに特筆すべき点はない。
コーヒーと聞いて想像する通りの匂いだ。
「なんだ、普通じゃん」
拍子抜けしつつも、正樹は一口、ぐっと飲み込んだ。
途端に、強烈な苦みが舌に広がり——その後すぐ、身体の芯まで目が覚めるような感覚が押し寄せた。
「おお……確かに眠気が吹っ飛ぶな……!」
正樹は感動しつつもう一口飲み——ふと、足元を見た。
街灯の灯りに照らされ、正樹の影が地面に伸びている。
心なしか、その影がいつもより少しだけ——ほんの少しだけ濃くなっているような気がしたのだ。
「心配ありませんよ。影の濃さは飲んだ本人にしか認識できませんし、放っておけばそのうち元に戻るはずです」
ただし——と、明るい口調で自販機は続けた。
「どんなものであれ、飲み過ぎにはご注意を」
それから正樹は、『影濃ブレンド』を愛飲するようになった。
公園の中、土手の上、廃病院の手前——
出現場所は毎晩変わったが、不思議と正樹にはその場所がわかった。
正樹にとって、『影濃ブレンド』は夢のような商品だった。
就職活動に失敗した正樹は、大学卒業後の数年間、ずっとカラオケ店でのバイトを続けてきた。
人手不足の為、全ての時間帯に駆り出される無茶なシフト。
バイトから帰ってきたら、次のバイトの時間に備えて、死んだように眠りにつく——その繰り返しに、正樹はほとほと嫌気がさしていたのだ。
一本飲めば、一日眠らなくても平気になる。
自分の為に使える時間がぐっと増えるし、何より『影濃ブレンド』を飲んだ際の、眠りから解放される万能感は癖になるものがあった。
時には、自転車で片道三十分ほどかけて買いに行ったり、一度に十本ほど買い込むこともあった。
『影濃ブレンド』を常飲するようになって一ヶ月。
その晩、自販機は人気のない駐車場の端に出現していた。
「いつもありがとうございます。しかし——少し飲み過ぎではありませんか?」
自販機の言葉を、正樹は鼻で笑った。
「平気、平気。むしろ絶好調だよ」
今や、正樹の影は墨汁のように真っ黒になっていた。
しかし、それを認識できるのは正樹のみ。
気にさえしなければ、何の問題もない。
正樹は買ったばかりの『影濃ブレンド』を一気に飲み干した。
眠気が飛び、活力が全身に漲る。
ふう、と息をつき、自販機の横に設置されたゴミ箱に缶を捨てる。
「『飲み干せば、夜の一部』か——やっぱ俺には、これがないとな」
満足げに呟き、立ち去ろうとしたその時であった。
正樹の影が、ゆらり、と揺れた。
「え?」
最初は見間違いかと思った。
だか、違った。
影は生き物のように蠢くと、じわじわと足をつたって、正樹の体を這い上がり始めた。
「な——何だよ、これ——」
「おやおや、影に負担をかけすぎましたね。どうやら完全に、夜に支配されてしまったようです」
「た——助け——」
「でもまあ、良かったんじゃありませんか?」
相変わらずの明るい口調で、自販機が告げる。
「これであなたも、夜の一部です」
やがて、全身を侵食され——影に覆われた正樹は、自販機に背を向けると、夜の闇へと静かに消えていった。
「ありがとうございました——またのご利用をお待ちしております」
それからその地域では、とある怪談話が噂されるようになった。
夜になると、ぼんやりとした黒い影が、あちこちの自販機の下に手を伸ばしたり、釣り銭の受け取り口を覗いたりしている。
その影はこちらに気がつくと、よろよろと近づきながら、か細い声で懇願してくるのだという。
「なあ、あんた……金を……コーヒー代をくれ……あれがないと、俺は……俺はぁぁぁぁ……」