コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
闇神クラティアを退けた。だが、ルティを覆うスライムの塊は解けていない。そこでおれは重力貫通を試みることに。
「確かに闇ダメージは吸収をしたが、どうだろうな。全て終わったとは考えにくいが……」
「とにかく小娘を何とかしないと!」
「フィーサ、重力を付与させるぞ。準備してくれ」
「は、はいなの!」
スライムの弱点は炎。だが本体に効かなかったことを踏まえ、最も有効な手段を取る。盲点を突いたうえでスライム自体に不意をつき、貫通によるダメージを与えるしかない。
「ウニャゥ?」
「シーニャ、そこを動かないで待っててくれ」
「分かったのだ」
稲妻による音と光で呆然となっていたシーニャだったが、すでに回復している――とはいえ、今はルティの救出劇を黙って見守ってもらうのみだ。
「やるぞ、フィーサ」
「はいなの!」
両手剣フィーサを手にし、スライムの塊に向けて全神経を集中。重力魔法を剣に付与させ与える一撃は強振のみに。実際にはスライムの盲点をつき、歪みを生じさせるほどの打属性を与えるだけに過ぎない。スライムには本来打属性が有効では無く、弾き返されるのがオチだからだ。
だが、両手剣に重力を付与した上での攻撃であれば貫通させられる。加えてルティは格闘属性のドワーフだ。スライムにダメージを通らせるが、ルティにも多少なりの殴打によるダメージで目を覚まさせるという博打的な手段となる。
「貫けろ! ブラインドサイド!!」
おれは裂帛《れっぱく》の気合と共に、両手剣による攻撃でスライムに突き刺した。すると、一瞬の煌めきに似た光が辺りを包みだす。そのあまりの眩しさに目を覆ってしまった。
――そこから数分くらい経っただろうか?
シーニャを見ると彼女も両手で目を隠しながらしゃがみ込んでいて、静寂な空間が出来ていた。そこから離れたところに見えるのは、見上げる程のスライムの塊の姿ではなく水に濡れたルティの姿だった。
「大丈夫……。小娘は問題無いなの」
「……あぁ」
簡単にくたばるような娘ではないと信じていた。ぐったりした姿を見る限りでは分からないが、多少なりとも打属性ダメージも蓄積された可能性がある。
「ウニャッ! 回復するのだ!!」
視界の遮断から回復したシーニャはすぐに治癒魔法をかけ始めた。
様子を見ていると、
「あぅぅ、悪いことしてごめんね。お詫びに光神リアディオを連れて来てあげるから~」
水路のどこからかクラティアの声が聞こえた。闇が抜けて悪戯《わるさ》をする心が抜けたのだろうか。
「光神? それって……フィーサの」
「まさかここに来るなの!? そんなのあり得ないことなの」
闇神スライムの反省なのか、それとも気まぐれか。いずれにしてもシーニャの治癒魔法だけでは、ルティの目を覚ますには至っていない。そう思いながらしばらくすると、何か右手が熱を帯びたような感じを受け始める。魔石を手にしていないのに、魔法文字が浮かんで来るような感覚だ。
「あつぅっ!?」
「ど、どうかしたなの?」
「……フィーサ。おれの右手はどうなってる?」
「え、右手? ……こ、光神さまと闇神さまの印!! これってもしかして……」
熱さを感じたのは一瞬だ。
その一瞬で付与されたのは――
「し、印が宿っているなの! まさかまさかの光神さまのお力が使えるかもしれないなの」
何やら大興奮のフィーサだが、属性の神にでも認められたのか?
光が使えるからといって回復魔法が使えるかというとそれは別だが。とにかくシーニャの治癒魔法に加わって、光魔法をルティに試してみることにする。
「ウニャニャ!? ま、眩しいのだ……! でも何だか温かいのだ~」
回復魔法のコツを知らないが、光魔法をとにかくかざしてみた。
そして、
「うう~ん。……あれれ? 光しか見えませんけど、ここは天国ですか?」
「おれだ。ルティシア! おれが見えるか?」
「アック様……? て、天国のアック様!?」
力ない返事をしていたルティだったが、おれに気付いた途端に飛び起きた。
「死んでないぞ? 落ち着け、ルティ」
「はふぅぅ~アック様? 本当にアック様? 本当に本当にアック様ですか!?」
「そうだ」
「でもですよ! 何だか夢の中でアック様と格闘していた気がしまして……」
「気のせいだ」
それはきっと打属性を与えたせいだろうな。
だが現実だと気づいたルティは、予想していた通りおれに抱きついてきた。
「アック様ぁぁぁぁぁぁああ~!!」
「ぐっ!?」
「離れません~離さないでくださいいい~!!」
このままでは絞め殺される……。
くぅぅ、すごい力だ。
「ウニャッ!! ドワーフ、アックから離れるのだ!!」
「小娘、いい加減にするなの!!」
ともあれ、一時はどうなることかと思ったが何とかなった。
これでようやく神の国から脱出が出来そうだ。