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命を受けた翌日、チャリアは王に確認した。
「ヒデラキ様、様子を見よ、というのは、密命ですか?」
「ん、いや、そんなことはない。ただ我が娘、カコアの様子を見守るだけだ。周りの協力を仰いでも構わん」
王妃でラキは、特に気にする様子もなくそう言った。
「しかし、最重要命令なのですよね?」
失敗があってはいけない、と、チャリアは再度問う。
「ああ」
王は相変わらず軽く返事をする。
「しかし、そのような堅苦しいものでもない。カコアの様子を知ることができるのならそれで良いのだ。仕事柄、中々様子を見に行くことができないのでな」
「そう…なのですか」
ますます混乱する。それは果たして最重要命令なのだろうか。王がそう言うのならばそうなのだろう。王ヒデラキが他国の王と比べてくだけた人物であることは理解しているつもりだったが…こうも軽い最重要命令には流石に困惑してしまう。
「その命に従って動いている間、私に付く人間は別の者で十分だ。早速、今日から頼もうか」
「…承知いたしました。御心のままに」
頼むと言われれば、やるしかない。チャリアは、部屋を後にした。
……☆★☆……
チャリアの混乱は、周りを巻き込むことになる。
「…どういうことだ、これは」
王都に位置する公爵家の屋敷で、令嬢専属執事であるチルナが頭を抱えていた。その手には手紙が握られている。王付の次女、つまり、チャリアからのものだ。
「どうかしたのかしら、チルナ?」
不意に、背後から声が聞こえてくる。チルナは少し呆れながら、後ろを向いた。
「…カエラお嬢様、勝手に部屋を出ては護衛に怒られますよ」
「あら、貴女は私の専属執事でしょう?もちろん、私の味方よね」
カエラは、ふふっと挑発的に笑いながらチルナを見つめる。チルナの湿った目線が向けられるが、知ったことではない。
いつも通り、チルナが折れた。
「…善処はいたします」
「そうよ、それでこそ私の執事だわ」
「…私は便利屋ではないのですが」
カエラを窘めつつ、チルナはチャリアからの文に目を向ける。久しぶりに連絡を寄越したと思ったら、何とも不思議な文章が書いてあった。
「そう、それよ。誰からかしら?何が書いてあるの?」
カエラがびしっと文を指しながら言った。公爵令嬢として正しい振る舞いとは言えないが、チルナであれば許されると思っているのだろう。普段、公的な場でそのようなことをする人ではない。
「王ヒデラキ様の侍女、チャリアより届いた文でございます」
カコア皇女の様子を見よ、という命を受けた、何か良い手はないか、という趣旨であった。何かと言われても、チルナは公爵家に仕えているのだからそんな妙案など思い浮かばない。誰に相談すればよいか迷った末の文なのだろうが―それにしても聞く人物を間違えているのではないか、とチルナは思った。
「あらぁ…これはまた、ヒデラキ様のカコア溺愛のせいねえ…」
カエラは横から文を確認し、苦笑した。皇女を呼び捨てにしているのは、仲が良いからだろう。皇女に対して信じられないほどの特例である。
「お嬢様もそう思われますか」
「ええ、ヒデラキ様は、カコアをこよなく愛しておられるから…まだ小さなカコアが心配なのね 」
「そうですね。しかし、私にできることは…」
チルナは心の底から困惑する。王に振り回されるチャリアは不憫だと思うが…チルナにできることはない。
「そうでもないわよ」
カエラのけろりとした声に、思わず声が漏れてしまった。
「この前、ミハリナから手紙が届いたのよ。カコアがまた三人でお茶会をしたい、って言っているらしいわ。近々日程も決まるんじゃないかしら」
初耳である。ミハリナというのは、皇女カコアの世話係、付き人である。また、チルナの双子の姉で陽気な女だ。三人、というのは、カエラとカコアに地方伯爵家の令嬢であるコハリアを加えたお嬢様三人組のことだろう。
「なぜその話が私の耳に入っていないのですか」
チルナは組織の不備を疑った。しかし、カエラの返事は軽い。
「わざわざチルナを通すのも大変でしょうから、と、ミハリナが直接届けに来てくれたわ」
公爵令嬢に対して勝手に文を渡すな、という文句を必死に飲み込むチルナ。
「…情報は一度私を通すよう伝えておきます」
まあ意味はないだろうが、と心のなかで付け加える。姉のことはよくわかっているつもりだ。
「というわけで、私でも貴女でも意外とお仕事の手伝いはできると思うわよ。さあ、返事を書きましょう!」
カエラは早速筆記具を取り出して楽しげに準備をしている。チルナは、執事に送ったはずの手紙の返事が公爵令嬢から届くことになるチャリアに深く同情した。
この国の日常だと割り切ってもらおう。
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