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あれから3ヶ月、この暗黒街に来て半年近くの時が流れました。私は家事に従事しつつ、街での買い物に同行してシェルドハーフェンの土地柄を学んでいました。昼間は比較的マシであると聞いていましたが、まさにその通りです。夜さらに怪しい人が通りに増え、淫靡なお姉様達が街中に立ち春を売る。路地裏からは悲鳴や銃声が聞こえる。同じ帝国領内とは思えない治安の悪さに唖然としてしまいました。わざわざ夜の街の姿を見せてくれたシスターに感謝を。
そして買っていただいた苗は順調に育っています。何が出来るのか、今から楽しみですね。
そんな春真っ盛りなとある日。
「非常に心配ではありますが、他に外せない用事が出来てしまいました。ですからシャーリィ、この小包をマーサへ届けて欲しいのです。」
初めてのお使いです。テンションが上がりますね。自然と頬がつり上がります。
「なぜ笑えるのですか。本当に良く分からない娘ですね。」
おっと、どうやら笑顔を浮かべてしまったみたいです。シスターの心配も分かりますが、気分が高揚すると自然に笑顔が浮かぶことに気付きました。大発見です。無表情で不気味との風評被害ともおさらばです。
「良いですか、真っ直ぐにメインストリートを通ってマーサに小包を渡し、そして真っ直ぐに教会へ戻ること。私が何度も連れ出しましたから、私の身内であると周知されているはずなので、大通りならばある程度は安全なはずです。」
「分かりました。初めてのお使い、必ず遂行します」
「意気込みは良いのですが…いいですか?真っ直ぐにですよ。寄り道は避ける。なにより面倒事は避けてください。でないと長生きできませんからね?」
「まだ死にたくないので守ります」
「ではこれを」
そう言ってシスターは武骨なナイフを私に差し出しました。刃が鋭く、見た目以上の切れ味がありそうです。威圧感がすごい。
「御守りです。万が一の時はそれで対処しなさい。捕まりそうになったら、潔く自害することをおすすめしますよ。絶対に死ぬほうが楽なので」
「分かりました、シスター。これはお預かりしますね。使わないように気を付けます」
私はナイフを受け取って懐へ納めました。うん、武骨な見た目からは考えられないくらい軽い。これなら簡単には扱えそうです。
「何度も言いますが、寄り道は無しですよ?ちゃんと真っ直ぐに向かって、帰ってきなさい」
シスターに念を押されました。私ってそんなに信用……あっ、心当たりはたくさんありました。心配も無理はありません。ですが、危ないことはしないつもりです。まだ私はなにも成していないのだから。
昼間、何事もなくターラン商会本店に辿り着き小包を届けることが出来ました。残念ながらマーサさんは不在でしたので、顔見知りの従業員さんに渡してミッションコンプリート。お駄賃として飴を頂きました。甘いものは大歓迎です。
さて、飴を舐めながら帰路についたところ。
「助けて!誰かーっ!」
「大人しくしやがれ!クソガキ!」
おっと、厄介事に遭遇しました。見れば私と変わらないくらいの女の子が如何にも柄の悪そうな男性に路地裏へと引き込まれそうになっていました。
助けを求める少女ですが、周囲の人は見て見ぬふり。なるほど、厄介事に関わろうなんて普通は考えない。長生きの秘訣だそうです。
「助けて!」
ならば私も関わるべきではありませんね。まだなにも成せていない。しかも9歳児に厄介事への対処なんて無理があります。
「静かにしやがれ!」
バシンッ!と大きな音が響きました。男性が女の子を殴打したみたいですね。私には関わりの無いこと…。
「ううぅ…!」
………あー……なんで泣き声が似ているのか……もう、シスターに怒られます。
「えい」
「おごぉっ!?」
スタスタと近付いた私は、男性の股間を真後ろから蹴りあげました。あっ、ぷにぷにしてた。くりーんひっと。
「此方へ」
「あっ、ちょっと!?」
泡を吹いている男性を放置して、私は女の子の手を取り大通りを走ります。ひたすらに走り続け、来た道を逆走してターラン商会本店近くまで来ました。この辺りはターラン商会の縄張りですし、もしかしたら助けてくれるかもしれませんから。
幸い男性は追ってきませんでしたが。
「はぁ!はぁ!速いよっ!」
さてどうしましょうか。彼女。
衣服はボロボロではありますが、美しい黒髪を腰まで伸ばして整った目鼻立ちは充分に美人と言えます。美人さんに育ちますね。私と変わらないくらいなのに、お胸があります。じぇらしー。
「はぁ!はぁ!…ふぅ…あっ、ありがとう」
「いえ、単なる気まぐれですので。私はこれで失礼します」
「待って!」
さっさと去ろうとしたのに呼び止められてしまいました。
「ありがとう、なにもお礼は出来ないけど……命の恩人だよ」
「先ほども言いましたが、単なる気まぐれです。お気になさらず。」
「気にするよ。ふぅ。私はルミ、貴女は?」
「……シャーリィです。シスター見習いの」
「シャーリィ…うん、覚えた。ねぇ、今は無理だけどお礼はいつか絶対にするから……また会えないかな?」
「……縁があればまた会えるかと」
なんだろう。嫌な予感がします。
「私、国立孤児院で暮らしてるの。ねえ、遊びに来てよ。ちゃんと歓迎したいから」
「…気が向けば」
「ありがとう!約束だよ!絶対だよ!また会おうね!」
えぇ、強引な娘ですね。気が向けばと言ったのに約束させられてしまいました。無視しても良いのですが……正直同年代の彼女に多少興味を持ってしまった自分もいます。
シスターに相談してみましょうか。
夜、昼間のことを正直に洗いざらい話した私はシスターから拳骨を叩き込まれ、滅多に無い涙目を晒してしまいました。おのれ、ルミ!