夕方になっても市場にはまだ人が大勢居た。
夕飯時だから、皆食料を求めて市場にやってきたのだろう。食品を取り扱う店に行列ができている。
「で? 買いたい物ってなによ。」
「お? 買ってくれるのか?」
「高くなければね。」
「へぇ。」
カルヴァリーに案内されたのは、私が行きによった骨董屋だった。
「そうそう、これ。」
「…ぬいぐるみ…。」
せっかく選ぶならもう少し可愛いものがいいんじゃないの?
カルヴァリーの示したぬいぐるみは、中古なのか、そういうデザインなのかよく分からないほどボロボロのぬいぐるみ。所々ツギハギだらけで、壊れる寸前といったところ。
「本当にこれでいいの?」
「あぁ。これがいいんだよ。」
「もっと綺麗なのあるけど?」
「これがいい。大した値段でもないだろ、買ってくれよ」
高くないなら、と言ったのは私だけど。
なにもこの店で1番安いのを選ばなくたっていいじゃない。
カルヴァリーは、ぬいぐるみを中に浮かせて、レジのような所へと持っていく。
それを見た店員さんはぎょっとしていた。
お金を払って、買ったぬいぐるみを手に抱え、帰路へ着く。
「こんなぬいぐるみ、何に使うの?」
「俺の体。いつまでもお前の家に取り憑く訳にもいかないからな。」
「へぇ。」
「だから、持ち歩き頼む」
「自分で動かしなさいよ。」
「やだね、めんどくさい。」
「ねぇ、カル。今日の夕飯何にしましょうか。」
「いいな、そのあだ名。そうだな、夕飯は…。」
2人で微笑みながら帰路につく。
私の異世界生活が、再び幕を上げた気がした。
私の悲劇は終わったんだ。
どうか、この日々が続きますように。