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「エトワールッ!」


俺はただ、目の前で怪物に飲まれていく元恋人に手を伸ばすことしか出来なかった。


――――

――――――――


「随分と楽しそうだな」

「ああ、エトワールと星流祭を回れたからな……」

「そーですか。また、惚気ないでくださいよ。殿下」


いつもなら嫌味に聞えるルーメンのそれも、気にならないほどに俺は機嫌が良かった。

星流祭……付合っていた当時一度もデートなどしたことがなかった。誘う勇気がなかったわけではない、タイミングを見ていただけだ。いや、何度かは誘ったが綺麗に断られてしまった。だから、俺はまだデートをするのに早いと思っていたのだ。だが、そうやってずるずるといって、結果、デートをすることもなく俺と巡は別れてしまった。


だからといって、付合っていた当時デートを強制しようとも思わなかった。誰よりも、巡の気持ちを尊重していたから。それが、彼女に逃げ道を作ってしまう原因になったのかも知れない。あちらに、付合っていた自覚があったのかなかったのか定かではないが、どうも、恋人らしい事が苦手らしい。恋人らしい……と言うよりかはもしかすると、いや多分そうなのだろうが異性慣れをしていない様子だった。俺だって、別になれていうわけじゃない。ただ女性達が寄ってくるだけで、女性慣れをしていたとか、そう言う事ではない。まぁ、そんなことは置いておいてだ……


結局、彼女は最後まで俺との距離を縮めようとしなかった。俺は、彼女が俺を避けているというよりかは壁を作って閉じこもっているように見えたから、彼女の築いた壁を無理に叩こうとはしなかった。

ああ、もっと積極的になっていればと今でも思う。

だが、幸いなことに今は巡の推しとやらのリースになった。これは絶好のチャンスだと、コレまでの自分を変えるチャンスだと思った。

前の自分よりかも、酷く自分に自信が持てていた。

辛いことだって多かった。皇太子の仕事、戦場に出て戦わなければいけない責務、その他にも色々と苦労はあった。それを全て乗り気って、ルーメンの助けもありここまで来た。確かに、ルーメンに良く言われるとおり、巡……エトワールが来てからは、仕事の効率が落ちたかも知れない。だが、俺は仕事よりも何よりもエトワールの方が大切だったから。

ルーメンの助言もかり、俺はエトワールと星流祭をまわることが出来た。


「にやけてるぞ、お前」

「そうか……? 自分では気づかなかったな」

「はいはい、そーですか、そーですか。全く」


と、ルーメンは小言を言い、ため息をつくと机の上にあった資料に目を通していた。

だが、俺は目の前に置かれている資料、仕事よりも星流祭の最終日、エトワールと花火を見る時間を作れるだろうかという事しか頭になかった。

まあ、この量じゃ、いける気はしないのだが……


「それで、あんま聞きたくねーけど、聖女様とのデートはどうだったんだよ」

「楽しめたぞ?彼女も、祭りに行くのは初めてだったみたいだからな。初デート……」

「はは……」


そう言ってやれば、自分から聞いたくせにルーメンは苦笑いをしていた。

エトワールは少し緊張していたが、それなりに楽しんでいたと思う。思いたい……彼女は、デート中時折可愛らしい少女のような笑顔を向けてくれていた。その笑顔を見れただけで、あと数十年は生きれそうだと。

ああ、本当に好きだと実感した。彼女と出会ったときのことをぼんやり思い出して、また笑みがこぼれた。

だが、同時に怖くもあった。


「式はいつあげれば良い?」

「はあ!? まだ、お前らより戻ったわけじゃねえのにぶっ飛びすぎたって!」

「指輪はこの帝国で一番のものにしよう。ウエディングドレス……エトワールは似合うだろう。想像してみてくれ、いや想像するな、していいのは俺だけだ」

「遥輝~」


親友は、勘弁してくれとでもいうように弱々しい声で俺の本当の名前を呼んだ。

だが、俺は気にせず話を続ける。


「エトワールが着るなら純白のウェディングドレスだな。ベールを捲ったときに見えるあの白い肌にキスをしたい。ああ、だが、エトワールの綺麗な髪に飾られる花はオレンジの花がいい。きっと、彼女の魅力を引き立てるはずだ」

「もうやめろよぉおおお! 頼むから、やめて下さい!」

「なぜだ? お前も、親友として俺の結婚式に参加してくれるんだろ?そもそも、お前は俺の補佐官で……」

「お前、マジで怖いんだって! 何!? なんなの? だから、お前よりもどしてねえじゃん。妄想が激しい過ぎるだろ!」


と、ルーメンは必死になっていってくる。

俺はただ、エトワールとの未来を考えているだけなのに。

確かに、よりを戻していないのは事実だ。フラれてから、フラれた理由を考えてどうすればまたよりも戻せるか考えて……そうしてこの間やっとデートが出来た。だから、いけると思ったんだが。

ルーメンは俺の顔を見るとまた首を横に振った。


「一旦落ち着けよ。まず、仕事。聖女様のこと考える前に仕事しろ。それに、誕生日も控えているんだ」

「誕生日か……そうか、忘れていたな。前世でも、祝われる事はあっても、めでたい気持ちはなかったからな……」

「俺は毎年別で祝ってやっていただろうが!」

「ああ、それは覚えている……安いファミレス……」

「やすくて悪かったな! お前んとことか、久遠さんとことか違って俺ン所は貧乏だったからな!兄貴と違って!」


そういって、また吠えだしたルーメンを見ていると、そういえば彼のいうとおり誕生日が近いことを思い出した。

誕生日にはたいして思い出もない。

ルーメンがなけなしの金で祝ってくれていたことは覚えているし、数いる人間の中で唯一彼が親友と呼べる存在だったからこそ、彼といる時間は掛け替えのないものだった。俺が、巡の次に一緒にいて心が落ち着く人間だった。ただ、世話焼きな所はたまに面倒くさいとは思うが……


「隣国からも沢山使者が来るだろうし、また忙しくなるんだ。それに、ダンスのパートナーも……」

「ダンスのパートナー……か、そうだったな。それなら、エトワールにお願いしよう」

「待て待て、彼女をまた大衆の目にさらすのか!? この間というか、結構前の貴族の前のお披露目会だって……」

「だが」


ルーメンの言い分は分かっている。

今の発言は突っ込まれても仕方がないと思った。エトワールは聖女としてこの帝国民に認知為れていない。勿論、それは伝説の聖女の特徴を何一つ持たずに召喚された女性だからだ。貴族達の間では、偽物聖女と影で散々なことをいわれているのは知っている。彼女にはその事は黙っているが、それはもう酷いいわれようだ。

何度か陰口を言っている貴族の首を跳ねに行こうとして、ルーメンに止められた。ルーメンは一人一人はねたとしても大半の貴族が思っていることだから無理だと。

何故、伝説の聖女と特徴が一致しないだけでそんなに彼女が言われなければならないのか分からなかった。

彼女は何も悪いことはしていない。寧ろ、コレまでに大きくはないが功績を残している。ダズリング家の双子を救ったのだってそうだ。


「分かった……だが、俺は他の女性と踊る気など無い。エトワール以外のパートナーを選ぶのであれば、俺の誕生日は祝わなくてもいい」

「お前なあ……今、お前はこの帝国の皇太子で、時期王で……前世とは違うんだよ。分かってるだろ? それに、聖女様は元々人前に出るのが嫌いなタイプだ。それに、きっとダンスも踊れない……」

「……ああ、確かにそうだな。それは同感だ」

「なら!」

「だが、俺はエトワールがいい。我儘だって分かっているが、俺にはエトワールしかいない……分かるだろ?」

「……はーぁーもう、お前は一度決めたら曲げないもんな。まあ、都合の良いときにでも仕方ないから言いにいってやるけど、ダメだったら諦めろよ」

「その時は、誕生会を開かなければいい話だ」


俺の言葉を聞いて、ルーメンは呆れた顔をした。

そうして、一通り仕事が終わったのか、ルーメンは部屋を出ていこうとしたが、ピタリと足を止めた。


「そうだ。ここに、何できたかってこと、忘れてた」

「大事な用事か?」

「ああ、魔物の調査をしてこいって……災厄の」


と、ルーメンは深刻そうな顔をして俺の前まで戻ってきた。




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