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歩の生存確認と親父への事後報告をし、スマホの電源を落した。勘のいいアイツのことだ、俺のちょっとした言い回しで違和感を感じ、リダイヤルしてくるに違いない。


今頃、御堂先輩のことを親父に訊ねてる最中かもな。


「厄介ごとは、自分で上手く回避出来るのにさ。心配性だから」


わーわー騒ぐ、歩の顔をぼんやりと思い出し、通話OKの待合所から、出ようとしたときだった。


「イケメン周防発見! 島にいる、お父さんに連絡したのか?」


わざわざ2階下のフロアで電話したというのに、目敏く見つけてくれる、この人の捜索能力が恨めしいかも。


「御堂先輩、お疲れ様です。康弘くん大丈夫ですか?」


スマホをポケットに仕舞いながら言ってやると、いきなり頭をグチャグチャと撫でられた。


「おい、こら! 質問してるのに質問で返すなよ。相変わらず生意気だな、周防は」


御堂先輩の声や口調は、どこか桃瀬と似ているところがあって、研修医だった頃は、時々ときめいていたのだけれど。


(今は、ウザさしか感じない――)


「はいはい、スミマセンでした! 仰るとおり、親父に電話で報告しておりましたっ。康弘くんの容態は、どうなんですか?」

「うっわー……可愛げのない言い方。そこが周防の魅力なんだが」


「御堂先輩こそ、変わりませんね。さりげなくお尻触るの、やめてください。俺、男ですけど!」


歩がやったなら、間違いなく張り手の刑に処すところだ。


「康弘くんならさっき目を覚まして、お母さんに謝っていたよ、ゴメンなさいって。若くて綺麗なお母さん、涙を流して許していたが」

「その若くて綺麗なお母さんにも、絶対に手を出さないでくださいよ。御堂先輩のことを紹介した、俺の責任問題になるんですから」


ヘリの中で病院の名前を聞き、おぼろげながらだったけど、御堂先輩のことを思い出してしまった。毎年送られていた、転勤先を知らせるハガキのせいで。


『安心してください、康弘くんは大丈夫です。俺を指導してくれた、優秀な先輩のいる病院なんですよ』


なぁんて言ってしまった手前、その優秀な先輩がお母さんに手を出してしまった場合、俺のせいになってしまう。


腰に手を当てて少しだけ背の高い御堂先輩を睨むと、太目の眉を逆ヘノ字にして、困ったなぁと呟く。


「周防がかまってくれたら、お母さんには手を出さない」


何の取引なんだよ、これは……呆れた。


「んもぅ、俺は男なんですって。かまうワケないでしょ」

「いやいや、かまいたいね。昔はもっと険があったのに、今はいい感じに柔らかくなって、すごく綺麗になったな。まるで白い巨塔に咲く、可憐な一輪のバラのようだ」


キザな台詞を告げながら、頬に触れようとした御堂先輩の手を止めるべく、ぎゅっと握り締めてやった。


「そりゃどうも!」

「おいおい、大事な手を潰すなって。仕事が出来なくなる」

「俺に、触らなきゃいいだけですよ」

「触れてほしそうな顔してるから、手を伸ばしただけなのに」


へらっと笑った口元が何故か歩と重なり、動きが止まった一瞬の隙を突いて、唇が触れる――


ぱーんっ!!


病院のフロアに響く、俺の放った一撃音。


「いってぇな……何するんだ周防。挨拶くらい普通だろ」

「ここは日本です、外国じゃない。それに好きなヤツ意外と、そんなことしたくありませんから」


掴んでいた手を放り投げるように離して、眉間に深いシワを寄せ、ぷいっと顔を背けてやった。世話になった先輩じゃなかったら、ついでに回し蹴りもお見舞いしているところだぞ。


「昔は苦笑い浮かべて、どんだけーって言いながら、誘うように逃げていたのに。過激に成長したんだな」

「誘ってませんよ、全然。それに今のは正当防衛です。いい加減にセクハラ止めないと、また他所に飛ばされますよ」


地元から何をして、こんな北にあるへき地の病院へと、飛ばされて来たんだか。自分が優秀で雇ってくれるのが分かっているからこそ、誰も手に負えないんだよな。


しかも適度に顔もいいから、誘わなくても周りで勝手に、問題が起きたりするらしいし(あくまで噂だけど)


「周防も大学病院とか、おっきな病院勤めしたら分かるって。看護師がヨダレをたらして、じーっと見つめてくるんだよ。俺としては日頃の労をねぎらうべく、優しくしているだけなんだ」

「スミマセン。個人病院なんで、ぜんっぜん話が分からないです」


オバチャン看護師を含め、雇っている看護師全員とデキていたら、それこそ廃院問題に繋がる。もっと、別な労い方をすればいいだけだろ!


「しかもさっき顔見知りの看護師数人に、周防のことを聞かれちゃってさ。相変わらずモテるのな」


その言葉に、歩が入院していた軽井沢の病院でも同じことがあったのを、思い出してしまった。


『罪な男だよなぁ。マジで……白くて甘い砂糖に群がる、アリどもを排除するのに、俺がどんだけ苦労しているかを、知らないんだから』


歩が呆れながら告げた言葉に、首を傾げるしかなくて。研修医時代は大学病院に勤めていたけど、誘われるどころか、告白されたことすらなかったのに。


「モテませんよ、俺は」


歩という恋人がいる今、モテ期がきても面倒くさいだけ――


「そう思ってるのは、お前だけだよ。研修医のときは、俺が予防線張り巡らせていたし」

「は?」

「それに、さっき訊ねてきた看護師たちに言っておいたから。あれは俺の男だって、ね」


おいおい、良いのかよ……自分の職場でゲイ発言。しかも俺まで巻き添えとか、ありえない状態なんですけど!


「すみませんが、失礼します。患者さんがお世話になりましたっ!」


もうここに長居は無用だ。これ以上巻き込まれる前に、さっさと退散せねば。


康弘くん親子の顔を見てから外に出ようと考え、さっき使った非常階段に足を向けると。


「先月号の月刊小児科医、目を通しているか?」


御堂先輩の話しかける内容に、ふと立ち止まってしまった。


「……確か、クローズアップ最新のアレルギー治療と診断。だったような気が」

「その記事を書いたのが、ここの小児科医の教授なんだよ。周防さえよければだけど、紹介してもいいぞ」


ヤバい、それすっごく紹介してほしい――個人病院で、日々黙々と病気の子どもと向き合っていると、自分なりの治療法に囚われ、最新の診断や治療法を取り入れにくくなる傾向があり、それが嫌で雑誌にはきちんと目を通していた。


いいものを取り入れたい、勉強したい一身からなんだけど。


「紹介してもいいけど、何か裏があるんでしょ御堂先輩」


渋い顔して振り返り、その姿を見たら、歩がするみたいな、へらっとした笑い方をして、肩を竦めた。適度にイケメンな横っ面に俺が叩いた手形が、ハッキリと頬に浮かんでいる状態だけど。


「まさか! 周防の唇を奪った罪滅ぼしだって。どうする? 逢いたいだろ?」

「……逢いたいです」

「じゃあ決まり! さぁ行こうか」


そそくさと傍に寄って来て、馴れ馴れしく肩に手を回してくる。


「いちいちスキンシップするの、遠慮してください」


やんわり断りながら手の甲を抓り上げ外してやると、それでも嬉しそうな表情を浮かべ、俺の隣を歩く御堂先輩。


歩以上に厄介な男を前にして、(しかもお世話になった先輩だから尚更)なす術がないのだった。

恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

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