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翌朝
冬馬先生はいつも通りの冷徹な顔で医局に現れた。
けれど、その隣を歩く私の指先を、一瞬だけ強く、そして熱く握りしめた。
それは「もう迷わない」という彼なりの誓いの合図。
「冬馬くん、まだそんな顔をしてるの? 早くその子を解放してあげればいいのに」
待ち構えていた一条先生が、嘲笑を浮かべて近づいてくる。
しかし、冬馬先生は彼女を避けることなく、真っ向から見据えた。
「一条。お前が持ち出した『過去』は、俺にとって消せない罪だ。だが、それをお前が結芽を傷つける道具に使うことは許さない」
「傷つける? 私は彼女を救おうとして……」
「救うだと? お前がやっているのは、死んだ記憶に固執して、目の前の生きた人間を冒涜しているだけだ」
冬馬先生の声が、低く医局に響き渡る。
周囲のスタッフが息を呑む中、彼は私の腰を引き寄せ、一条へ向かって冷酷に宣告した。
「俺は、結芽を『管理』するのをやめた……これからは、彼女が俺の隣にいることを、俺が一生かけて懇願し続ける」
「は、はあ?なにいって…」
「お前が入り込む隙など、分子一つ分も残っていないということだ」
「……っ、正気なの?そんな感情的な判断、外科医として……!」
「外科医である前に、俺は一人の男だ。……一条、お前の特別講師としての任期は今日までだ。本院へ戻り、自分の空虚さと向き合うといい」
冬馬先生が事務局へ根回ししていた「人事のメス」。
九条理事をも味方につけた圧倒的な根回しの前に、一条は顔を歪め、言葉を失った。
彼女が去った後の診察室。
二人きりになった瞬間、冬馬先生は私の首筋に鼻先を寄せ、深く息を吐き出した。
「……怖かったか?」
「……いいえ。先生が、私のために怒ってくれたのが、嬉しかったです」
そう答えると、先生は意地悪く、けれど慈しむように私の耳を噛んだ。
「勘違いするな。……俺が折れたのは、お前に『殺して』と、冗談でも言わせた自分の無能さに対してだ…」
「先生…っ」
「これからは、そんなこと思う暇もないほど、俺の愛で忙しくしてやる」
ドSな口調は変わらない。けれど、そこにはもう、過去に怯える影はなかった。
先生は私のスカーフをほどき、新しい、けれど優しい痕を刻みつける。
「……結芽。今夜はマンションじゃない…海を見に行こう」
「えっ、海ですか?」
「ああ…デートってやつだ」
「…!」
それは先生からの初めての、命令ではない『デートの誘い』だった。