「よっしゃあ駆け上がれぇ!」
「ヒャッハーッ!」
入り口のバリケードを破壊した襲撃者達は、マーサ達が立て籠る三階を目指して螺旋階段を駆け上がる。
その足音は三階にまで響いていた。
「登ってくる!バリケードが破られたんだわ!」
「これまでかっ!自決しよう、マーサ!私は君が慰み物にされる様など見たくはない!」
「嫌よ!まだ諦めないわ!ユグルドはここに居て!」
立ち上がり、ユグルドを安全な壁際に座らせたマーサは、階段へと駆けていく。
「待て!マーサ!ぐっっっ!」
それを止めようとするが、傷口から走る鋭い痛みが彼の動きを鈍化させていた。
螺旋階段の終点に現れたマーサを見て、襲撃者達は下品な笑みを浮かべた。
「遂に諦めたか!」
「ぎゃははははっ!今行くからなぁ!」
「たっぷり可愛がってやるよぉ!」
一気に螺旋階段を駆け上がり一番乗りを果たした盗賊のような身なりをした男の視界に映ったのは、迫り来るサンダルの靴底だった。
「ぶべぇっ!?」
「そのまま落ちなさい!」
マーサは戦闘の男の顔面を躊躇無く蹴り抜き、手に持っていた剣を奪うとそのまま蹴飛ばした。
「なっ!?うわっ!?」
「なにしてやがる!?ぐぎゃっ!?」
当然蹴飛ばされた男は後続の襲撃者達を巻き込みながら階段を転がり落ちていく。
「うわぁあああっ!」
更に螺旋階段であったため、数人が中心の吹き抜けから下へ転落していく。
「気を付けろよ馬鹿野郎!」
「おいっ!固まるな!」
巻き込まれなかった後続は間隔を開けて警戒する。
「簡単に捕まるつもりはないわ!掛かってきなさい!バッドガイン!」
奪った剣を構えながら、マーサが吠える。
バッドガインとは、エルフの言葉で『クズ人間』と言う意味である。
「ふざけやがって!あのアマァ!」
激昂した襲撃者達は階段を駆け上がりマーサに挑み掛かる。絶望的な最後の悪足掻きが始まった。
一方旧市街に突入したシャーリィ達は、直ぐに喧騒が響く公園を見つけてそこへ向かっていた。
「お嬢!あの塔の周りを見ろ!嫌なくらいクズが集まってやがる!」
馬を駆るベルモンドは先を指差す。
「あの中にマーサさん達が!?」
「ちぃ!思ったより数が多い!間に合えば良いが!」
それを聞いたシャーリィの瞳に力が宿る。
「ベル、部隊を率いて殲滅をお願いします。最優先は、マーサさん達の救出です!」
懐から魔法剣の柄を取り出しながら指示を出すシャーリィ。
「おい待てお嬢!」
ベルモンドが手を伸ばすより先に、シャーリィの莫大な魔力が魔法剣に流れ込む。
「風よっ!!吹き荒れろぉ!」
その瞬間その莫大な魔力に反応した精霊が凄まじい風を吹き出し、小柄なシャーリィの身体を空高く飛び上がらせた。
「とっ、飛んだーーーーっ!!!」
「マジかよ……ホントなんでもありだな、お嬢」
誰もが驚愕し、ベルモンドは苦笑いを浮かべた。
ごきげんよう、空飛ぶシャーリィ=アーキハクトです。属性を使い分ける術はマスターやサリアさんから学んでいましたが、無事に成功して良かった。
私は小柄なので、強い風を噴かせれば飛ぶかなぁっと簡単に考えていましたが……うん、高過ぎて怖いです。
ですが、制御を誤れば大地の染みになってしまうので頑張って制御します。下を見れば、誰もが私を見上げて唖然としていますね。ちょっと気分が良いです。
よし、このまま三階の窓から颯爽と!
ガッシャァアアアンッッ!!!
「んにゃああああっ!!!」
突然窓から少女が飛び込んできて、部屋に有った戸棚にぶつかり派手な音を立てながら床を滑った。
それを唖然と眺めていたユグルドは、気を取り直して短剣を引き抜いた。
痛たたたたっ!華麗に飛び込もうとしたら、窓枠に足が引っ掛かり戸棚にぶつかり床とキスする羽目になりました。
おでこが痛い……。
「何者だ!?」
声のした方を向くと、そこには怪我をしたエルフの男性が短剣をこちらに向けています。あれ?ユグルドさん?
「ユグルドさん?」
「シャーリィ!?君だったのか!?」
「はい、シャーリィです。お怪我を?」
血が流れてます。
「かすり傷だ。だが、まさか窓から飛び込むとは……いや!それよりも逃げなさい!数が多すぎる!マーサが頑張ってくれているが!」
「逃げませんよ、助けに来たんですから。マーサさんの姿が見えませんがどちらに?」
「マーサは階段で奴等を引き付けてくれている!」
「では加勢に向かいます。ユグルドさん、もう少し我慢してください」
ズダダダダダァアンッ!っと銃声が響き渡りました。どうやらベル達も追い付いたみたいですね。
一方螺旋階段では。
「うぎゃぁああっ!?」
右腕を切り落とされた男が血飛沫を撒き散らし絶叫しながら転落していく。
「このアマァ!調子にっ!ぐぶっ!?」
後ろにいた男は剣を上段に構えて迫るが、がら空きの腹部に剣を突き刺される。
「邪魔よ!」
そのままマーサは押し退けて、バランスを崩した男は後続を巻き込みながら転落していく。
「ええい面倒だ!多少傷ついても構わん!撃てぇ!」
ダダダーンッ!っと螺旋階段構造であることを利用して、下からマーサ目掛けてフリントロック銃による射撃を加える。
「ぎゃあっ!?」
「俺たちが居るのに!?がぁあっ!」
頂上付近に居た襲撃者数人を巻き込みながら銃弾が飛来して、マーサを狙う。
「ぅっ!?」
飛来した多数の銃弾はマーサの両肩を貫き、握っていた剣を落としてしまう。
「よし!奴が武器を落としたぞ!」
「くっっ…!」
両肩に走る激痛で動けなくなったマーサに襲撃者達が迫る。それを見ながらマーサは絶望し、全てを諦めた。
「……ここまで、かしらね……ごめんなさい、シャーリィ。皆をお願い……」
「勝手に諦めないでください、貴女は私の大切なものなんですから」
「えっ?」
真後ろから聞き慣れた少女の声が響き、そして光る刃が飛び出して迫っていた襲撃者達四人を貫く。
「ぁっ!?」
貫かれた襲撃者達は、訳も分からず光の粒となり消えていく。
「シャーリィ!?」
「はい、シャーリィです。助けに来ましたよ、マーサさん」
振り向くとそこには光輝く刃を出現させた魔法剣を握るシャーリィの姿があった。
「貴女、一体どうやって!?」
「空を飛んできました。中々スリルがありましたし、興味深いので研究してみるつもりです。もちろん、マーサさん達を無事に『黄昏』に招いてからですけど」
「他の皆は!?」
「残念ですが、全員を助けることは出来ませんでした。つまり、彼等は敵です。マーサさん、直ぐに終わらせて傷の手当てをしますので……待っていてくださいね。さて……あなた方は私の敵です。これから殲滅します」
前に立ち堂々と宣言する姿に、マーサは幼い頃から知っているこの小柄な少女の背中が、誰よりも頼もしく見えたと言う。
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