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「〝できる人〟って私生活から無理なくきちんとできてるのよ。それに自炊もできるんでしょ? 多忙な方だから基本的に家政婦さんとかに外注しているのは当たり前として、やろうと思えばオールマイティな人っているのよね。一緒にいると『自分もちゃんとしないといけない』って思ってしまうかもしれないけど、キャパシティの広い人って相手に自分のルールを押しつける事はないと思うわ。恵が多少だらしなくしても、彼ならまったく気にしないと思う。……だからといって『甘えなさい』とは言わないけどね」


最後は悪戯っぽく言い、佳苗さんは恵のニットを畳む。


「……まー、人生って転機があるものよ。いつ何が起こるか分からない。でも、怯えていたらいつまでも前に進めないわ。『普通の人生でいいです』って刺激のない毎日をあえて選択していたとしても、ある日交通事故に遭ったり、病気をしたり、思いも寄らない人に告白される場合もある。それに、いつ死ぬかも分からないわけよ。元気でピンピンしていた若者が、ある日突然亡くなってしまう事だって珍しくないわ」


その言葉を聞き、私と恵はコクンと頷く。


「だから人生の選択が迫った時は『どっちを選んだらワクワクするか』で考えなさい。人生九十年になったけど、あっという間よ。五十四歳のお母さんが言う。マジであっと言う間。いつ死ぬか分からないなら面白い事を沢山体験して、最後に『あー、面白かった。悪くなかったかも』って思えたら最高じゃない。人間、そのために生きてるのよ」


そう言って佳苗さんはニカッと笑う。


「私は恵が幸せなら、結婚しなくても子供がいなくても全然いいと思ってた。あんたは時々、『一般的な生き方をしたほうがお母さんは喜ぶんじゃないか』って、気にする素振りがあったけどね」


指摘され、恵は決まり悪そうに視線を逸らす。


「でも心の底から好きになれそうな人が現れたなら、思い切って手をとって一緒に進んでみなさい。うまくいかなかったら別れればいいんだから!」


佳苗さんは明るく言い、「あはは!」と笑う。


この場に涼さんがいたら、真っ青になってそうだ。


「いーい? 朱里ちゃんもだけど、二人とも最高の人を見つけたと思っても、自分の幸せを決めつけなくていいんだからね? もっと欲張りになって『もっと幸せになりたい』って思いなさい。少しでも『違う』と思ったら、その違和感に蓋をしない事。我慢して成り立つ幸せなんて、たかが知れてるんだから」


佳苗さんは脚を組み、ニコッと笑う。


「結婚して『幸せにしてもらう』なんて思ったら駄目よ? 自分の幸せのために努力するのは当たり前だけど、努力した魅力で相手に『幸せにしたいと思わせる』と考えなさい。いい女は相手に『幸せにしたい』と常に思わせるもの。そのために自分磨きや仕事を頑張ったりするものだけど、女が努力してるのに男がそっぽを向いて自分の幸せばかり考えるようになったら、捨ててやりなさい」


「えっ……」


私と恵はびっくりして目を見開く。


「捨てて、それでも泣きついてきたら考えてあげなさい。そのために、日々努力するの。次の男を捕まえられるように美しくあり、夫に頼らずとも自分の仕事だけで子供を育てられるスキルを身につける。そういう女って魅力的なものよ? 離婚したって絶対求めてくる人がいるもの。でも、基本的に選ばれる事を待っていたら駄目。次々に自分で選択して、決めていかないと。今生きているのは、あなた達自身の人生よ」


そこまで言ったあと、佳苗さんは小さく笑って溜め息をつき脚を組む。


「まぁ、考え方は人それぞれよ。『私はそう考えてる』っていうだけ。他にも色んな人の考え方、生き方があると思うし、今後色んな大人と沢山話して様々な価値観を身につけていくのは大事。私と同じ考えを持たなくてもいいけど、大切なのは他人を否定せず、柔軟に色んなものを吸収する事。沢山のものに触れて取捨選択して、自分なりの真実を見つける。そのために色んな経験をしなさいっていうのが、最初に話していた事に繋がるの」


「……分かった」


「ためになる話、ありがとうございます」


恵は学生時代からずっと、『うちの母親は放任主義』と言っていた。


でも佳苗さんは自分なりの考え方で生きていたのだと思うと、しっくりくる。


かといって彼女は家事や育児、家族行事を放っておいたわけじゃない。


恵の家族はよく皆でキャンプに行っていたし、私はそれを羨ましく感じたものだ。


何度か一緒にキャンプに行った事があるけれど、皆サバサバしていていい家族だ。


佳苗さんがモデルとしてバリバリ働く傍ら、お父さんの達也さんは、休みになったら一人で気ままにドライブをして釣りや登山、ソロキャンをしている。


きっと中村家は個々の主体性を重んじながらも、家族としてバラけない絆があるんだろう。


恵は良くも悪くも「自分の事は自分でやる」という意識があったから、痴漢に遭っても家族に打ち明け、甘える事ができなかったのかもしれない。


「色々言ったけど、これからは恵が自分で考えて、三日月さんに相談して歩んでいくのよ? お母さんも相談に乗るけど、新しい家族を築いていくのは恵なんだから」


「分かった」


恵は照れながらも、覚悟を宿した表情で頷いた。




**

部長と私の秘め事

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