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「それで、パーティーは楽しかったか?ステラ」
「た、楽しかったと思います……あはは」
「その様子じゃ、満足できなかったようだな。はあ……まあ、そうだろう。初めてのパーティーで、俺の娘として参加したわけだ、窮屈な思いをしただろう。俺があの場にいたら、お前を不快にさせた奴らを氷付けに出来たというのに」
「ととと、とんでもないです。お父様、すっごく楽しかったです」
きゃぴっ、なんて、絶対にバレるだろう演技をして、私はその場をやり過ごそうとした。フィーバス卿は相変わらず物騒な事をいう。それも、娘に対しては凄く過保護であるから、私が傷付けられたとしたら、それはもう雷を落としかねない勢いで暴れるだろう。そんな想像が容易にできてしまい、私は、どうにか、楽しかったので、それ以上は……と目で訴えた。フィーバス卿は分かってくれたみたいで、それならいい……みたいな感じで、着席した。一件落着、といいたいところだが、問題はパーティーでのことだった。
まず、アウローラとノチェはもの凄く相性が悪かった。まあ、これもいい。引き剥がせばいい話だ。しかし、ノチェは、アルベドと話し合った結果、フィーバス辺境伯、つまりここで働くかも知れないという話しになっているらしい。どうしてそんな流れになったのかは、大体予想がつく。しかし、アウローラとノチェが一緒に……一応、私の侍女はアウローラと言うことになっているけれど、不真面目ではないながらも、全く私に対しての態度がよくないというか。でも、生意気な後輩として関わるには、面白いかもとは思っている。だから、侍女が二人、なんていう可笑しな事になるので、上下関係がついてしまうかも知れない。どうなるかは、フィーバス卿次第ということになるが、ノチェと話したいことも一杯ある。しかし、ノチェがここにくると、アルベドがクークにいない間の出来事を誰も把握できなくなるので、それは少し避けたいところではあった。
そして、もう一つは――
「やはり、浮かない顔をしているな。ステラ」
「え、ああ……大丈夫なので」
「顔色も悪い。俺に言えない事か?」
「そういうわけではないんですけど、つかれちゃったんです。やっぱり、人混み苦手だなあと思って。で、でも、お父様の評価を落としたりはしていないのでご安心を」
「俺のことはいい。そもそも、爵位を返還しなくていい状態……何も心配していない。威厳も、それなりにあるとは思っている。権力も……な。いや、しかし、皇族が相手となると」
「ほほほ、本当に大丈夫なので!」
真っ向勝負でもしようと思っているのだろうか。皇族とやり合うなんて聞いたことないし、やめて欲しいと思った。それも、一人の娘のために。いや、それほど大切にしてくれているという証拠なのだろうが、そこまでは望んでいない。確かに、リース関連で辛いことはあったけれど、これは、私の問題なのだ。
フィーバス卿と話すのはつかれるなあ、と思いつつ、それでも、こんな話ができるという事は、私も少なからず、フィーバス卿に心を開いている証拠なのだろう。自分自身では分かっていないことを、フィーバス卿を通して分かっていくようなそんな感覚。家族になれるか心配だったけれど、その心配はもうしなくてもいいのかも知れない。
(とはいえ、リースのことは相談できそうにないし……)
騙す、話さない、嘘をつく。それは、この世界に戻ってきたときに決めた決め事みたいなもので、フィーバス卿は、前の世界では私に無関係な存在だった。しかし、この世界で生きていくためには、フィーバス卿の力を借りる必要があって、それで、家族になるという選択肢をとった。フィーバス卿は、その事を知らないし、この世界が、上書きされた偽りの世界だとは、少し気づいている程度で、気にしていない……みたいな感じだ。だからこそ、このことを打ち明ける必要はなく、打ち明けても利益にならなければ、混乱を招くだけだろうと思った。だからいわない。なので、リースの関わる事は、皇族……色々話せないな、と簡単にまとめればそういう結論になる。話すことができれば、楽になれるのだろうが、そういう問題でもないだろう。
「そうか。でも、困っていることがあればいえ。父親として、娘の力になりたい」
「あ、ありがとうございます。お心だけ貰っておきます」
「そうか。だが、ここから出られない異常、外でお前の力になれないことが、とても残念だ」
「気にしなくてもいいですよ。そこまでは望んでいません」
呪いのせいで、フィーバス卿はこの地に縛られ続ける。それは最初から分かっていたことだしそれも望まない。確かに、フィーバス卿が外に出られて、好きなような魔法を使えたら、最も凄い戦力になると思う。しかし、フィーバス卿はここから出られない。けれど、この領地を戦場にしたいわけでもない。だから、戦う地はここじゃなくて、違う場所で、とは思っている。ヘウンデウン教のこともあるし、ラジエルダ王国で……と、前の世界と同じ結末になるかも知れない。今のところ、全く前が見え無い状態で、暗闇の中を感覚だけで走っているようなそんな状態だ。
(てか、またアルベドとわかれることになったし……)
パーティーから帰ってきてから、アルベドはここによってから、レイ公爵邸に帰って行った。というか。フィーバス卿に帰らされたといった方が正しいかも知れない。私がつかれていることだろうからって、あまり無茶させないようにという計らいだったらしいが、まだアルベドと話したいことは一杯あった。エトワール・ヴィアラッテアと何を話したかも、詳しく話せずじまいだったし、もっとゆっくり話せたらよかったんだろうけれど………確かに私もつかれていたし、フィーバス卿の選択は間違っていなかったのかも知れない。
私は目の前におかれているお茶をグビッと飲んで一息はいた。フィーバス卿も同じタイミングでお茶を飲んでカップをソーサーに置く。その仕草は、私と違って本当に貴族という感じがして美しかった。それに対して私は、まだまだマナーもへったくれもないなあ、なんて恥ずかしくなってしまう。生きてきた年数が違うのだから考えても仕方がないのだが。
それでも、パーティーの日、私は貴族令嬢としてしっかり、その役割を果たせたのだろうか、と不安になる。周りからどう見られるか、そこに気を配る貴族社会は、私にはあっていない気がした。かといって、貴族として、社交界に出なければ、また何か言われるし、その噂がピタリと止めば、記憶にも残らないモブになってしまう。辺境伯令嬢なのに、これでいいのかと自分で自分を責めたくなってしまうのだ。
暫くは、マナーを一からたたき直して、来る社交界に供えようと思った。エトワールだったときも、それなりに教養をと学んだが、そこまで気を遣う場面が少なかったこともあって、あまり身についていないないかも知れない。こればかりは、慣れだし。はあ……と大きなため息をついてしまいそうだったところを、グッと堪えて私は、カップをソーサー戻す。
「暫くは大人しくしておこうかなと思っています」
「そんなに、辛かったのか」
「いえ、もっと、マナーを身につけないとと思って。お父様みたいに、なりたいので」
「俺みたいにか……!?」
と、フィーバス卿は目を見開いた。肩を掴まれそうな勢いだったので、フッ、と笑ってやり過ごす。フィーバス卿は、喜びのあまり、そのオーラを隠しきれずにいたが、それは、一瞬インして消え去った。氷のようなまた冷たくなった部屋の中、私がどうしたんだろうと、首を傾げれば、フィーバス卿は困ったように、顔を一掃した。
「つかれているところ、申し訳ないが、少し困ったことがあってな。もう解決したんだが、ステラにも行っておいた方がいいと思ったから、いわせて欲しい」
「何をですか?」
「ステラが、パーティーに行っている間、一通の手紙が届いた。誰からだと思う?」
「だ、誰からなんですか?」
「聖女だ。エトワール・ヴィアラッテアという……あの召喚された聖女からだ」
と、お父様は、真剣な面持ちでいうと透明な青い瞳を私に向けた。