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#あべさく
めかぶぷりん
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事故から、数ヶ月が経った。
最初は、何もできなかった。
歩くことすら怖くて、
部屋の中でさえ、壁にぶつかって。
何度も、何度も、心が折れかけた。
でも今は、一人でも外を歩けるようになった。
音で、人の流れを感じて、
空気の動きで道を読む。
それでもまだ不安は感じる。
完全じゃない。
それでも、“前に進めてる”って思えた。
「……慣れるもんだな」
少しだけ、自嘲気味に笑う。
慣れたくなんてなかったけど。
カツン、カツン、と一定のリズムを刻む。
そのとき―――
ドンッ
「っ、」
小さな衝撃。
軽い体がぶつかってきた。
「あ、ごめんなさーい!」
子供の声。
そのまま、ぱたぱたと走り去っていく足音。
「あ……」
呼び止める間もなく、遠ざかる。
「っ、白杖……」
手の中が、空っぽになっている。
白杖を落としてしまった。
しゃがみ込んで、手探りで地面を探る。
ごつごつした無機質なアスファルトだけを感じる。
白杖は見つからない。
「…どこ……」
焦りが、じわじわ広がる。
白杖は視界のない中で、唯一の“目”みたいなものだ。
それが、いま自分の手元にない。
「……っ」
呼吸が、少しだけ速くなる。
落ち着け。
落ち着け。
そう思っても、指先が震える。
そのときだった。
「大丈夫ですか」
聞き覚えのある声。
すぐ近くで、足音が止まった。
「……っ」
心臓が、大きく鳴る。
「どうぞ」
手に触れる感触。
差し出されたそれを、思わず掴む。
「ありがとうございます……」
ほっと、息が漏れる。
その安心と同時に、俺は確信していた。
この声。
この空気。
「また会いましたね、佐久間さん」
「…阿部さん?」
名前を呼ぶと、
「はい」
まっすぐな返事。
それだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
「お久しぶり、です」
少しだけぎこちなく言う。
「元気そうでよかったです」
「はい、なんとか」
白杖を握る手に、少し力が入る。
「……あの、」
「この前は……ありがとうございました」
あのときのこと。
怖い人たちに囲まれて、助けてもらった日。
「いえいえ」
優しい声。
「ちゃんとお礼言えてなかったので」
そう続けると、
「…律儀ですね」
阿部さんが笑った気配がする。
「そうですか?」
「はい」
その短いやり取りが、なんだか心地いい。
少しの沈黙が流れても、気まずくはなかった。
むしろ、この時間が心地よくて。
「……あの」
気づけば、また口が動いていた。
「少し、一緒に歩きませんか」
言ったあとで、少し後悔する。
重かったかもしれない。
困らせたかもしれない。
でも、
「……いいですよ」
すぐにそう返ってきた。
「ちょうど、時間もあるので」
その一言に、胸が少しだけ軽くなる。
「……ありがとうございます」
自然と、笑みがこぼれる。
「こっち、少し人多いので気をつけてください」
「……はい」
阿部さんが隣に並んで俺の腕を取る。
それだけで、ものすごい安心感があった。
見えないままだけど
不思議と、前よりも
俺の世界に“色”がつく気がした。
コメント
1件
おお、第8話、読み終えたわ…! 事故から数ヶ月経って、佐久間さんが少しずつ前に進めてるのが伝わってきて、すごくじんわりきたよ。白杖を落としたときの焦りや、それでも阿部さんが声をかけてくれたときの安心感、描写が細かくて感情移入しちゃった。見えない世界に“色”がつくっていう表現、なんだか胸が熱くなったな。ふみさん、いいエピソードをありがとう! 次も楽しみにしてるわ🔥