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その翌朝。
家庭の唯一の「境界線」であった父親・克己が、研究室の梁に首を吊って自殺しているのが発見された。
遺書はなかった。
ただ、彼のパソコンには、数十年間にわたる家族の行動パターン、妻の精神変容、子供たちの特性の推移が、極めて学術的で冷徹なトーンで記録された広大なデータファイルが残されていた。
彼は家族を愛しても憎んでもいなかった。
ただの「観察対象」として処理し、この家庭という実験場が完全に崩壊(飽和)したと判断した瞬間に、自身の死すらも最終データとして書き残して消え去ったのだ。
この「壁」の消失により、家族の破滅は一気に臨界点を突破する。
◇
父親の葬儀の夜、長男の修一の精神は完全に決壊した。
憧れであり、超えられなかった父親の死。 …そして、妹の動画による脳内の異常な情欲の混濁。
「親父が死んだのは……お前らが狂ってるからだ! あの動画のせいだ! 母親のせいだ!」
修一はうつ病から双極性障害へと診断名が変わるほどの激しい躁状態の中で、激しい他責思考の刃を社会へと向けた。
数ヶ月後、彼は念願だった研究者の職を辞した後に、街中で無差別殺傷事件を起こし、返り血に染まったまま逮捕される。
家族のその後結末
父親(克己)研究室にて自殺(家族の崩壊データを残す)
長男(修一)精神決壊の果てに、街中で無差別殺傷事件を起こし逮捕
長女(奈央)福祉に保護され、遠方の障害者施設へ入所
そして次男の和也は、父親の遺体の前で、狂ったようにスマホで『夫がアスペルガーの末に自殺しました。カサンドラの私の地獄』と投稿を続ける母親の姿を見て、完全に心を決めた。
和也は、警察とマスコミが群がる家の喧騒の裏で、小さなリュックに必要最低限の荷物を詰め、静かに玄関のドアを開けた。
振り返ることもなく、彼はその監獄から脱出した。
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