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一番スクリーンに入場するまでにちょっと時間がかかっちゃったせいで、ほとんどのお客さんはすでに着席済みだった。


そして僕は周りを見渡す。この満員御礼の眺め、いつ見ても圧巻される。三百人かな? 四百人かな? 某アニメ的に言えば『人がゴミのようだ』って感じ。あれは悪い意味でだけどね。


「小出さん、足元気を付けてね。一番奥の席だから階段多いし」


「うん、大丈夫」


あ、それと。 意外だったのがお客さんの層。割と女子率が高い。こんなにも女性に支持されているとは思わなかったよ。


逆にカップル率は低かったけど。理由は、うん、まあ、ねえ。なんとなーく分かる。


「ふうー、やっと座れたね」


「はあ、はあ……そ、そうだね……」


息も切れ切れな小出さんである。


確かに段数は多かったけど、え? そこまで? さすがは百メートル走を走りきれなかっただけのことはあるね。


で、ちょうどいいタイミングで館内の照明がゆっくりと落とされていった。セーフ。


だって、階段を上ってる最中に薄暗くなってたら、絶対に小出さんは階段で躓いて転んじゃってたりしてたはずだから。


そして、僕達が着席したのがまるで合図のように、少しずつ館内の照明がゆっくりと落とされていった。それから映画の予告編が始まったのだった――。


* * *


館内の照明は完全に落とされ、今はすでに本編――『異世界葉っぱオッサン』が始まってから三十分程が過ぎていた。


でも、僕は全く映画に集中できず。理由は言わずもがな。ずっと、隣に座る小出さんのことばかり考えていたから。


(ど、どうしょう……小出さんの手、握ったりしたら怒られちゃうかな……)


そんなことを考えてしまう今時分。


実は、僕が今日のデートプランの中に映画鑑賞を入れてたのはそれが理由なんだ。


薄暗い中でそっと手を握れないかなあ、なんて思って。でも、さすがはヘタレな僕である。無理! 意識すればする程、緊張でガチガチに固まっちゃってるし。


それに、長年夢見てきたはずの『ひとつの大きなポップコーンを二人して食べる』というのも実現できてないし。別に小出さんが一人でそれを抱え込んで食べてるからとか、そういうわけではなくて。


ポップコーンが全く喉を通らないんだよ! 食べることができないんだよ!


(はあ……情けないなあ)


あまりにヘタレ過ぎて、自分で自分のことを嫌いになっちゃいそう。


でも、それってただのワガママかな。求めすぎかな。小出さんと一緒にクリスマスを過ごすことができただけで、本当は十分なはずなのに。


(そうだよ。小出さんが僕に勇気をくれたから誘えたんじゃん。そのおかげで今日があって、小出さんと同じ時間を共有することができたんだ。余計なことは考えない方がいいよね)


そう、自分に言い聞かせた。


それよりも、今のこの時間を大切にしよう。


僕の心の中の宝物にするために。


* * *


「面白かったね、園川くん」


「う、うん。そうだね。お、面白かったよね」


ごめんね、小出さん。それ、嘘です。


本当は上映時間の約九十分間、結局のところ、あれからもずっと緊張したままで映画の内容が全く頭に入りませんでした……。


ちなみに。小出さんはエンドロールまでしっかり観る派だったみたいで、今はほとんどのお客さんが帰ってしまっていた。


でも、それで良かったんだと思う。本編が終わってすぐに退館しようとしても、館内はまだ薄暗いわけだし。それだと小出さんが転んじゃうかもしれなかったし。


でも――


「それじゃ小出さん、帰ろうか」


「うん。エンドロールまで観てくれてありがとうね」


「あっ!!」


「危ない小出さん!!」


館内がすっかり明るくなったというのに、小出さんは階段を踏み外してしまった。そして咄嗟に、僕は転びそうになった小出さんの手を、ギュッと力強く握った。


初めて握った小出さんの、手。


その手はすごく柔らかくて、壊れてしまうのかと思う程に繊細で、とても小さかった。


彼女の手から、体温を感じる。


まるで粉雪のように真っ白な小出の手をしているのに、その手は見た目とは違い、温かさに溢れていた。


「あ、ありがとう園川くん」


「あ、う、うん。どういたしまして……」


突然の出来事に、僕の鼓動が否が応でも早くなる。心臓がバクバクする。


でも、意図した形ではなかったとはいえ、僕の願いが叶ってしまった。


恋愛の神様がいたとするなら、僕は見捨てられていなかったんだな、と。


不思議と、そう思えたんだ。

【完結!】仲良くしてよ小出さん! 〜本が大好きなコミュ症な女の子を振り向かせるため、僕は頑張ります〜

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