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美琴はLINEの返信を終えると、微笑みながら
「天馬くんってかわいいなぁ。 随分打ち解けてくれたっぽいし、このまま、あいつ の事なんて無視して付き合っちゃおうかな?なんてね♫」と笑みを浮かべていた。
すると、美琴のスマホの着信音が鳴り響く。
「あ・・・電話・・・」
美琴がスマホを手に取り、ディスプレイを確認すると、非通知と表示されていた。
「あいつからだ・・・」
美琴は曇った表情で、電話に出る。
電話の相手は、変声機で声を加工しているのだろうか?甲高い機会音のような声で語りかけてきた。
「定期連絡はどうした?連絡する約束になっていただろ?なにをしていたんだ?」
「すいません・・・たった今連絡しようと・・・」
「言い訳はいい!さっさと今日の進捗状況を報告しろ」
「はい・・・」
美琴とこの電話はの主との関係はどんな関係なのだろうか。
親しい間柄というよりも、服従関係のようにも感じる関係性だ。
美琴は電話の相手に言われるがままに、本日の天馬とのやりとりを事細かく話す。
そして、日にちは決定していないものの、天馬の自宅で手料理を振る舞う約束をした事を話した。
「ほぅ・・・そうか!もう自宅に上がり込む約束をするまでに発展したか!
さすがは男をその気にさせるのが上手い女だな!」
電話相手からの嫌味に対して言葉を発さない美琴。
「あら?違ったか?お前はそういう女じゃねぇか!」
「次は・・・何をしたらいいんですか?まあ、新たな指示なんですよね?」
「否定はしねぇんだな!ふはははは!まぁ、いい。
じゃあ次は第四段階に移行してもらおうか!」
「第四段階?」
第一段階は、天馬の自宅へ財布を届けに行く。
第二段階は、偶然を装い天馬と接触する。
第三段階は、天馬の自宅に行く約束をする。
現時点ではこの第三段階だと語る電話相手は
次のステップ、第四段階へ行けと指示をする。
美琴は電話相手からの新たな要求、第四段階の内容に驚いたように目を見開く美琴。
「そんなの・・・犯罪じゃないですか!」
美琴の問いかけに電話相手は高笑いしながら
「お前の口からそんな台詞が出てくるとはな!大笑いだな!なんせお前は・・」
電話相手が言い切る前に美琴は必死な様子で
「やめてください!やりますから!必ずやりますから!
お願いだからそれ以上は言わないでください!お願いします!」と必死に涙ながらに訴える。
「まぁ、安心しろよ。お前が俺の命令に忠実なうちは口外したりしねぇからよ」
「本当ですか?」美琴は震える声で尋ねる。
「俺を疑ってんのか?ならあの事を・・・」
「違います!違います!すいません!すいません!」美琴は涙ながらに謝罪する。
「でも・・もし警察に通報なんかされたりしたら・・・」美琴はこれを懸念していた。
電話相手から下された新たな指示は、下手したら警察に通報されてもおかしくない事案だからだ。
そんな心配する美琴に電話相手は「心配するな!警察には通報されないように根回ししてやるから安心しろ」と自信満々な口調でいう。
「根回し?貴方って一体何者なんですか?」
警察に通報されないように根回しする事など、 ある程度の社会的地位がある人間でなければ不可能だ。
「お前が知る必要はない!いいか?お前はただ、俺の出した指示通りに動いていればいいんだ。
妙な詮索は命取りになるが、それでもいいか?」
「いえ・・・」美琴は命取りという言葉に萎縮してしまい言葉を発せない。
「まぁ、いい。じゃあ、しっかり頼んだぜ」
「はい・・・わかりました・・・」
美琴はうっすらと涙を流していた。
「ごめんね天馬くん・・・あなたに恨みはないけど
こうするしか私に道は残されてないの・・・ごめんなさい・・・」
天馬は大学に着くとすぐさま崇矢に、美琴に手料理を振舞ってもらえる事を嬉しそうに話した。
「へぇ、手料理ねぇ!よかったじゃん!」
崇矢は若干からかったった様子で天馬の肩をポンポンと叩く。
そんな崇矢に天馬はじとっとした視線を送る。
「なんだよ!その目は!」
「今回ばかりは崇矢の取り越し苦労だったね!美琴さんがストーカーだなんてさ!
あんまり人の事を疑うの良くないよ?美琴さんはあんなにいい人なのに!」
そんなノロケている天馬に崇矢は
「そりゃ結果論だろ?それに俺は、その女がストーカーだ!なんて断言したつもりはねぇぞ?
そのくらいの危機感を持っとけって忠告しただけだ!」と呆れた様子で話す。
「まぁ、そういう事にしといてあげるよ!でも楽しみだなぁー手料理!」
「のろけか!クソ!リア充死ね!」
しかし、言葉ではそう言った天馬であったが、美琴に対して不安感もあった。
自宅で女性と二人きりという状況に対しての不安ももちろんあったが、それだけでなかった。
それは約束をして以来、美琴からの連絡がパタリと止んだからだ。
自分の返信に何か癪に触る受け答えがあったのだろうか?嫌われたのだろうが?
など色々考えたが答えは見つからなかった。
そもそも自分のような冴えない男が、美琴のような可愛い女の子と付き合えるかもなど
土台無理な話だったんだと半ば諦めた様子で帰路に着く天馬。
鍵を開け、部屋に入り明かりをつけた瞬間、天馬の目の前には衝撃の光景が広がっていた。
「なんだよ・・・これ・・・」
そこには
「オム・・ライス?なんでオムライスが?」
天馬の頭の中では、身の毛もよ立つような仮説が浮かび上がっていた。
それは、目の前のオムライスは美琴が準備したのでないか?という仮説だ。
しかし、仮にそうだったとしても、美琴はどうやって入ったのだろうか。
ドアの鍵は閉まっていたし、窓の鍵を調べてみてもキチンと内側から施錠されている。
もしかしてピッキングか?とも考えたが、鍵は閉まっていた。
いくら思考を巡らせようとも、答えは見つからなかった。
そんな恐怖が天馬の全身全霊を支配していると
インターフォンが鳴り響き、天馬を容赦なく追い詰める。
「ひぃ!だ、誰?」
もしかして美琴か?と内心穏やかではない天馬。
恐る恐るドアに近づき
「あの・・・どちら様ですか?」と問いかける。
美琴さんじゃありませんように!と願う天馬であったが、そんな願いは無情にも跡形もなく崩れ去る。
「あっ!天馬くん?私!私!美琴!」
「美琴さん?」
天馬の表情は、先程までのウキウキ具合とは正反対に、恐怖に引き攣った真っ青な表情になっていた。
「オムライス食べてくれたぁ?美味しかったかな?天馬くんの好みにあったかな?」
「美琴さん!どうやって部屋に入ったんですか?」
「いいじゃん♫そんな事どうでも!」
「どうでもよくないだろぉ!!」
天馬の言い分は美琴にまったく通じていない様子だ。
まるで自分がやっている事の異常さを理解していないようだ。
「どうしたの?何怒ってるの?
私、なにか悪いことしたかな?」
「自覚ないんですか?これは明らかに住居侵入じゃないですか!」
「何言ってるの?私は天馬くんの彼女なんだから
彼女が彼氏の家に行くなんて普通の事でしょ?」
美琴の発言に天馬は戦慄した。
やはり美琴は自分を彼女だと勘違いしているのだと。
「彼女?いつそんな話になったんですか?」
「いつって、私はずぅーっと前から天馬くんの彼女じゃない!
何変な事言ってるの?天馬くんおかしいよ」
「おかしいのは美琴さんじゃないですか!だって俺たちは」
天馬が言い切る前に、美琴はさらに言葉をすすめる。
美琴には天馬の意志など関係ない。
「いいから早くドアを開けてよ」とドアをたたきながら天馬に語りかける。
しかし天馬は、あまりの恐怖に腰が抜け立ち上がれない。
多少の眩暈と吐き気もしてきたようで、苦しんだ顔で口元を手で押さえてる。
天馬必死に掠れた声で「帰ってください」と呟く事しかできなかった。