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#追放
ギルドとは、
港に集う商人たちの組合。
この港では、昔からギルドが分配まで請け負い、仕切っていました
船が戻れば、
積荷は出資に応じて分配される。
誰が多くを得るか。
それは、すでに決まっている世界でした。
カルドのほかにも、
多くの子どもたちが集められていました。
運び込まれる荷の山。
飛び交う怒号。
慌ただしく動く大人たち。
カルドは――目を離さなかった。
初めて見るものばかりだった。
瞬きをするのも惜しむように、
ただ、見ていた。
「なあ、あの瓶の中身は何なんだ?」
「胡椒だ。高価なもんだぞ。触るなよ、どやされる」
「昔は金と同じ重さで取引されたって話だ」
「へえ……」
カルドは、しばらく考えてから言った。
「で、胡椒って何だ?」
「お前、そこからかよ」
「肉に振って食うんだよ」
「……俺たちの口には入らねえけどな」
「???」
カルドには、まったく分からなかった。
後年――
カルドは、食事の席に必ず胡椒を置かせた。
「最初に胡椒を振って食べた肉以上のうまいものに、
まだ出会ったことがない」
そう言って笑う。
「だからな、これはお守りだ」
さらに、
「若い連中には教えてやりたいんだ」
新しく入ってきた水夫を見つけると、
彼は必ず声をかけた。
胡椒を手に、
楽しそうに。
カルドが最も興味を持ったのは、
港に入る荷物を分配するときの仕組みだった。
最も多く金を出した者が、
最も多くの品物を手に入れる。
「これって、僕もお金を出したら
荷物を分けてもらえるってことですか?」
少年の純粋な疑問に、職員は気軽くうなずいた。
「ああ、そうだよ。
「最低は五千ディナールだがな、
何人かで金を出し合うこともある」
「まあ、出資した船が沈んだら全部パアだけどな」
「船が沈めば、金も、夢も、全部海の底だ」
職員はそう言って、大声で笑った。
――金を出せば、荷物が手に入る。
――だが、船が沈めば金は消える。
カルドは黙っていた。
だが、その目は、宝石を見つけた子供のように輝いていた。
珍しい品物ではない。
香辛料でも、絹でも、宝石でもない。
少年の胸を打ったのは、
金がさらに金を生む仕組み、そのものだった。
少年の目が輝き始めた。
品物ではない。
その向こうにある“ルール”を、彼は見ていた。
船に乗らなくてもいい。
海に出なくてもいい。
金さえあれば、帰ってきた宝を手にできるのだ。
「今日入ってきた荷物で一番品物を受け取る人は
誰ですか?」
「ん?」
「グロスター公だ!今の王様の弟君で
この丘の上のお屋敷に住んでおられる」
「なんでも自分の容姿を人に見せたくないかで
屋敷にこもっておられるとか」
「王族だが政には関わらず、
お金儲けが好きな変わり者だ」
「ふーん」
「今日、届けるんですか?」
「いや、今日は仕分け、明日お届けだ」
「明日、お前は休みだぞ」
「もし、よかったら運ぶの手伝いましょうか、
ほら、丘の上だし……」
「まあ助かるし、いいよ」
これがこの少年にとって
忘れられない出会いとなる
グロスター公は、思っていたほど醜くはなかった。
確かに、体はわずかに歪んでいる。
肩の高さは揃っておらず、立ち姿にも癖がある。
だが、その顔は――静かだった。
血の気の薄い肌。
細く引き締まった口元。
そして、何よりも印象的なのは、その目。
暗い。
だが濁ってはいない。
むしろ、磨かれた刃のように鋭く、
一瞬で相手の価値を測る光を宿していた。
「今日は、子供がついてきているのか?」
低く、よく通る声だった。
カルドは気づく。
(この人は……“見ている”)
人ではなく、
価値を。
金を。
そして、その先にあるものを。
「少年」
その声に、背筋がわずかに伸びる。
「この港で、一番儲けているのは誰だと思う?」
「……この港で一番大きな船の船長ですか」
一拍。
「――わざと外したな」
グロスター公は、わずかに口元を歪めた。
「俺だよ」
静かに言い切る。
「船に乗らない俺が、一番儲けている」
その言葉には、誇りも驕りもない。
ただ事実だけがあった。
「で――」
視線が、カルドに突き刺さる。
「俺を見に来たんだろう」
カルドは、一瞬だけ迷い――
「……はい」
「名前は?」
「カルドといいます」
「いくつだ」
「十一です」
「ふむ」
短くうなずくと、グロスター公は振り返る。
荷を運んできた職員に、何でもないことのように言った。
「サッシャーには伝えておけ」
一拍。
「この子は、もらう」
場の空気が凍る。
グロスター公は、わずかに肩をすくめた。
「ああ、勘違いするな。俺にはそういう趣味はない」
乾いた笑み。
「皇太子と同じ年齢だ」
そして、再びカルドを見る。
「王宮に連れていく」
その言葉は、命令でも提案でもない。
決定だった。
「たまには兄上にも会わんとな」
ふっと、楽しげに目を細める。
「――いい手土産になる」
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