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「エトワール様、俺は、貴方に許して貰えるような人間ではないです。酷く、自分勝手な人間です」
懺悔、懺悔、懺悔。
どれだけ後悔している買っていうことも、どれだけ胸を痛めているかってことも分かるし、グランツを見ていれば、反省したってことは分かる。今までに無いくらいの勢いで、頭を下げるから、もうそれ以上頭を下げないで欲しいってのもあった。あとは、単純に、謝られるのになれていない。怒られるのにはなれているけれど。
「エトワール様」
「顔あげて。もう、いい。大丈夫だから」
私が、もういい、大丈夫だから。なんていう必要性も、何の脈絡も何もないんだろうけれど、これ以上この空気の中息をするのが辛かった。だから、グランツにはもう喋らないでって言う意味で声をかける。
これまた自分勝手で、酷い言動だとは思ったけれど。
顔を上げたグランツの翡翠の瞳が揺れている。彼は、まだ後悔を顔に貼り付けて私を見ていた。
いつから、彼が私の元を去ったのか、よく分からなくなってきた。いつだっただろう。狂いだしたのは、トワイライトが来てからだろうか。勿論、彼女のせいじゃないし、彼女が悪いわけじゃない。トワイライトにも護衛が必要だって今になってしっかり思うし、彼女は強いけれど、戦闘になれていないっていう面では、護衛が必要だって、今なら思う。それに、トワイライトは今では私の可愛い妹で、本当の妹で、私が一番大切にしなきゃいけない家族なのだと。
だから、トワイライトの護衛は必要だった。それをかって出たのがグランツ。けれど、その当時、既に主がいたくせに、他の人の護衛をやるなんて誰が言えただろうか。誰も、言い出すなんて思わなかっただろう。
けれど、あの時は、私の事を疑う人が多かったし、それに関して誰も疑問を持たなかった。グランツは実績もあったし、若いながらも強くて、プハロス団長にも認められていたからこそ、彼がトワイライトの護衛騎士に移転することを、誰もとめなかったし、言えなかった。そういうのもあって、流され、何も言えず、グランツはトワイライトの騎士になった。けれど彼は、トワイライトのことを本当に大切な主だという風に認識していなかったように思う。いつも 私の顔色を気にしていた。自分が、トワイライトの騎士になったから、その事を後悔しているのかとか、色々思うことはあったけれど。
(実際何を考えていたかとか、何も言ってくれなかったから分かるはずもなかったのよ)
分かってる。今頃、過去の事を掘り返すのはダメだって。それに、もう、随分と昔のことのように思えて、私も忘れている部分はある。でも、私の中で、裏切られたんじゃっていう思いは、心の中にずっと漂っているわけで、彼が本当に何を考えていたのか知りたかった。
「グランツは……私の事どう思っているの?」
「……俺が、エトワール様を、どう思っているか、ですか」
と、グランツは、何処か怯えるように顔を上げて、私を見る。
何故そんなことを聞くのかって、分からない目をしていた。私だって分からない。グランツが何でそんな目で私を見るのか。
私の質問が可笑しかったのなら訂正するけど、私はコレであっていると思っている。だからこそ、はっきりして欲しかった。グランツは賢いから、何かと逃げ道を見つけて、逃げるから。逃がさまいと、私は彼を見る。
彼は、いたたまれなくなったのか、視線を漂わしながら、言葉を考えているようだった。
また、逃げる気か、嘘をつく気かと、私はもう一言付け加える。
「嘘は言わない。怒らないから、本当のことを話して。受け止めるつもりだから」
「……」
その言葉を聞いて、グランツがグッと下唇を噛んだのが見えた。言いたくないっていうのがそれでよくわかったし、いってしまったらどうなるっていう、彼の不安が見えた。矢っ張りそうなんだと、私は、彼を見て思う。
(言えないんだろうな……私に嫌われるのが嫌だから?)
それは考えすぎかも知れないけれど。でも、何となく、私は、彼の言いたいことが分かるような気がした。それを、彼の口から聞きたい。
「エトワール様……は、いって、おれのことを 嫌いになりませんか?」
「嫌いになるようなことをいうの?」
「既に、嫌われているものだと思っているので。また、捨てられたら俺は、もう……」
捨てたのはどっちだと、いいたくなった。それを、グッと堪えて、私は「嫌いにならない」と嘘か本当か自分でも分からない言葉をグランツにかける。このぐだぐだした会話は、グランツと私の間で欲起きるから慣れっこだと思っていた。
ずっとそうだ。出会った時から、たまに噛み合わないような、グランツが言い渋るせいで、話が途中でブツンとキレてしまうような嫌な感覚。
「嫌われているかどうかは、アンタが決めることじゃない。私の中にあるだけ。それを恐れて、いわないのは卑怯じゃない?アンタは、顔色を伺いすぎ。私の事を信用していないのは、アンタの方じゃない?」
「それは……っ、違います。俺は、エトワール様のこと」
長い、長い、長いから。私は、そろそろ、堪忍袋の緒が切れそうだと、彼を睨み付ける。今まで、私に恐れを抱かなかったグランツが、ビクリと大きく肩をふるわせた。私の事を怖いと思っているのだろうか。これまで、散々私を振り回しておいてよく言うと。
「私の事が怖い?」
「いえ、そのようなことは」
「じゃあ、言えるよね?」
これでは、脅しだ。と、自分でも分かっていた。分かっていながら私は彼に言ったのだ。これ以上待たされるのは嫌だと。スッキリ終わらせて、元の関係に戻れたらって、私の中で少し甘い考えがあったのかも知れない。ううん、断言する、甘かった。甘いんだ、私は。
傷ついても、自分にまた気持ちが向いてくれるのなら、許すってそうなっちゃう。私の中で、彼の裏切りって言うのは、かなり大きいものだったはずなのに、彼が後悔して、心を入れ直したなら、許してしまうかなってところがあって。これでイイのかっていわれたら、良くないのかもだけど。
「分かりました」
と、一言、グランツはいうと一度目を伏せ、それから、譫言のように呟いた。
「俺は、エトワール様のことが好きです。愛しています。貴方と出会って、俺の人生は変わりました。だから、貴方の側にずっと居たいと思った。それだけで、初めのうちは満足していたんです。でも、それがだんだん膨らんでいって、自分でも制御出来なくなって。貴方のまわりから、貴方を好きな人達を排除できれば、どれほど良いかって。そうして、俺だけを頼ってくれて、俺だけを見てくれるようになれば……それ以上、望むことはなかった。けれど、俺はその自分の欲に従って行動した結果。全て失った。貴方を傷付けた。だから、俺は……だけど、俺は――」
グランツは、嗚咽を漏らしながらいう。
そこまで思っていたんだって、何となく感じていたけれど、彼の言葉が、声がついて流れると、急に胸が苦しくなった。
グランツの事が、恋愛的に好きかと言われれば、全然ノーだって答えちゃうだろうし。それに、どれだけ愛の言葉を囁かれても、それは敬愛とか、そういう風にしか捉えられなかったと思う。
はじめから、恋愛対象外だったかといわれればそうじゃないけれど。彼と関わっていくうちに、弟のようなそんな感覚になっていったのかも知れない。
私に、彼への恋愛感情はない。ただ、それだけ。
それを分かっていても、グランツは捨てられなかったのだろう。自分が大切に暖めてきたものを、いきなり水に戻すような、雪の上に放り投げるようなことは。それが、煮詰まってドロドロにとけて、結果的に悪い方向へ走ってしまったと。そういうことなのだろう。
(こんなに、気持ち悪くて、熱くてドロドロした感情向けられたの始めてかも)
汚いっては思えない。愛が煮詰まれば憎悪だって殺意にだってなる。それは、これまでであってきた人達を見れば分かった。グランツもそうだと。
嫌なわけじゃない。愛してくれていたこと、好きだっていってくれたこと、それは素直に嬉しい。けれど、私は答えられない。
最近になって、私は沢山答えを出してきた。答えを本人に伝えるのは凄く怖くて、勇気のいることだった。
でも、向き合おうって思えたのは、真剣に私に告白してきてくれたから。私みたいなさえない……って自分で言うのもアレだけど、魅力も無ければオタクで、余計なことばかり言う私を好きだっていってくれたのが嬉しかった。そして、私は私の心に従って、答えを出した。
私が好きになったのは、好きだって思えたのは、リースだった。朝霧遥輝。元私の恋人で、今は私の婚約者。彼みたいな長い間好きで居続けてくれたら……とかそういうのではなくて、私が彼を好きになった。結果、私は彼に告白した。
ただそれだけの話。
「俺は、貴方に捨てられても、貴方に嫌われても……俺は、エトワール様のことが好きです。貴方の側にいたい。それだけで、もう、いいから……貴方の事を好きでいさせて下さい。好きで居続けることを許して下さい」
「……」
と、グランツは、最後まで言い切った。
顔を最後は伏せていた。泣いていたかも知れない。顔が見えないからわかなかったけれど。私より年下で、感情なんて表に出さない彼だったから、そんな風に思ってくれていたこと、いってくれたことが凄く嬉しかった。私は、それに真剣に応えなきゃいけない、一人の人間として、彼の主として。
「ありがとう、グランツ」
「エトワール様」
「でも、ごめんね。私はアンタの気持ちには応えられない。私には、好きな人がいるの。それでも……これは、私の我儘だし、アンタを傷付けちゃうかもだけど。それでもいいなら、私の隣にいて守って欲しいし、私の大切なもの、大好きな人達を守って欲しい。好きでいてくれて構わない。こたえることは、出来ないけれど……ごめんね」
「……はい、はいっ、エトワール様。それでも、良いです。貴方の隣にいられるのなら、好きでいてイイと、許して下さるのなら。俺は、もう一度、貴方に全てを誓います」
そういって、グランツは騎士の誓いのように膝をつき、涙を拭いて私の前に跪いた。