(はあ~~~~スッキリした!)
これで本当に良かったのとか、後悔していない? って自分に一応聞くけれど、私はこれが私とグランツの関係の終わりで、始まりで、良かったと思う。そうじゃなければ、ずるずるといってしまいそうだったし、時間が過ぎれば過ぎるほど、彼はきっとまた逃げるだろうから。そう思えば、これが最適解だったと、私は思う。人によっては、私が酷いって思われるかも知れないけれど。
「グランツ」
「はい、何でしょうか。エトワール様」
「これからも、よろしくね」
「……っ、はい」
今までに見たこと無いくらいキラキラと輝く笑顔を私に向けるグランツ。年相応というか、ちょっと幼く感じるというか。なんか、癒やしだなあなんて思ってしまった。
ワンコ系に目覚めたあの頃が懐かしいとさえ思ってしまう。
年下の子は可愛い! 正義!
「エトワール様どうしたんですか?とても、嬉しそうですけど」
「えっ、え、ああ、えっと、いや、何でもない!」
と、私は誤魔化した。
いけない、いけない。顔に出ていたのか。
グランツは、凄く不思議そうに私を見ていた。磨りガラスのような目をしていた子だと思っていたけれど、それがようやく綺麗なガラス玉になって、彼の内側が見えるようになった気がした。闇が全部取っ払れた訳じゃないんだろうけれど、今はこれでいいかと。
けど、まだ聞きたいことは沢山あるわけで。
(グランツが、こちら側に戻ってきてくれたから、凄く戦力になるんだろうけど……不安要素は消せなくて)
グランツなら、他言しないと思うし、彼はそういう面ではブライトと同じで信用出来るのだ。都合の良い道具とかそういう風に見ているわけじゃ無いし、そんな人権を無視するようなことはしないけれど、彼に頼みたいことは沢山あった。
今のところ、私の味方だって断言できる人が少ないから。グランツは、私側だと思うけれど、ラヴァインとアルベドのあの境界線が分からない以上、彼らを信用しきると言うのは難しい。
今は味方が欲しい。そして、情報が欲しいのだ。
「グランツ。早速で悪いんだけど、頼み事していい?」
「何でも言って下さい。俺は、エトワール様の手足ですから。遠慮無く」
「う、うん……」
凄く張り切っているっていうのが分かった。張り切りすぎて倒れないかだけが心配だ。
(ほんと現金な子なんだよね……すぐにコロッと変わって)
悪いとは言わないけれど、彼の告白が、彼の中の全てを取っ払った、振り切ったんだなあなんて思うと、どれだけ溜めてきたんだってツッコミを入れたくなってしまう。まあ、突っ込む必要は無いので、この辺にしておいて。
少し、思い出しながら、グランツに何があったかだけ聞こう。
(ラジエルダ王国のことは多分聞かない方がいいんだろうな)
あと、アルベドの事も、聞かない方が良いっていうのは分かった。だから、不思議に思っていることの一つである、彼との関係を聞こうと思う。
「そういえば、グランツ」
「はい、何でしょうか。エトワール様」
「うっ、きらきらしすぎ……いきなり、そんな変わられたら吃驚する」
私がそういえば、グランTヌハ首を傾げた。彼からしたら、何も変わっていないんだろうけど、私からしたらもの凄―く変わっているのだ。
(だって、あった当時は、私の事も警戒して、一匹狼みたいな感じだったのに!)
それが、今じゃ、じゃれつく子犬みたいになっているのだ。いや、私より大きいし、大型犬かも知れないけれど。
透き通ったガラス玉の瞳を向けて、グランツは、私に今か今かと、指示を出して欲しいというように強請る。勿論、表情は変わっていないけれど、彼のまわりには、花が咲いているように見えるのだ。ぽわぽわっとした手書きの花が。
(はあ……良かったんだろうけど、良かったんだろうけどね!)
慣れない、の一言に尽きるなあ、と私はもう一度グランツを見た。これが、本来の彼なのだろうか。まだ、幼さも残る、王族の生き残り。
「ほんと、変われるのね、人って」
「俺が変わったのは、貴方に会ってからです。エトワール様。エトワール様が、俺の人生を変えてくれたんです」
「……さっきも聞いた」
「いってません」
と、何故か強気にいってくるグランツ。ここから、もう一度、彼のモノローグが始まるんじゃないかと、私は若干引き気味にグランツを見る。それを察してか、彼は深く、長く語ることはなかったけれど、なんとも言えないような表情で、少しだけ口角を上げて笑っていた。
「貴方に出会わなければ、俺は、出来損ないの平民上がりの騎士という烙印を押されたままでしたよ。だから、貴方が、俺の為に声を上げてくれたこと、貴方が、俺を護衛騎士として選んでくれたことが、何よりも嬉しかったんです。多分、その時からずっと好きだったんだと思います。気づいたのは、貴方のまわりに、人が増えてからでしたけど」
「そう……」
でも、それも過去の事。彼は、恋心を持ちながらも、諦めて、私の隣にいてくれるっていったから。それは信じている。好きな人が手の届く位置にいるのに、見守っているだけってどれだけ苦しい事か分かったものじゃないけれど、彼はそれでもいいといった。そうでなければ、私の隣にいられないと思ったからだろう。グランツは、隙あらば、狙いに来る、という感じじゃなかった。本当に護衛騎士としての責務を全うしてくれようとしている。
じゃあ、アルベドは?
(今は考えなくて良いのよ)
あの男の告白が、何処まで真剣で、何処まで私に向けての言葉なのか分からない以上、全て受け取って良いわけじゃないと思うし、何よりも彼とも、もう一度向き合う必要があると思った。
ラヴァインの恋をし始めた少年、という感じじゃないから、アルベドはたちが悪い。
私の中のアルベドと、アルベドの中の私と、若干食い違っているようなずれが起きているような気がするのだ。勿論、彼の全てがずれているというわけじゃないし、彼は二つを抱えながら生きているから、私もはっきり出来ないのだと。
「それでなんだけど、グランツ……」
「はい」
「ブライトから、ある程度のことは聞いている。あと、アルバからも。ラジエルダ王国で何があったかとか、アンタがアルバのこと助けてくれたってことも」
私がそういえば、グランツはハッとしたように顔を上げると、すぐに、顔を逸らしてしまった。彼にとって苦い過去というか、そこまで知られていたのか、と顔を合わせることすら出来ないような酷いことをしてしまったというような、後悔からか。
ラジエルダ王国での戦い。アルベドはラヴァインと戦って、そうして、グランツはブライトとアルバが相手をしていた。ブライトなんて、グランツのユニーク魔法の前では無力で、防御魔法などの援護は出来ても、攻撃には参加できていなかった。だからこそ、アルバが前戦に立って戦わないといけないという状況だったのだ。
アルバとグランツ、どちらが強いかはよく分かっていない。私の大切な護衛達だし、優越つけがたいそんな尊い存在だからこそ、どちらが強いって私も明確に決めてこなかった。けれど、男女の差は簡単に埋まるはずもなく、体格差、そして、気持ちの持ち方、考え方で、グランツが圧倒だったらしい。
まあ、思えば、そうだよね、と納得のいく結末で。
けれど、アルバの必死な問いかけもあって、グランツは今みたいに後悔して、もう一度一緒に戦うことを決意したのだとか。しかし、気づき、心を入れ替えたのは、アルバが瀕死の重傷を負ってからだった。
グランツには、いってしまえば、そこまでしないと、身体を張って必死に叫ばないと届かなかったということだ。アルバは瀕死、ブライトも魔力を消費して……そうして、畳みかけるようにブライトの父親が姿を現したのだとか。
ブライトは、私の力が少し残っていたから、覚醒状態だったが、瀕死のアルバを置いて、戦えるはずもなく、ブライトは困っていた。そこで、グランツは、ラジエルダ王国の王族が持っていた指輪を使って彼女の傷を全て癒やした。本当は、自分に使う予定だったと、グランツはブライトに話していたそうだ。あの、万能薬と同じ、お助けアイテム。入手困難、生き物を超越する力を持ったアイテムのしよう。そして、ブライトとグランツは共闘し、ブライトの父親、侯爵を倒したと。
「アルバは……何か言っていましたか」
「ううん。でも、早く元気になって、また手合わせしてって。今度は負けないからって」
「……そう、ですか」
と、グランツは、嬉しそうな、申し訳なさそうな顔で言う。
彼は反省しているし、アルバも許してくれるだろうと思った。一応、致命傷は負わせた問いはいえ、後遺症も何もなく命を助けてくれた恩人ではあるから。方法がアレだけど。
まあ、アルバは今ではすっかり元気になっているし、留守番を頼んでいるトワイライトの警護もしてくれているし、本当に助かっている。トワイライトは、アルバに心を開いているから、アルバには、トワイライトの護衛もよろしくね、と話してある。グランツの事もあったから、どうかなあって思っていたけれど、アルバは快く引き受けてくれた。彼女は本当に強い私の味方だと、思う。
アルバのことはこれくらいにしておいて。彼も反省しているようだし、元々、彼が気になっていたことだろうから、話せて私も満足だし。
「まあ、それも聞きたかったし、話したかったんだけど。私が一番聞きたかったのは、そうじゃなくて。アンタと、ラヴァインの関係……で……ッ?」
「エトワール様ッ!」
立ち上がった瞬間、ぐらりと身体が傾いた。何かに躓いたとかじゃなくて、本当に、身体から力が抜けたように。
視界も一転して、私はその場に倒れ込んだ。身体が動かないのだ。呼吸も、上手く吸えなくて、明らかに可笑しい状態だった。なのに、何故か意識はしっかりとあって。金縛りかとも思ったが、だんだんと、胸が苦しくなっていく。汗が、吹き出るようなそんな感覚に、頭が痛くなってくる。
(何、これ……)
「エトワール様ッ!」
グランツの叫び声が聞えた。けれど、それもだんだんと遠くなっていって、私の意識はもうろうとしだす。何となく分かるような気がする。
これは、毒だと。
(いつ、私……攻撃なんて喰らった?)
毒なんて、あの紫色の髪の男に決まっている。けれど、ちゃんと警戒していたはずだと。私はそんなことを考えながら、意識を手放した。
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