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玄関に入ってドアを閉めてすぐに、諒に抱き締められた。
「一緒にシャワーしよう」
甘く囁く諒に、私は小さく笑って答える。
「うちのお風呂は狭いから、一人ずつね。あっちよ」
「ちぇっ」
諒は残念そうに顔を歪めたが、諦め顔でため息をつく。
「それじゃあ、先に借りるな」
「うん。すぐにタオルとか持って行くね」
「ありがと」
諒は私の頬にキスを一つ落としてから、浴室に足を向けた。
私は早速リビングに行き、さっと片付けた。続いて寝室に入り、ベッドの上を手早く整える。あの日と違って、今夜はこれから諒とそういうことをするのだと思うと、心の準備をする時間がある分、緊張する。
タオル類の他、今まで返し損ねていた彼の部屋着を持って、浴室へ行く。彼に声をかけてから、リビングに戻った。
諒が浴室から出てきた後、私もシャワーを使う。さっぱりとして浴室を出た私は、はっとする。パジャマや下着を持って来ていなかった。とりあえずは、脱衣スペースの棚に常備しているバスタオルを体に巻きつけた。髪を乾かしながら、どうしたものかと考えて、諒に目を瞑っていてもらう間にクローゼットから着替えを取り出すことにする。
バスタオル一枚のあられもない姿で、私は諒が待っているはずの寝室へ向かった。ドアをほんの少し開けて、隙間から顔を覗かせる。
諒は私のベッドに腰を下ろし、途中のコンビニで買ってきた水を飲んでいた。
私はおずおずと彼に声をかける。
「ねぇ、諒ちゃん。ちょっと目を瞑っていてくれないかな」
諒は顔を上げて、不思議そうな声で訊き返す。
「どうして?」
「着替え、取りたいの」
「着替え?」
諒はペットボトルを窓辺に置いて立ち上がり、私の方へと近づいてきた。ドアを開けて私の姿を目に入れた途端、にやりと笑う。
「エロすぎだろ」
「そんなに見ないでよ」
「そのままでいいだろ」
「恥ずかしいよ」
「恥ずかしがる必要なんかないよ。俺たちは恋人同士なんだから。それにお前の裸はすでに見てるしな」
「そ、そういうことじゃなく……」
「いいから、こっちにおいで」
諒はくすりと笑い、もじもじしている私の手を取ってベッドへ誘った。
バスタオルの胸元を抑えて、私はどきどきしながら彼の後に続く。
諒は私から手を離すと、着ていたルームウェアを脱いだ。ベッドの上に座り、私に向かって手を伸ばす。
「瑞月、ここに来て」
「う、うん……」
私は諒の言葉に素直に従った。バスタオルの裾がめくれるのを気にしながら、彼の脚の上を跨ぐように座る。内腿が彼の脚に触れてぞくぞくした。
彼は私の胸元に口づけながら、しみじみと言う。
「瑞月の気持ちが手に入る今日まで、本当に長かった。今夜はこの前以上にたっぷりお前を愛したい。だからたくさん鳴いて、お前が俺の恋人になったってこと、目いっぱい実感させてくれ」
諒の手が私の体からバスタオルを滑り落とす。
露わになった私の胸を優しく撫でながら、諒は囁く。
「愛してるよ」
諒は顔を上向かせて、私にキスをした。
それに応えて唇を重ね合わせ、舌を絡め合わせた。互いを求める気持ちが溢れ出し、触れ合う互いの肌が熱を持ち始める。
背中を撫でていた諒の手が下へ下へと降りて行くのが分かった。その手はさらに奥へと進み、優しく、けれど淫らに私を蕩かしていく。
私を抱く今夜の諒は、初めての夜以上に優しかった。体の隅々まで愛されて、私の意識は幾度も溶けかけ、甘い鳴き声と甘い吐息を抑えることができなかった。
諒の体温、息遣い、まなざしのすべてを受け止めながら、私は彼に応えた。ひたすら私を愛し続けてきた彼のことが、たまらなく愛おしい。
愛し合った後の幸福感に浸りながら、私は諒に寄り添っていた。
その肩先を撫でながら彼が口を開く。
「なぁ、瑞月。また昔みたいに、お前の手料理、食べさせてくれないかな。この前何年かぶりに食べたら、やっぱりうまくてさ。瑞月の飯を食べられると思ったら、仕事もますます頑張れると思うんだ。だめかな」
彼の言葉が嬉しい。
「もちろん、いいよ。でも、どうしよう。この前みたいに、連絡をもらってから用意してもいいけど、それじゃあちょっとね……」
「俺の休み、週末にもらえる時もあるんだ。その時、うちに来て作ってくれないか?もちろん泊まりで」
愛し合った余韻が残るせいか、「泊まり」の言葉にどきどきする。
「わ、分かった。その時は、食べたい物とか先に教えてね」
「あぁ。頼む。ところで瑞月」
「なぁに?」
諒が半身を起こした。
それに倣って私も起き上がろうとしたが、彼に止められた。
甘えた声で彼は確認を取るように私に訊ねる。
「もう一回、していい?」
しかしすでに、彼の手は私の肌を撫でていた。
私の体はぴくりと反応する。
「あっ……。で、でも、もう遅いし、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「だめか?」
重ねて訊ねながら、彼はその指を私の下腹に向かって滑らせていく。
太腿を這い、さらにその奥に触れる彼の指の動きに、私の唇は吐息を刻んだ。
諒の口づけがそれを飲み込む。
「っ……」
濃厚なキスにもどかしい気分になった時、諒が唇を離した。私をじっと見つめる瞳の奥に、飢えたような光の揺らめきが見えて、どきりとする。
「お前への想いが今日やっと実ったんだ。さっきの一回くらいじゃ伝えきれないし、愛しきれないんだよ」
「だからって、ひと晩にそんなにしなくたって……」
私はじりじりとした動きで、彼から距離を取ろうと試みた。しかし呆気なく捕まってしまう。
「とかいいながら、あの夜は一回じゃすまなかったじゃないか。瑞月だってあんなに乱れてさ」
私は真っ赤になった。それを言われると、強く抵抗できない。
「そう言えば、聞きたいことがあったんだ」
「な、何を?」
「瑞月が俺を意識し出したきっかけって、何なの?」
「そ、それは……」
私は目を泳がせた。
「もしかして、きっかけはあの夜か?」
私はぐっと言葉に詰まった。図星だったが、体から始まった関係のようで恥ずかしく、それを正直には言いたくなかった。
しかし私の様子からそれと察したらしく、彼は口元に意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そんなに良かった?」
「そ、そういうこと聞かないで」
私はぷいっと顔を背けた。
諒の嬉しそうな声が聞こえる。
「賭けに勝ったんだな」
「賭け?」
私は彼に目線を戻した。
「あの夜、賭けたんだ。お前を抱くことでお前に嫌われるか、あるいは俺を男として見てくれるようになるか、ってね。でも、きっかけなんてどうだっていい。お前が今こうして、俺の腕の中にいる。俺にとってこの現実が、何よりも大切なことなんだ」
諒はそっと私にキスをした。唇を離し、潤んだ目をして私を見つめる。
「瑞月。お願いだからもう諦めて、黙って俺に愛されてくれよ」
諒は優しく囁き、再び私の唇を塞いだ。
それを受け止め、幸せな想いに胸をいっぱいにしながら、私は愛しい幼馴染の背中に腕を回した。
互いの想いを通じ合わせた私たちはこの夜から、本当の恋人同士になった。
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